第四十六話:安久、過去を話す
阿倍野に警察に自分が死んだことを家族に電話をしないと行けないと聞かれた安久は少し躊躇したが、重々しくうなづいた。
〇〇
その翌日、安久は陰陽局に連れていかれ取調室に連行された。聖子は別室で待つことになった。
安久は赤裸々に自分の過去を語った。豊島をどうして殺そうと思ったのかそして、火原とどう出会ったのかを聴取される。
「それじゃ 取り調べを始めますね」
「はい」
「あなたは人間だった時の名は高橋安久で間違いありませんか?」
「間違いありません」
「あなたは高橋安貞さんと高橋理恵子さんの間に生まれ、妹さんが一人いらっしゃいます」
「はい」
「あなたのお父さんは会社の経営をしていましたが、その後会社を辞められていますね」
「父は、辞めたかったわけではありません」
安久はそれにすぐさま反論した。やっと本当のことを、口を噛み締めて言える。あの時の真相を。
「裏切られたんですよ。当時、父さんの部下だった豊島という男に、あの男は父さんの会社の株を外国に売っていたんです。このことが発覚して父はどういうことだと問い詰めましたが」
「こうなるとは思っていなかったと、自分も騙されたといい、謝罪する彼に父は許し、
それから父は会社を辞めざるおえなくなり、家を売り、僕たち四人家族は田舎で暮らすことになりました。それでも良かったんです。四人でまた生活ができるならどこでも、けど父は社長職以外やったことんがない人だったので苦労が積み重なったと思います。ある日、事故に遭いそのまま亡くなりました。一生懸命に働いてくれた父のことを尊敬していますし、今も変わりません。そんな時に葬式であの男、豊島と再会したんです。あの男は父が亡くなったことを弔いに来てくれたと思いました」
けどそうではなかった。彼は父が死んだことを嬉しそうに笑ったんです。
「僕はその時、何かがおかしいことに気づきました」
だから僕の父の会社だったところに就職に行きました。成績優秀だった僕はすぐに豊島から気に入られ、彼の娘からも気に入られました。
そして見つけたんです。あの男が父から奪ったという株の売買契約書がその男の豊島の名前になっており、多額の配当金が入っているということを。
警察に行こうと思いましたがその前に豊島に勘づかれてしまい、彼に雇われていたヤクザにボコボコにされ山の中でそのままーー
阿倍野と加茂野は真相を静かに聞いた。
「そのまま亡くなったんですね」
「はい、そして声が聞こえたんです。恨みを晴らしたくないかと」
「そこで出会ったんですね、あの火原という鬼族に」
「はい、死んでもこの世に残る怨念が彼を呼んでしまったらしく、呼びかけられました。恨みを晴らしたくないかと」
そしてそこで火原の声に応じました。あの男を殺したいと願いを。火原は精気を集めること、あるものを探して欲しいと命令されました。
「ある者とは?」
阿倍野と加茂野は目を合わせた。
「今年の夏、VRゲーム事件で意識不明の人間が多数出たとニュースが流れましたね」
「あの事件ですね」
「その事件の首謀者の名前は傀、と言って火原と同じ血族だったらしいです」
「!」
初めての情報に阿倍野と加茂野は驚いた。そして事件が解決に導いた優勝した者を調べて欲しいと…なのでゲームが好きな女性を見つけていたら知人が多いある女性と出会いました。
それが田畑菜々さんっていう人で。その女性がゲーム経験者でしたが他の女性以上に長く居座ってしまい彼女を衰弱させてしまったんです。
僕は別れを告げて鍵を返しに行った時に酔った彼女を介抱してくれたのが彼女の友人の夏実さんと、知り合いの聖子さんでした。
「なるほど、そこで繋がるんですね」
聖子が狭間区の人間『ではない者』ということは阿倍野と加茂野は織り込み済みである。
「そしてそのあと彼女から助けられて打ち明けるようになりました。自分は妖で彼女は人間だと…思っていたので超えては行けない一線がありました、そしてもう会わないと思っていたんです」
花火大会で豊島を殺そうと思ったのですが、彼女が現れるなんて思いもしなかったので。そのことに安久はおかしそうに少し笑った。
それから僕が彼女を庇ったら火原から契約を切られて殺されそうになり瀕死の重傷を負いました。
そこで聖子さんの仲間が駆けつけての僕は聖子さんに助けられました。ここまででしょうか、僕の話は。
その言葉に阿倍野はうなづき、安久を別室へと移動する。そして次の聴取の聖子は呼ばれて取調室に向かった。
「こんにちは、阿倍野裕司でこちらが加茂野照良です」
「狭間区在住の真砂聖子さんでよろしいでしょうか」
「はい、よろしくお願いします」
しっかりと相手を見据え、凛としたただ住まいで聖子は答えた。聖子と安久の出会いなど合致しており、食い違うところはなかった。
「あなたには一つだけわからないところが」
「はい、なんでしょう」
「どうして妖気が暴走することになったのですか。いくら仲がよくても自制心が強い狭間区のものがそうなるとは考えにくいのですが」
「…これは私の話なのですが、昔、私好きな人がいてね、その人と彼は瓜二つだったの、その人が殺されたときのことを思い出してしまったのよ…あれからもう数百年経っているのに、だからといって周りに周りに迷惑をかけるのは許されることじゃないが」
聖子の沈痛な面持ちにどれだけの凄惨な過去があったのか阿倍野と加茂野は推しはかることはできない。あまりにも現実味はずれした話だが嘘を言っている感じには見えなかった。そして彼女は人間はない、目の前にいるのは長い時を生きる妖なのだ。だからこそ言葉は慎重に選ぼうと阿倍野は言葉を迷っていると加茂野が問いかけるのが早かった。
「それでは自分のしたことを後悔している?」
加茂野の問いに聖子は首を横に振りすぐに答えた。
「いや、きっと私はすぐに負けてしまうよ。もう2度と味わいたくない、あんな思いは」
その言葉に阿倍野は口を開いた。
「私ももし、大切な人が目の前に殺されそうになっていたら自分はどうなるか分かりません」
加茂野がいち早く反応する。
「お前、大切な人がいたのか!? とうとう彼女ができたのか」
阿倍野は震えながら加茂野に激昂する。
「人がせっかくいいこと言いたのにあなたという人は!?」
「いいだろう、教えろよ」
「今、聴取中ですよ!」
二人の言い合う光景に聖子は笑いを堪えきれなくなった。
「ふふ、そうだね、大事にしないとね」
その笑みに男二人は黙り恥ずかしくなり、その後聖子は淡々としていたが阿倍野と加茂野は気を削がれながら聴取が行われたのだった。