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第六話:催しの提案


 五時間目になり先生から文化祭の催しを決めるということで生徒たちに提案するように求めた。


 出されたのは射的、輪投げ、ビンゴゲーム、お化け屋敷、占い、演劇。模擬店ではメイド喫茶、たこ焼き、など縁日系のお店を委員長がチョークで書いていく。多すぎる提案に、どうしたものかと先生を悩ませる。


 最終的に多数決で決めることになり、箱の中に集まった紙をクラスの委員長が読み、先生が書いていった。クラスは比較的女子の割合が高く、男子の意見が通ることは低かった。そして選ばれたのがメイド喫茶と、着物ファッションショーになってしまった。


 先生はこれを見ていっそ混ぜててしまうのどうかという提案に女子たちは盛り上がり、女子たりの着物姿を見るのも悪くないという下心から『和風甘味喫茶』となった。


 朝日はこれに対して真澄に念話で話しかける。


『真澄?』


『はいなんでしょう、朝日様?』


 真澄は少し離れた席にいた。


『着物って確か合歓さんがたくさん持っていなかった』


『そうですね、確か…100着以上はあったのではないかと。帰ったら確認してみましょう』


『うん、そうしようか』


〇〇



「ええ、朝日様…今なんて」


 香散見は学校から帰ってきた朝日につめよった。いつもはキリッとした目尻が垂れ下がり、目をキラキラと輝かせる様子に朝日は苦笑する。


『まずったかな…』


 朝日と真澄は家に帰ってきて香散見と一緒にいた合歓に文化祭の話をしたら即座に食いついてきた。完璧に炊事、洗濯、家事全般をこなしてしまう藤次郎がいるのでやることが特にないのである。そんな時にだから余計にである。


「香散見さん、合歓さん、ちょっといいかな?」


 朝日が何やら恥ずかしがっている様子に学校で何かあったのかと考える。けれど朝日が他の子たちよりも長く生きているし、メンタルも強い、そしてそばには真澄も控えているので何があったのかとは考えにくい。その理由がすぐにわかった。


「今日、学校でね 文化祭の催し物の話があったんだ」


「文化祭ですか?」


 香散見の驚いた表情に朝日はクスリと笑った。


「そっか、もうそんな季節なんですね」


「はい、それで決まったのが和風甘味喫茶になりまして」


 香散見と合歓はそのフレーズを聞いて目の色を変えた。そして冒頭に戻るのである。

朝日が困る様子に真澄は興奮する香散見と合歓を宥めた。


「落ち着いてください、香散見さん、合歓さん」


 落ち着いた声音に二人は理性を取り戻す。


「申し訳ありません、真澄姉さん」


 二人はかなりの年月を重ねているが、真澄を前にすると妹のように見えてしまう時があると朝日は苦笑した。


「それで、その催しものをどうされたのでしょうか?」と合歓が聞いた。


「はい、衣装をどうするか考えていまして、和風ですので着物をアレンジした服装で食べ物を提供できないかと」


「それなら私が作ります」


 それに答えたのは合歓である。合歓は刺繍、裁縫が得意であった。


「予算の方は大丈夫でしょうか」


 それに答えたのは香散見だった。


「お金なんて持て余しているぐらいありますし、朝日様のために使えるなら本望です」


 嬉しそうに答える香散見に朝日は恥ずかしそうに笑った。


「それじゃ、めっちゃプリティなのを考えましょ。まずはデザインを考えるからモデルが必要ね」


 じっとこちらを見る目は獲物を捉えたかのようで朝日はゾクリとした。口元を引き攣らせながら早々に観念した。


「お、お手柔らかに頼むよ」


 朝日が解放されるまで半日かかった。そして翌日になり衣装を完成させた。


「で、できたわ」


「ええ、完璧ね」


 それを最後に力尽きたかのように二人はパタリと倒れた。その後に藤次郎はそれをみて困ったように笑った。


「全く、あんな楽しそうにしていたら止められないじゃないですか」


 普段は大人しく静かな二人が嬉しそうにしている姿を見て止めることはできなかった。志郎の代わりとしてここを守る以上は過度な接触は控えた方がいいのだが。


「私も存外、甘いな」


 藤次郎は二人に毛布をかけて一人呟いたのだった。翌日になり、朝日は藤次郎から出来上がった衣装を受け取った。二人はお礼を言おうと思ったが、疲れて眠っているとのことで帰ってきたらお礼を言うことにした。いつものように花月が迎えにきてくれて衣装のことを話した。


「え!? もうできたの」


「うん 香散見さんと合歓さんが頑張ってくれて」


 花月は試作品を見せると目をキラキラと輝かせた。


「これ、絶対にみんな喜ぶね!可愛い〜」


 花月からも絶賛され、朝日と真澄は自信を持ち学校へと向かった。


「まずは委員会の谷川さんに相談しないとね」


「うん、そうだね」


 歩いていくといつもの花屋さんの前にさしかかると麗人が花に水やりをしていた。そして花月たちに気づいて手を振ってくれた。


「おはようございます、りんさん」


「ふふ、おはよう 何かいいことがあったのかしら?」


 どうして言い当てられたのかと花月はびっくりして恥ずかしそうに笑った。


「そんなにわかりやすかったのですか?」


「そうね」


 ペタペタと花月は自分の顔を触る様子にりんはクスッと笑った。


「実は3週間後に文化祭があります」


「あら、そうなの」


「はい、一般の人も来られるのでぜひ来てください」


「楽しみにしているわ、花月ちゃんたちは何をやるの?」


「私たちは和風甘味喫茶っていう模擬店をすることになりました」


「甘いものが出るってことね」


「りんさんは甘いものは大丈夫ですか?」


「ええ、甘いものは好きよ」


「よかった」


「はなちゃん そろそろ行かないと時間が」


 すっかり視界の外にいた朝日と真澄の存在を花月は思い出す。


「あ、ごめんね それじゃ りんさん」


「ええ、二人ともごめんなさいね 気をつけて」


 少しむくれたようにりんをみる朝日に申し訳なく思った。


『ふふ、ヤキモチかしら 可愛いわね』


 そして朝日の隣にいる真澄の表情を見て笑うのをやめた。あの様子だと全然気づいていないわね。いつ気づくのやら。


『若いっていいわね』


 三人を見送りながら、りんは花の水やりを再開した。



〇〇



 谷川悠里


 小学校、中学校を卒業し、狭間高校を選んだのは単に家から近かったからである。

髪はおかっぱなのは長すぎるのも面倒くさく短すぎるのは首元が寒くなるのでこのヘアスタイルとなった。メガネをかけているのは生まれつき視力が弱いからである。その格好からか小学校の時は委員長を決める時になぜか自分が立候補されることが多い。


 別にそれを苦と思ったことはなかった。それは父の影響も大きかった。父は議員をしており、小さい頃から悠里は父の背中を見てきた。早熟するのも早く、天然でおっとりとしている母から残念がられた。


 狭間高校に入学すると何人か中学の知り合いがいたことにホッとした。


「久しぶり、谷川さん」


「うん、久しぶりだね」


 雑談していると、クラスのものたちはざわついた。なんだろうと思い見ると二人組の少女が注目を浴びていた。


 一人はロングストレートの黒髪はさらりとしていて、メガネをかけているが造形は整っている少女で、もう一方はセミロングの焦茶色の髪で制服でわからないがスタイルがいいのがわかる。


「あの二人は…」


 悠里は気になって知り合いに聞いてみた。


「あの二人有名人らしいよ」


「そうなの?」


 あまりジロジロと人を見るものではないが、なんだかあの二人に引き込まれてしまう。そう思いながら半年が過ぎたある日のことだった。


 文化祭が開催すると言うことで委員長になった悠里はクラスメイトと会話することが必然的に多くなる。その中で、まさかその一人から話しかけるとは予想外だった。


「あの谷川さん」


 朝礼の後に声をかけてきたのは代永朝日だった。その隣に平野花月と白河真澄、と烏丸桃華が立っていた。4対1という対面に悠里は少し面食らったがどうしたのかと返事をした。


「放課後時間空いていますか?」


「時間? 空いているけど」


 それに朝日の顔が安堵したのかわかった。


「実は文化祭のことで相談が」


「!」


 悠里はそれにいち早く頭を切り替えた。


「わかった、放課後空けておくね」


 隣にいた平野花月がよかったねというと代永朝日は嬉しそうに顔を綻ばせた。


『ほんと仲がいいわね』


〇〇


 そして放課後になり、誰もいない教室で朝日は合歓と香散見が作った力作を悠里に披露した。


「これは」


「私の…いとこがデザイナーをしていて文化祭の話をしたら、無償で提供してくれるみたいで…衣装にどうかなってことなんだけど、書面が必要なら用意するって」


 悠里は衣装を見て、その精巧な作りに感動した。素人でもわかるぐらい、お金がかかっているのもわかるからだ。悠里は好きなものは好きだが、可愛いものはもっと好きだった。


 悠里の前向きな返答に朝日、花月、真澄、桃華の表情に緊張が少しほぐれたのがわかった。そのまま、朝日、花月、真澄、桃華、そして悠里とともに職員室に赴いた。職員室に行くと先生がいて廊下に呼び出した。


「どうしたこんなに大勢で?」


「すみません、先生 文化祭のことで少し相談がありまして」


 衣装のことを話すと、快く了承してくれた。


「いいんじゃないか、可愛くて」


「ありがとうございます」


 朝日たちはその一言にホッとしたのだった。たった数分の出来事だったが、緊張感に包まれた出来事だった。この共感が朝日たちにとってくすぐったいものになったのは確かだった。


「ありがとう、代永さん 話をしてくれて」


 正面から礼をされて予想だにしていなかった朝日は驚いた。


「え、私は何もしてないですよ。私のいとこがすごいだけなので」


 自分は何もしていないと謙遜する朝日に対して悠里は好感を抱いた。


「代永さんがこの話をしなかったらこの話もなかったと思います」


 褒められることに慣れていない朝日は恥ずかしくなり、視線を背けるが花月からも生暖かな視線を向けられて生殺し状態となった。真澄は主人が褒められていることにご満悦だったが、そろそろ助太刀することにした。


「後は決めるものはなんでしょうか?」


 真澄から話を聞かれ、悠里は切り替えた。


「そうですね、次は模擬店のメニューを考えないといけませんね」


「そうですか、あまり凝ったものは作れませんね」


「確かに…明日衣装をクラスにお披露目できたらって思うんだけど。代永さん、いいかな?」


「それは もちろん」


 朝日は元気よく答えた。朝日たちは家に帰ると香散見と合歓は報告すると喜んでくれた。嬉しさのあまり反動で朝日の脇の下を持ち上げられた。華奢であるとはいえ、力は士郎譲りなのだと実感する。


「よかった〜、学校側がダメじゃなくて」


「うん、この衣装、クラスの委員長の谷川さんがよく作られているって褒めていたよ」


「それほどでも」


 香散見はデレデレと笑い、表情があまり豊かではない合歓も笑った。それから夕ご飯の支度は香散見と合歓が張り切ったのだった。


〇〇


 そして翌日になり、クラスの反応は衣装を見た瞬間に好反応であった。


「ええ、めっちゃ可愛んだけど」


「これ着れるの!?」


 女子たちはきゃきゃと声をあげているのに悠里は一応注意した。


「無償っと言ってもご厚意ですので大事に大事に扱ってください。」


「は〜い」


 男子たちは衣装を見て鼻の下を伸ばした。


「おお、いいんじゃねえか」


「女子はこれ全員着るのか?」


 男子のポツリとした一言に悠里は答えた。


「そうね、給仕するだけの人とか絞った方がいいかも、私は料理が得意だから補助の方がいいかな」


 朝日は嫌な予感がし早めに芽を摘んでおいた。給仕をするのは花月と真澄と桃華と女子の数人、料理は5名ですることになった。その日、学校側から与えられた予算でメニューを考えて決まったのだった。


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