第四十八話:兄を殺され絶望した妹は決意する
『兄が死んだ』
頭が痛い…。
何も考えられない。
どうして私から大切な人を奪うの…。
許さない…。私から奪うなら。
検死の必要は無く今回の目的は彼と家族を再会させるためである。高橋安久の母と妹は警視庁に向かい足立と立川に挨拶をした。
「ご足労をありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、お世話になります」
ぺこっと頭を下げた女性は安久の母の理恵子で、その後ろにいる小柄な少女、安久の妹である菜乃葉である。黒のズボンに上はダボっとしたパーカーである。
高校生ぐらいだろうかと立川は勝手に推察する。警視庁に制服で着ていたら目立つだろうし、どこからか情報が流れるかわからない。この無秩序なネット社会であるし制服がわかれば特定されかねないので私服で来るようにと言った。
二人とも緊張した面持ちであるがどちらかというと娘の方が冷静である印象がある。それが立川は少し不気味であった。
安置所に来て横たわっている彼を見て我慢をしていたのだろう母の瞳から溢れるように涙が溢れた。
「やすひさ…っ」
嗚咽を漏らす母親の姿に足立は少し二人にしてあげようと告げた。母親の姿に胸に迫る思いをしたがなぜか妹の方が気になった。彼女は泣きそうになっていたが泣くのを堪えているかのようだった。
「あの妹さん、大丈夫ですかね」
「ああ、あの目はちょっと気をつけた方がいいな」
「はい…わかりました」
足立の言葉に否定したくなったが、即座に否定できなかった。彼女はもう二人、家族を失っているんだ。感情的になっていてもおかしくはない。そして一時間が経過して、また安置所に入った。
「高橋さん、すみません もう時間が」
「はい、すみません やすくん、もういくね それじゃあね」
最後に母親が呼んでいた子供のあだ名なのかそう言い残して立ち去った。犯罪行為により死亡、または重く被害を受けたものには支援される犯罪被害給付制度というものがある。もちろん高橋恵理子と菜乃葉も対象となる。
足立は母親に説明している間に立川が妹の相手をすることになった。
「何か飲み物とか飲む?」
「いいえ、あまり喉が渇いてないので」
「そ、そう。女性とかの方が良かったかな」
立川は女性と話すのは割と得意だが、女子高生となると話が合わなくなのは年の経過を感じる。なんとか話をしようと立川は言葉を紡いだ。
「え?」
自分の言葉に関心を示した彼女に良かったと思いながらその話題に話を進めていく。
「女性の刑事もいるし」
「女性…刑事って女性でもなれるんですか」
翳りがありどこも見ていなかった目が立川を凝視する。その瞳に立川はじっと見つめた。
「そうだね、数は少ないけど活躍している女性刑事もいるよ」
その言葉に嫌な予感がしたが、時間は止まってくれない。そして立川は望んでいない言葉を彼女はか細く声を上げた。
「…私でもなれますか?」
彼女の真剣な眼差しに立川は目を逸らすことができなかった。そらしちゃいけないと思った。立川は本当のことを告げた。
「君が諦めなければ」
「!」
その時兄の偽の遺体であるが対面して流さなかった涙が少しだけ彼女の瞳から溢れた。ポロポロと泣く彼女に立川は持っていたティッシュを渡した。
そこで刑事になるためにはどうすればいいかと話をした。
「今日はありがとうございました。また何かわからないことがあったらご連絡を」
「はい、少しスッキリしました。今日は本当にありがとうございました」
深々を頭を下げて彼女に声をかけた。
「行きましょう、菜乃葉」
「うん、立川さん ありがとうございます 色々と教えてくれて」
彼女の元気そうな顔に母親と足立は驚いた表情をしていた。
「立川さん、娘の相手をしてくれてありがとうございます」
「いえ、僕は何も」
恐縮しているが立川はただただ思ったことを話をしただけである。
「私、絶対なりますから」
ポツリとした言葉に足立は気になった。そう言い残した彼女は去っていった。
「彼女、何になるんだ」
「えっと、刑事になるって」
「は、刑事!?」
足立は彼女の後ろ姿を見て目を瞬いた。
『兄は弱い人はありませんでした。だげど悪い人たちからすると邪魔で殺されてしまった。私は少しでも多くの人をそんな人たちから守りたいって』言っていました。
もっともらしい彼女の言葉に足立は少し考え、立川に何かを言いかけたがうなづくにとどめた。
「そうか…そうゆう人たのためにか復讐に走るよりはいいかもしれないが」
「はい、危険は無くならないでしょう」
立川はそのことを重い気持ちにになりながら陰陽局の阿倍野に電話をかけた。そして彼の母と妹に偽の遺体を合わせたこと。そして立川は阿倍野に話をしたことを告げた。
「そうですか、刑事になりたいって」
「この話は彼にした方がいいでしょうか」
「そうですね、話をしてみます」
火原と共謀していた安久は陰陽局に収容された。阿倍野は収容された安久の元に向かった。
立川はここまで殺人事件を数年かかってきてそこそこの場数を乗りこなしているが、それは10年以上の年数に遠く及ばない。人間はそう割り切れるものではない。
立川は被害者の身になりすぎて、彼女のメンタルが危ういことになっていることに気づいていない。そこが立川の長所で短所でもある。足立は彼女の心の闇に気づいていた。だがそれはあくまで他人同士、おどこまで推しはかれるかは家族でもわからない時はあるだろう。
自分なら家族を殺されたらどう思うか、想像に難くなかった。
〇〇
殺してやる。
私から奪うのなら。