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第三十八話:身からでた錆




 豊島は会社を前社長である高橋安貞から奪い取り、悠々自適な生活を送っていた。ある電話が来るまでは。


「あ、もしもしこんにちは お元気でしたか」


 聞き覚えのある声に豊島は首を傾げた。そして楽観的な声が耳の中に響いた。


「あれ、僕のこともう忘れてしまったんですか 豊島社長、僕ですよ、高橋安久です」


「高橋…安久なのか!?」


「悲しいですね、もう忘れてしまったんですか」


 豊島の慌てぶりに安久は電話口でおかしそうに笑った。焦るのも無理はない。本当なら安久はもうこの世にはいないはずなのだから。


「おまえ、生きていたのか」


 豊島は安久が死んだと、これで一件落着だと思っていた。


「ええ、生きていましたよ 色々と大変でしが どうにかやっていけました」


 豊島はどうして生きているのかよりも、現状どうにかすることで頭がいっぱいだった。


「金ならいくらでも用意する、命だけは」


「私はお金なんて一円も要りませんよ。あなたの命以外はね、豊島さん?」


「どうしたら見逃してくれる!?」


「…そうですね、今度、隅田川で花火大会があるんですよね。そこで話をしませんか。場所はおいおいと話をします あ、このことを警察に話をしたら娘さんがどうなっても…」



 その時大切にしている娘の顔がよぎった。


「娘には手を出さないでくれ!?仮にも君たちは付き合っていたじゃないか」


「ええ、付き合っていましたよ あなたに近づくために」


 その言葉に豊島は頭が真っ白になった。


「それでは、また」


 ツーツ


 着信終了した音が耳の中で木霊してやがて消えた。豊島は自分が起こした不祥事もあるので警察にいうこともできず、ただ悩むことしかできなかった。


 それにしても一体どういうことだと考えるが考えていても埒が開かない。現状を打開するべく豊島は安久を殺したというヤクザに電話をかけた。




〇〇


 50万人を動員する花火大会は、それを面白がり悪さをする妖怪も出てくる可能性が高い。そのため陰陽局も派遣されることになった。その中に安倍憲暁、賀茂秀光、阿倍野裕司と加茂野照良、安倍霞がパトロールをすることになった。


「よろしくね、憲暁くん」


 霞に笑顔で話しかけられた憲暁はうなづいた。普通の男の子であればほおを赤らめるが、憲暁は少々?鈍かった。その様子に横から見ていた秀光はため息をつく。


「ちょっと、少しは笑ったりできないの」


 ツンツンとほおをつく秀光に憲暁は苛立ちを募らせる。


「おい、やめ」


 そんな二人の様子に別のところにいた先輩二人がやってきた。


「よ〜、仲がいいな お前ら」


 阿倍野裕司と加茂野照良である。


「仲良くありません」


 憲暁はむすっとした声を出した。いつもは照良にそんなことされたら目の色を変えるのに。


「何かあったのか」


「さあ、僕もわからない時ありますからね 、恋の悩みとか」


 照良のつぶやきに反応したのは霞である。



〇〇



『恋!?』


「え、憲暁くんは誰か好きな人がいるの?」


 憲暁が恋をしているかもと聞いた霞は動揺する。


「いや、好きな人はいないが」


 そのことに霞はホッとしたものの、それを聞いた周りはヒヤヒヤした。『それって霞ちゃんのこと何とも思ってないってことじゃないか』と大人たちは逆に緊張した。


 だがそんな心配をしているより、霞は別のことを考えていた。


「あ、もしかして前に陰陽寮であった黒髪の女の子、確か朝日ちゃんって名前だったような」


「違う!」


 憲暁は大抵感情を露わにすることがない。家のことや自分の周りの大事な人たちを害された時には本気で怒る。憲暁の表情を見て霞は目を見開く。


「ちょっと、図星をつかれたってそんな怒ることじゃないでしょ のりりんの悪い癖だよ」


 そばで聞いていた秀光の言葉が憲暁の心にグサリと刺さる。それも違うと反論しかけたが、また同じことを言われそうでグッと堪えた。何だか居づらくなった憲暁は軽く挨拶をして後にした。


「すみません、今日はこれで」


「お、おう」


 憲暁がそういう意味で朝日のことを思っていないのは分かっていた阿倍野と加茂野だったファ霞が誤解するには十分だった。阿倍野と加茂野は憲暁の後ろ姿を見てどうしてものかと目を合わせる。


「あ〜なったらちょっと面倒なんだよな。憲暁 それじゃ僕も行きます」


 主人である憲暁を従者である秀光が放っておくわけにはいかない。急いで彼のあとを追った。二人はおそるおそる彼女の方を見ると意気消沈している彼女に大丈夫ですかと声をかけづらいが一応話しかける。


「えっと、大丈夫か」


「え、あ、はい 大丈夫じゃないですけど、大丈夫です」


 返答になっていない返しに二人は思い悩む。


「憲暁くんはどうやら朝日ちゃんって子が気になる見たいですね」


「はは、私も見るからに可愛い女の子でしたし、憲暁くんが気になるのもわかります」


 そういう霞だが、陰陽寮の彼女もまた人気がある。安部家の時期当主で成績優秀で人柄もよし、そして美少女である。そんな彼女は一人の男子に恋をする乙女である。小さい頃から知っている霞に何とかフォローできないかと模索する。


「それじゃ、その朝日ちゃんとやらに憲暁のことが好きなのか聞いてみたら」


「あ、それはもう聞きました 前にあった時に」


「お、そうなのか」


 霞は考えるよりも行動するのが早いのだが、憲暁を前にすると奥手になる。その行動力を本人にできればいいのだが。


「だから、どうすればいいかよくわからなくて 朝日ちゃんは憲暁くんを好きじゃなくて、憲暁くんは朝日ちゃんを好きじゃないけど気になっていて」


「それで霞ちゃんは諦められるの?」


 加茂野の言葉に霞は首を振った。


「諦められません!」


「それが本当の気持ちだ」


「先輩…」


 霞が目頭が熱くなった。


「そうですよね」


 グッと握り拳を作り霞は声を上げた。


「そうだ その意気だ」


「はい、ありがとうございます」


 加茂野の言葉に元気が出た霞はその場を離れた。阿倍野にじっと見つめられていることに加茂野は何だといった。


「たまにはいいことを言うんですね」


「たまには余計だ」


「霞ちゃんの思いが報われるといいのですが」


「それがどうなるのか二人の問題だろ」


 最もな答えに阿倍野は加茂野を凝視する。何をジロジロと見るのかと思えば。


「あなた本当に加茂野照良ですか」


「よし、表に出ろ」


 据わった目をする阿倍野に加茂野は無理やり肩を掴み外に出た。



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