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第十八話:改名と英才教育

次に話をしたのは志郎である。


「私たちがいるのは陰陽寮というところから土地をもらったものなんです」


 また新しい単語にあきは首をかしげる。


「陰陽寮とは妖怪を退治し、人を守るための組織でしたが、あき様はご縁があり、放火魔の事件がある前に陰陽頭と接触することができたんです」


「けれどその矢先にこんなことになってしまってご破算になるかと思いきや、あき様がその時助けたのが陰陽師の大家であの賀茂家の子孫を助けたことで、あき様が瀕死の状態となってしまい、陰陽寮の協力のもと、人間の世界にひっそりと身を隠すことにしたんです」


「それと」


「我々妖怪が長い間、その場に居続けることはできないので、元々ずっとあった神社などであれば神としてなら怪しまれる必要はないとわずかな土地を頂きました」


「なるほど」


「確かに周りは年を取っているのに、自分だけ年を取ってなかったら変ですよね」


「でも妖怪が神様を名乗っても大丈夫なの?」


「悪いことをしなければ妖怪であっても、神様に見えることもあるし、逆に神様が悪いことをすれば妖怪と見なされます」


「要はそれぞれ見方の問題ですね」


「私たちよりも遥かに長く生きているものいますし…」


「へ〜」


 大方話を終えたと思ったら、志郎から言われた。


「後は名前を改めないといけませんね」


「え…?」


「本名だと流石にまずいので…あき様を殺した犯人は致命傷を負わせて、死んだと思っているはずですから」


「私たちは何者かに命を狙われたことに気づき、主人が死んだというお触

れを出したんです」


「そうなんですね だったら名前を変えないといけませんね」


「う〜ん名前」


 いざ名前を決めるとなるとどんな名前がいいかよく分からない。


「ちなみに私たちの名前は貴方がつけてくれたんです」


「それじゃあ、僕の名前を一緒に考えてくれない」


 志郎は少し驚いて逡巡したものの快く頷いてくれた。


「分かりました」


「僕の名前って暁の光って書くんだよね」


「はい あき様のお父上は朔夜様というお名前でした」


『似たような名前で、何か親近感が湧くな』


『でもなるべく似たような名前にするのはまずいかな…』


 いろんなことを思案していたら、泥沼に浸かりそうな時だった。快活な声が辺りに響き渡る。


「朝日! 朝日って名前はどうかな?」


 それを言ったのは今まで黙っていた糀は見栄を張るように仁王立ちした。


「朝日…いい名前ですね…糀にしては中々」


「それってどういうこと」と糀は志郎の嫌味に憤慨するも一蹴される。


「あき様はどうですか?」


 志郎は糀を無視してあきに尋ねた。


「うん! 僕も「朝日」って名前いいなって思った」


 それからあきは朝日と改めることが決まった。


「後は性別も偽っておいて方がいいでしょうか?」


さらりととんでもないことを言う志郎にあき改め朝日は顔がひきつった。


「僕が女の子として生きていくってこと…」


(そっちの方がキツイような気が…)


「念には念をです」


 ささいな抵抗も無に帰し流れるように決まり、


「これからはあき様と呼ばないように私自身と他の皆様も、特に糀…お前はくれぐれも用心するように…」


 志郎は言い聞かせるように糀を睨みつける。


「ゔ、分かってるもん」


 不貞腐れた糀は嫌々ながらもうなずいた。



〇〇



 そしてまたしばらくが経ち、体調が戻っていき日常生活に滞りなく送れるようになった。


 けれど体は一向に成長しなかった。そんなある時、志郎が夜に出ていくのを見かけた。


 それを見た朝日はどこに行くのだろうと呟いた。


「たまに外に出かけてますけど、どこに言っているんですか志郎は?」


 それに答えたのは畳の上で大の字に寝転んでいた糀である。


「あ〜 お仕事に言っているんじゃない?」


「仕事? 仕事ってどんな?」


「俺は行ったことはないけど悪い妖怪とか、困っている人を助けるんだって」


「あっ」


 糀は口元に手を当て慌てて青い顔をする。


「どうしたの?」


 朝日は心配になって声をかけて訳を訪ねる。


「これ…志郎から言うのをダメだって言われていたやつだった」


「え、そうなんですか」


「うん。 すごく危ないから教えないようにって」


 朝日は皆んなの思いやりにとても嬉しくなったと同時に、何かしてあげたいと思った。


 秘密をバラしてしまい落ち込んでいる糀に朝日は優しく話しかける。


「そんなに落ち込まないでください」


「逆に僕は知れて良かったと思います」


 朝日に励まれた糀は伝えた。


「違うの…俺は朝日に危険な目にあって欲しくない。 あんな思いはもう嫌だっ」


 糀が言っているのは五十年近く経ってもあの事件で受けた心の傷は糀と彼以外も癒えていない。


「分かった…なら志郎に聞いてみる」


 朝日は志郎に直談判することにした。その翌日に朝ごはんを食べた後、志郎に話しかける。


「志郎 話したいことがあるんだ」


「はい 何でしょう?」


「いきなりなんだけど、僕を志郎達がしている仕事の手助けができないかな?」


 ピクリと眉を揺らした志郎は、誰がその情報を朝日に漏らしたのかすぐに見当がついた。


 物影からこちらを見ている大きな人影に気付いた。


「糀…お前か」


 ゆらりと立ち上がり、志郎の低い声音が部屋中に響き渡り、糀はその殺気にブルブルと肩を震わせる前に朝日が庇う。


「志郎 糀は悪くありません」


「朝日様 庇わないでください。 こうゆうときに一回しつけとかないといけません」


「しつけって犬じゃないんですから、落ち着いてください」


「あんた達、相変わらずね」


 縁側で聖子はお猪口で日本酒をグビリと煽った。


「いずれ隠し事なんていつかバレるわ。 遅かれ早かれね。 まあ、隠し事が苦手な糀にしてはもった方じゃない」


「聖子さんまで肩を持たないでくださいよ。 真澄さんもなんか言ってください」


「そうですね…ですが、後さき考えずに身勝手に行動されるよりはましかと」


 確かに昔のあきの自由奔放ぶりに振り回された志郎と真澄ならよく分かる。真澄の援護射撃を喰らい志郎は肩を落とす。


「ふ〜 分かりました。 ただし、条件があります」


 わ〜いと糀とぬか喜びをしたのもつかの間だった。条件は3ヶ月みっちりと基礎訓練と体力作りをしてからのことだった。


「今の朝日様は陰陽局の検査を受けて、妖怪としては身体的能力が著しく低く、実戦の場では歯が立たなくなります」


「強いものが勝ち、弱いものは負けます。私はスパルタですから、みっちりと鍛えますよ 朝日様」


 志郎の凍えるような微笑みに朝日と、とばっちりの糀は地獄の修行をすることになり、特訓を終えて3ヶ月後。


「段々様になってきましたね」


「そろそろいいですかね」


 手合わせが終わり、朝日と糀はボロボロに地面の上に倒れ伏していた。


「はい ご指導ありがとうございました」


「はあ しんど…」


「何かやけくそのような気も」


「鬼…悪魔…冷血男」


 縁側に上がろうとした志郎は足をピタリと止まった。


「何か言いましたか?」


『地獄耳!』


 二人が同じことを思った。


「いえっ 何でもありません」


 そして同じタイミングで首を振った。


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