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第一話:憂鬱な朝

ピピピピピピッ。


「はあ…もう朝か」


 私の名前は平野花月。


 夢からうなされるように目覚めた私は、見上げていた天井から視線をずらし部屋の主人を起こそうと鳴り響く昨日設定した目覚まし時計を見た。


 目覚ましの音……と意識はあるのだがまだ寝起きでいるのでぼんやりとしている脳は定かではなく、起きようとはするものの十分に頭が働かない。


 私は虚ろげに時計の針が何時を示しているかを見た。時計の針は6時を指している。


 起きなければとは思うが、この夢を見るときはいつも眠りが浅く気分が晴れない。まるで自分がそこにいるような感覚に襲われるからだ。


「また、あの夢……」


 いつもそこで夢が終わってしまい、その続きを見る事も無く目が覚めてしまう。


 その続きを気にならないと言えば嘘になる、けど早朝にそのいささか凄惨すぎる光景の続きを見たいとはどうしても思えなかったし寝覚めが悪すぎる。


 夢を見るには見るが、いつもその内容を全部覚えているわけではない。目を覚ます時は結構忘れている事が多いのが不幸中の幸いか。

 

 けれど、胸の中に残っているあの言葉が頭から離れない。誰に謝っているのかも、どうしてこんなにも胸が痛くなるほど切なくなるのかも十六の年月が過ぎても未だに分からずにいる。



「ダメダメ、怖いこと考えちゃーーだって今日は入学式なんだから」



 ベットから起き上がり、気持ちを切り替えるように私はまだ閉じていたカーテンを開け、鬱屈とした気分を晴れさせるかのように燦燦とした太陽の光を身体中に浴びながら背伸びをした。


 今年で16歳になり、私は高校生になる。


 肩より少し長めの焦げ茶色の髪と茶色の瞳を持ったどこにでもいる普通の女の子である。普通ではないことを話すなら私は中学の時、両親を失った。


 中学の時、家で留守番をしていた時のこと、一本の電話があった。


『平野さんのお宅ですか』


『はい!平野です。 どちら様ですか?』


『警察のものですが、誠に残念ですがご両親が事故に遭いお亡くなりになりました』


『……えっ』


 突然の訃報だった。


 両親が交通事故で亡くなったと警察の人から電話があったことは覚えている。その後の事はあまり覚えていない。


 両親が死んだという事実を受け止められなくて、ただ呆然と葬式の準備などが滞り無く済まされる過程を無気力に見ていることしかできなかった。


 父の名前は平野(いつき)。植物のことを研究する学者で、母の名前は花恵(はなえ)と言い児童文学の絵本作家だった。


 両親を慕ってくれた大学の人達、出版社など仕事に携わった人々が大勢来てくれたことに驚いて嬉しい反面、対応の忙しさで孤独感を紛らせることができた。 


 親戚の一人からその後どうするかと聞かれたが答えようがない。まだ十四歳の子供に選択肢があるのだろうか途方に暮れる。


 亡くなった両親はあまり人との交流も気にしなかった為、親戚とはいえ面識はうろ覚えである。


 後見人になってくれるというご好意はとても有り難かったけれど、お世話になることは、この家を離れなくてはいけないと思った私は考えた。


 生まれてから両親とずっと暮らしてきたアパートを離れるのが嫌だった私は親戚にお願いをして迷惑をかけない事を条件に成人するまでの間はその人にアパートの連帯保証人になってもらうことになった。


 親切な親戚の一人から聞いた話によると両親が倹約家だったお陰で、私が成人するまでの学費など少しずつ貯金していたらしい。


 私はひもじい思いや貧乏に苦しめられることなく、日日充実した毎日を過ごしている。


〈変な夢を見ることと、とある秘密を除けばの話だがーー〉


 寝室に掛けてあったハンガーから真新しい白のブラウス、紺色のスカートを取り、紺色のブレザーに赤色のリボンを首元に順に着てボタンを留めて洗面台にある大きな鏡で身だしなみを整える。


『お母さんとお父さんにこの姿を見せたかったな……』


家を出る前に忘れ物がないか確認をする。


「よし、忘れ物はないっと……」


玄関前に置いている家族の写真立ての前に私は両手を合わせる。


「今日から高校生になるよ、行ってきます お父さん お母さん」


 挨拶をして、鍵を閉めて家を出た。私は小中学校は隣の区で高校もあるのだが、そちらは受験しなかった。

 

 特に夢や大人になってやりたい事が無かった私は、家から近いという事と幼なじみと親友が入学することも大きい。

 

 誰も知り合いのいない高校に行くとなると、かなりの勇気が必要であるし、最初の友達作りを失敗するというブルーな気持ちになることも無く軽やかな足取りで歩いた。


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