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第十七話:記憶の喪失と実年齢

「大丈夫です。それより気になっていたのですが「あき」とは僕の名前ですか?」


 何と無く聞いた質問だったが、皆が一瞬で静まり返った。


 それに答えたのは志郎である。


「……はい やはり覚えてないのですね」


 悲しそうな声に胸が締め付けられる気持ちになった。


「まずは朝ごはんを食べましょうか。 そしたら色々と話をしましょう」


 朝食を済ませた後、和室に移動して、その後座卓の上にお茶を少女と志郎が用意した。


「さて、どこから話しましょうか?」


 口火を切ったのはまずは志郎だったが、どこから話すまいか迷っていた。


「記憶がないならまずは自己紹介をした方がいいんじゃないかしら」


 聖子は思案し、その提案に志郎は乗った。


「そうですね まずは聖子さんから」


「そして、聖子さんの隣にいる赤毛が糀と言います」


「私の隣にいるのが真澄さんで、そして私は志郎と申します」


 一通りの紹介を終えた志郎が話を先導した。


「まずはあなたの先ほどの質問から話をしましょうか」


「「あき」と言うのは、あなたのあだ名です」


「本当の名前は賀茂暁光という名前です」


「かもの あきみつ?」


 たどたどしく自分の名前を話す。


「それが僕の名前なんですね」


「ですが、もうこれからは本名を公には晒さない方がよろしいでしょう」


 眉間にしわを寄せ、苦渋に満ちた表情に子供ーーあきは只ならぬものを感じた。



「それは どうして?」


「貴方が命を狙われたからです」


「命ってーー」


 あまりの事実に思考が追いついていかない。


 次に答えたのは真澄である。


「誰が狙ったのか未だつかめていません 貴方を狙ったのか」


「若しくは…」


「貴方の近くにいた誰かを庇ったからなのか分からないのです」


「当時、江戸から東京府と呼ばれた頃に所々によって放火魔が出没して、萬屋よろずやはその対処に追われていました」


「萬屋?」


「どんな人でも依頼を受け入れるお店のことよ」と聖子が言った。


「それが口癖だったわね」


「人と妖怪の狭間で生きるものたちの仲介役として名が知れ渡って、密かに英雄視されていました」


 真澄の話に聖子は懐かしそうに目を細めた。


「へ〜 すごいですね」


『なんか今、スルーしちゃいけない言葉があったような』


「あの妖怪って?」


 思わずあきは挙手をして質問する。


「あっ そこも記憶が無いんですよね」


 志郎は気づき、話してくれた。


「ざっくりいうと、私たちは人間ではありません」


『ざっくりすぎる』


「それと貴方にも妖怪の血が流れています」


「僕も?!」


 あきはあまりの展開にちょっとついていけなくなる。


「貴方はには半分、妖怪の血が流れています もう半分は人間です」


「あき様のお父上が妖怪で、お母上が人間です」と真澄はあきに語りかける。


「そうなんだ」


「かれこれ四百年前に貴方は戦国時代に生まれました」



〇〇



「…四百年前?!」


「でも、僕はーー」


 自分の小柄な体を見下ろして、とても四百年以上生きているようには思えなかった。まず人に言っても、冗談にしか聞こえず、医者の元に連れて行くのがオチだろう。


「妖怪はそれほど、長命だということです」


真澄の言葉にあきは呆然とする。


「他にも話したいことがあるのですが」と志郎は話した。


「萬屋の主人は貴方のことなんです」


「え」


「あと萬屋の創始者も貴方なんです」


「えっ、そうなの」


 あきの反応に志郎は肩透かしを食らった。


「あまり驚かないのですね」


「う〜ん いまいち実感が湧かないというか、記憶が無いからなんとも言えないですね」


 頭を掻きながらあきは答える。思い出せないものは思い出せないとあきは困ったように笑った。


「記憶がなくとも、私たちは貴方の味方ですから」


 心細くなっていたあきに志郎は優しい言葉をかけてくれて身に沁みた。少し話が戻りますがと志郎は付け加えた。


「なぜ貴方が記憶が失い、こうなってしまったのかはやはりあの日が原因だと思いますので、その時にあった出来事をお話しします」


「私が見たのはある屋敷が燃えていたことに気づき、急いで駆けつけると、屋敷の中に重傷を負っていたあき様と子供が倒れていました」


「すぐさま私は二人を屋敷から救助し、貴方は子供のことを案じていました」


 燃え盛る屋敷と煙が充満していた。


『子供は無事か…』


「無事ですがっ…あき様はっ?!」


 脇腹の出血が特に酷くて、志郎はすぐ様止血をした。


『そうか…よかった』


「子供が助かったのにホッとしたのか、事切れたように気を失い、貴方は原因不明の怪我に侵されてしまい、そしてその翌日驚くべきことに貴方の身体が幼児化してしまい、今のお姿になったのです」


「その分、妖力を治癒に使い切ったのだと思います」


「なるほど 元々は大きかったんだ。 こうなったのはその怪我が原因なんだね」


「はい 貴方が目覚めるまで五十年の月日が流れました」


「……五十年?!」


「五十年間、僕は眠っていたの」


 あまりの年数にあきは唖然とする。


「それほど重傷だったということです」


 あきは目頭が熱くなり、感情が溢れてきて涙が溢れた。


『今までどんな想いで、僕のことを看病してくれたのか』


「ありがとう 感謝だけじゃ物足りないぐらい」あきは一歩引いて、お辞儀をせずにいられなかった。


「頭をお上げください」


「貴方は私たちの主人なんです」


「助けるのは当然…」


「それでもーーっ」


 震えた声であきは話した。


「長い月日を僕のために費やしてくれたことに変わりはありません」


 あきの言葉に思う所があるのだろう、皆涙目になった。


「ふふふ」


「あき様の礼儀はお母上譲りですね」


 真澄は涙目ながらクスリと笑った。


「僕の母を知っているんですか?」


「はい。 私はあき様の式神として仕えておりましたから、後でじっくりと教えます」


 あきはコクリと頷いた。

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