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第十九話:御影様の初仕事と少女との出会い

 人間の子供を襲う妖怪がいるのでそれを退治するのが朝日の初仕事だった。面相がバレないためにお面をつけた。


 一人の女の子が夕暮れ時を駆けていた。友達の家で遊ぶのに夢中になっていて、家に帰るのが遅くなってしまったのだ。


 今は昭和の時代、電気が普及していても外灯はあまりなく薄気味悪さに自然と足が速くなる。


『早く家に帰らないと、おかあに怒られる』


 小走りで帰っていると、後ろから物音がした。何だろと後ろから振り向くと目ん玉がギョロリと動き、女の子と目があった。 


 人間ではない生き物と遭遇した女の子は恐怖で腰が抜けてしまう。


「ひひひ 美味そうな子供の肉だな〜 しゃぶり尽くしてやる」


「きゃあああ」


 妖怪が女の子に襲いかかろうとした刹那、停止する。


 動けなくなったわけではなく、真っ二つに両断された妖怪は断末魔の叫び声をあげた。


「ぎゃああああ」


 妖怪は瞬く間に煙のように消え、お面をかぶった黒い着物を着た子供であることに気付いた。


「誰…ひっく……」


 お面をかぶっているため、泣いている女の子は子供の性別が分からない。子供は安心させるように話しかけた。


「もう大丈夫だよ…家まで送るね」


 子供は女の子の手を優しく握り、一緒の歩幅で歩いた。


「あっ、私のお家」


 女の子は指をさした方向に民家があった。


「お家について良かったね」


「うん 助けてくれてありがとう お姉ちゃん」


 女の子は手を振り、家の中に帰っていった。


「うん…良かったね」


 女の子の言葉が彼にグサりと突き刺さった。


『お姉ちゃん…お姉ちゃんか…』


 初仕事が朝日の傷心以外に無事に終わり、幾年月が流れる間、人を助け、守ってくれる影のような存在「御影様」と呼ばれるようになった。


 そして人間の世界に慣れるために、人間の幼稚園に入り、朝日はやがて彼女と出会うことになる。



〇〇



青い空に白い雲。


 晴れた天気で幼稚園の子供達が外で元気よく遊んでいるのに一人の女の子は外に出ずに、絵本を黙々と読んでいた。


そうしていると、一人の女の子から声をかけられた。


「朝日ちゃん、お外に遊びに行こう」


「えっ」


 せっかくのお誘いだが朝日がどう断ろうか言いよどんでいると、先生が近寄ってきた。


「みさちゃん」


 声をかけたきた女の子はみさという名前である。先生は優しくみさに話しかけた。


「朝日ちゃんは体が弱いから、お外に遊びに行けないのよ」


「そうなの?」


「うん、ごめんね」


 朝日はコクリと頷いた。残念そうに肩をしょげて去っていく姿を見て申し訳なくなった。

 幼稚園に入園して、はや数日となり、子供の元気さに圧倒している。

 外見年齢は一緒でも、中身は100歳以上も違うのである。見方によれば、ひ孫とおじいちゃんと見られてもおかしくないのである。


 それから少し経ち、また一人の女の子が近づいてきた。朝日は目線を上げるとさっきの子がまた来たのかなと思ったが、違った。


 トクンと胸が高鳴ったような気がした。


 濃い茶色の髪の毛が肩の下ぐらいにあり、瞳がバッチリとした可愛らしい女の子だった。女の子に朝日は声をかけられた。


「ねえ、何の本を見ているの?」


「外で遊ばないの?」


 またおなじみの質問に朝日は助けを呼ぼうとするが、あいにく近くに先生は見当たらない。女の子は律儀に返事をじっと待っている。


 先生が帰ってくるまで返事は待たせるわけにも行かないので、朝日は答えた。


「え…と 私は体が弱いから先生からあまり外に遊ばないほうがいいって言われたの」


 子供に質問されてもいいように練習していた甲斐があったと、感慨深くなる。


 ここ数日、断ることも徐々に慣れてきて一人の時は時間を潰しかたは慣れていたが、行動範囲は制限されているため、やれることは限られてくる。


 誰か話し相手になってくれないかと思っていた矢先のことだったので尚更である。


 けど、これでこの女の子と話せなくなるのかとさみしい気持ちになった。

 それは朝日がどう思うおうと彼女の返事次第である。


「そうなんだ」


「それじゃあ私もここにいていいかな?」


 朝日は思わず吃りそうになったが、なんとか頷いた。


「う…うん! いいよ」


 朝日は思わず笑っていて、それを見た女の子が笑い返してくれた。


「名前なんていうの」


 首を傾げながら、女の子が名前を聞いてきた。


「あ…あさひ。 よなが あさひ」


 朝日は女の子の名前を聞いた。


「私はひらのかづき」


「あっ……でもかづきって名前は恥ずかしいから。 はなって呼んでね」


 当て字にすると「花月」かなと考えて、風流な名前だなと感じた。


「どうして?」


 朝日は首を傾げて尋ねる。


「前に男の子に「かづき」って男の子の名前見たいって言われたから」


 しゅんと花月は落ち込んだ。


「それからお母さんにいったら、私の名前の「花」は「はな」とも読むのよって言われて」


「それでお母さんから、はなって呼ばれているんだね」


 花月はコクリと頷いた。


「うん」


『多分、それはこの子の気を惹きたくて言っちゃったんだろうな』


 どんまいと知らない男の子に、肩の手に乗せたい気持ちになった。


「それじゃ はなちゃんって呼ぶね」


「うん、ありがとう朝日ちゃん」


 そして二人は次第に仲良くなり、一緒に行動することが増えていった。


 送り迎えするときに志郎と真澄と知り合い、その時に花月の両親に出会った。送迎の時に朝日は花月と手を振りあった。


「はなちゃん 可愛らしい子ですね」


「うん、そうだね」


 即答する朝日に、志郎は口元をにやつかせた。


 その笑いに朝日は「何だよ?」と聞いたが、「いいえ、何も」という返事にやきもきした。


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