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第四話:あやめ

文字数少なめです。



 まずは香散見が襖を開けたことに朝日が気づいた。


「あ、終わった?」


「ふふふ、待たせてしまったね」


 香散見の不穏な笑いとおかしな口調に朝日は口元が引き攣った。


「それではご覧あれ!」


 襖から出てきた人影に朝日、真澄、合歓、そして聖子は目を見開いた。


「安久くん…?」


「はい」


 出てきたのは上はブラウス、下はズボンを履いているシンプルな格好だった。髪型がショートから長髪になっておりリボンで結ばれていた。


「ど、どうでしょうか?」


 じっと全員からの視線を集まり、何も言われないことに安久はどうしたものかと不安になり近くにいる聖子に助けを求めた。


「聖子さん、どこかおかしいところはありますか?」


 不安そうに見上げる美少女の姿の安久に聖子は思わずたじろく。


「いや…その似合いすぎていて、びっくりしてね。よく似合っているよ」


 その言葉に安久はほっとしたものの、女装が似合っている言葉に複雑な気持ちを抱いた。


「良かった」


「姉さん、なかなかの逸材だったわね」


 合歓は安久を大変身させた香散見の変装術を褒めちぎった。


「ふふふ、それほどでも」


 可愛い妹に褒められた香散見は得意げだったのを他所に朝日は心配になり安久に声をかけた。


「大丈夫でしたか?何もされませんでしたか」


 心配そうに伺う朝日に安久は思いだし、その場で土下座した。


「うえ!!? どうしたの」


 いきなりの挙動に朝日達は目を白黒とさせる。


「私、あなたにお礼を言っていなくて、助けていただいてありがとうございます!」


「え、あ あ〜〜」


 香散見と一緒にいた時に自分が御影ということを知ったのだろうか。


「私が、ううん…僕だけの力じゃどうすることもできなかった。みんなの力だよ。聖子さんと仲良くしてください」


「はい!」


 目頭が熱くなり安久は涙が溢れた。それを見た聖子は優しく拭き取ってあげた。そこでようやく、電話で席を中座していた藤次郎が帰ってきた。


「お待たせしました…この状態はいったい何です?」


 謎の美少女が朝日に向かい土下座しているのを見て、藤次郎は面食らってしまった。それに朝日が説明する。


「えっと、この人は安久さんだよ、藤次郎くん」


「え、ああ! 香散見の変装術ですね」


「はい」


 安久の声は一般男性に比べると高い方であるが、しっかりと聞くと男性だとわかる。今度は藤次郎からじっと凝視されたが、何かを考えている様子に安久は気になった。


「そうですね。新しい身分証明書を作らないといけないのですが、名前を新しくするので考えていただけないでしょうか」


「名前ですか?」


「名前はしっかりと決めた方がいいので「あの…」」


「あやめという名前にしてもらっていいですか?」


「…構いませんが、考えなくて大丈夫ですか?」


「はい、この名前でいいんです 多分、しっかりと考えてもこの名前以外には浮かばないと思います」


「…分かりました」



〇〇



 その後、二人はまだご飯を食べていないということを聞いた朝日は一緒に昼ごはんを食べることになった。野菜たっぷりのカレーライスに色とりどりの野菜サラダに安久は懐かしい気持ちになった。ご飯を食べ終わり、今後のことを話しあい二人は帰り道を歩いていく。


「安久くん…じゃなくてあやめだったね。本当にその名前でよかったのかい?」


 名前とは重要である。それを即断で決めるのは藤次郎に聞かれた時に助言しようかと思ったが安久の決意した声に聖子は躊躇したのだ。


「いいんです。この名前は…実は僕の姉『だった』人の名前なんです」


 過去形ということに気づいた聖子は追求してもいいかと思ったが話を逸らすのもと思い、そのまま話を進めた。


「…というと、その人は…」


「はい、母が最初に産んだ子が女の子だったらしく、流産してしまい、そのまま…。僕に姉がいたと知ったのは小学生の時でした」


「そうだったのかい、お姉さん。きっとびっくりすぐだろうね、弟がこんな美少女になっちまって」


 聖子はまるで姉が生きているような口ぶりに安久は何だか嬉しい気持ちになった。男性なのに美少女と言われるのは少し、いやだいぶ複雑な気持ちだが。

 

「はい、きっとびっくりして…でも綺麗だねっていってくれると思います」


 照れくさそうに安久は笑った。それに聖子は目を細め優しく見つめた。それぞれに思いを馳せながら安久たちはアパートへと戻って行った。


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