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第四十九話:暖かな日差しの中で【第六部:完】


 収容された安久はどうしてうたかというと本を読んでいた。


 収容されている身として処罰されるべき境遇なのだが、若くして殺された青年、生前の行いを鑑みた陰陽局は鬼族であるが、狭間区に関わりのある聖子の知人ということで特に罰することなく軟禁状態にするにとどめた。


 外に出ることができないので自由ではないが、リクエストがあれば本を届けてくれることはありがたかった。収容されてから数日たったある日に阿倍野が面談しにやってきた。


「生活に不自由はありませんか」


「はい、おかげさまで」


「それは良かった。あなたにお伝えしたいことが三つあります」


「三つ?」


「はい、一つはあなたのご家族が警視庁にこられまして、そこであなたの遺体を偽装しました」


「偽装?」


「あなたが今の状態では説明をしても、まずは信じることはできないでしょう」


「!」


 阿倍野は本人にとっては厳しいが安久に本当のことを告げる。安久はどうしてそんな勝手なことをしたという気持ちになる。それを感じ取った阿倍野は頭を下げた。


「すみません、まずはあなたに確認するべきでした」


 自分が死んだということを伝えることは了承していたが、家族に遺体を見せるまでは想定していなかったのだ。それだけが蟠りであった。それに感情を吐き出しそうになる。だがそれは安久も自分の所業を思い出し何もいえなかった。


「謝らないでください…いえ、僕が怒るのはお門違いですね…我を失っていたとはいえ人を殺めたんですから、重い罰になっていてもおかしくないですよね」


「それは…処罰されていたらあなたは鬼族ですのでここよりもっと厳重な収容所に移動になっていたでしょう」


 それに安久は気持ちを切り替えるように考えた。


「だけど僕は軟禁されているだけ、誰かが手回ししてくれたんじゃないんですか」


「はい、聖子さんと後は青野さんですね」


「青野さん?」


「ええ、あなたと一度会っているみたいですよ。その時は足立刑事と立川刑事と一緒にゲーム会社の調査に赴いたと聞きました。そしてあなたがそこにアルバイトで働いていたとの情報が」


 その瞬間彼に受けた衝撃で腹に攻撃を受けてしまいそれで数日も寝込むことになってしまったのだ。その時のことを思い出したくなかった安久は口元を歪ませた。


「ああ、あの人ですね」


「なんだ、何かあったのか」


 安久の反応に加茂野は思い出したように口に出した。


「そういえば調査書にその青年を攻撃したって記載されていたな」


「はい…まあ、そうですね」


 阿倍野もそういえばと調査書に書かれていたのを思い出し、詳細を聞こうとするがよほど思い出したくないのかさっきまで元気はどこへやら顔色が青白くなっており視線を逸らす始末、よほど痛い目に遭ったのだろうと鑑みて言葉をとどめた。



「その人が僕のことを?」


「はい」


「あの人容赦なさそうだもんな」


「…」


 加茂野は軽口を叩くが安久は無言で肯定したのだった。そろそろ話題を変えようと阿倍野は話を進めた。


「もう一つ話があるんでした。あなたの妹さん菜乃葉さんの話なのですが」


 唐突に、どうして家族である妹のことが出てくるのかと安久は首を傾げる。


「立川さんという刑事がいらっしゃるんですがその人と話をしたみたいで、そこで彼女がこう言ったみたいなんです」


『私でも、女性でも刑事になれますかと』


「…え、刑事?妹の菜乃葉がどうして」


 妹の考えがよくわからなかった。小さい頃はケーキ屋さんになりたいと言っていたが、今の夢は何を考えているのか分からない。パニックになっている彼をみて加茂野は話をした。


「兄は強くありませんでした。だけど悪い人たちから殺されてしまった 私は少しでも多くの人たちを守りたいだったかな」


 それに阿倍野はうなづいた。その言葉に安久の瞳から涙が溢れた。



「妹がそんなことを…」


「はい、立派な妹さんですね」


 安久はあまり人前で泣く方ではない。家族を貶めた豊島に復讐するためには弱点を知られるわけにはいかない。強く生きるために自分なりに家族に被害が及ばないように家族との縁を断ち切ってきた。けれどそれだけで切れるものではない。一方的に縁を切っていても母と妹は兄のことをずっと心配していたのだ。



 勝手なことをしてきた自分に泣く権利があるのかと思いながらも涙が止まらない。死んだということになっているので、もう妹には会うことができない悲しみと辛い思いをさせてしまった後悔が入り混じる。


「はい、僕にはもったいない妹です」


 少しして阿倍野は話を進める。


「それと最後に火原は陰陽局の特殊な監獄に入れられています。なのでもう会うことはないでしょう」


 そのことを聞いて安久は安心した、命の恩人ではあるが人に害を与えることに躊躇いもしないし、そして危険すぎる存在である。


「そうですか…」


「会いたいですか?」


 それには首を横に振った。


「あの人は命の恩人ですが、同時に危険な人物です、あんな簡単に人を淡々と殺そうと…」


 精気を奪うまでは良かった。だが人の魂を抜き取ることを目的としていた豊島に安久はたとえ相手が復讐したい相手でも踏みとどまった。それを止めたのは聖子がいたからである。


「明日のことなんですがあなたは明日釈放される手続きになっています。その時に迎えが来られますので」


「迎え?」


「はい、迎えとあなたの保護者にもなる人ですね」


 安久は誰が迎えに来てくれるのか全く検討がつかなかった。家族にはもう会うことはできない。自分に迎えにきてくれるほどの親戚が思いつかなかった。加茂野はその表情を見て羨ましそうに見ていた。







〇〇






 そして翌日になり、安久は収容所の入り口に向かった。そこでようやく拘束の術がかけられた紐が解かれる。


「玄関に迎えの者がいますので、それでは」


「はい、ありがとうございました」


 加茂野と阿倍野にぺこりと頭を下げて、前へと進み出た。青い空に白い雲、そして吹き抜ける風がとてもやさしく感じた。



 これからどうやって生きていこうか。


 まずやるべきことは決まっていた。聖子さんにもう一度会ってお礼をしたい。そうだ。これから迎えに来る人に聖子さんがいる場所を聞いてみよう。安久は久しぶりに誰にも誰にも縛られない自由を感じていた。その自由はとても心地が良く落ち着かないが心が満ちた感じである。


 保護者になる人なら失礼にならないように気を引き締めた。門を出て人影が見えてどんな人物だと思い、その門の横で待っていた人物に驚愕する。



 そこにいたのは最初に会いたかった聖子さんだった。


「え…」


 安久はそれだけしか言葉にできなかった。まさかここで会えるとは到底思っていなかったのだ。


「ふふ、元気にしていた?」


「は、はい 僕は元気です、どうしてここに」


「あんたを迎えに来たんだ」


「迎えって、聖子さんが、ここに迎えが保護者のかたが来るって」


 他に人がいないかと探すが聖子以外誰も見当たらない。聖子は安久の驚きように察しがついた。


「うん? 話をしていなかったのかね あの二人は」


 やれやれと聖子は面白そうに画策する阿倍野と加茂野の計らいに苦笑する。それに安久はうなづくしかなかった。


「はい…」


 パニックになっている安久は固まっている。そんな彼をみておかしそうに聖子は笑った。


「それじゃ、まずは帰ろっか」


「帰る?」


 それにどこへ帰るのか安久は疑問になった。もちろん彼女の家かと思ったが、安久は聖子の家を知らない。バーの主人であることは知っていたが。


「ああ、私が住んでいるところがあってね、狭間区っていう血が繋がっていないが家族のような感じでね、まあまずはみんなに紹介しないとね」


 聖子は笑いながら手を差し伸べた。太陽の下で笑う彼女をみて安久は顔が熱くなり、恥ずかしそうに手を伸ばした。


 暖かな日差しの中で二人は寄り添いながら歩いて行った。


第六部の投稿が終わりました。

最後まで読んでいただいてありがとうございました!!

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