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第三十話:桃子の悪だくみ


 だがその直後そんなことにほっとしている自分に嫌悪した。


『なんでほっとしているんだ』


 自分を救ってくれた僧のように悟りを開くために仏の教えを学び、修行に励まなければならないのにと自分を戒めた。


「安珍様、どうかされました」


 じっと心配そうに見つめるキヨに安珍は罪悪感に駆られながら首をふった。


「いえ、大丈夫です、さて、なら旦那様を回復するためにどうしたらいいのかお互いに考えましょう」


 安珍の言葉にほっとするかのようにキヨは元気よくうなづいた。


「よろしくお願いします、では明日から早速ですが山の方に行ってみましょう」


「薬草に詳しいとか」


「ここら辺は土地勘がありますよ 体力にも自信がありますので」


 キヨは人間の女性であれば無理は禁物と言いたいが、そこまで言われたら止めることはできない。


「そうですね それじゃ お願いします」


 キヨは部屋を立ち去り、安珍は一人となった。


『また二人っきりになれるのか』


 いかん、いかん 私は修行中のみ、私は修行中のみ、とまるでお経のように唱え、煩悩を祓うかのように夜を過ごした。


〇〇


 そして翌朝、台所を使用人たちに頼んでキヨと安珍、そして狩り人と行くことになった。二人で行くことになっていたので安珍は少し残念な気持ちだった。緑深い山々に気持ちのいい風が吹き抜ける。


「何をお探しなんですか?」


「う〜んと ここら辺に生えていると思うのですが ああ、ありました」


 安珍は道端に座ってそれをとった。


「まさかそれってアザミですか?」


「はい、これは滋養強壮になるんです」


「へえ、そんなものがあるのか 博識だな」


 一緒に来ていた狩人もおもしろうに安珍の話を聞く。


「これは天ぷらや和物にしても美味しいです」


「いいですね」


「あとはアシタバとかも柔らかい葉ほど、強壮の効き目があり疲労回復にもいいですよ」


 生き生きとしゃべる安珍にキヨもなんだか嬉しくなった。狩人のおじさんがポツリと呟いた。


「なんだか、二人が夫婦みたいだな」


 それに安珍とキヨは驚いて動きが固まる。二人の驚く表情にまずいと思ったおじさんは慌てふためく。


「申し訳ありませんっ 出過ぎたことを!」


 慌てて土下座するような勢いだったので、キヨは止めた。


「ふふ 構いませんよ でもお坊さんは結婚したらダメですし」


『え』


 僧でなければいいのかと、考えたがその後にキヨは答える。


「私は結婚していますし」


「「ええ、そうですよね」


 キヨの笑いにおじさんは元気に笑った。それに安珍は悲しくなったが、気のないふりをした。そして安珍がきて1ヶ月、ようやく回復の兆しが見えてきた。


「それにしても薬草がこんなに聞くとは お医者さんとか知らなかったでしょう」


「医者によっても知識が違いますからね ばらつきがあるのでしょう」


「なるほど」


  キヨがうなづくのを安珍は嬉しそうに笑った。そしてある日重吉が起き上がるまでに回復したのだ。ようやく体が動けるまでに回復できたことに桃子は喜んだ。


  重吉が起きたことに桃子は笑みを浮かべた。けれどその笑みは禍々しいものにまるで人ではなかった。


『これで、あの女を』





〇〇




 正室である桃子がそのことを知ったのは偶然だった。使用人たちが何やら話をしているのが聞こえたのだ。


「あの二人、付き合っているんじゃないかした」


「あんたもそうだと思う?」


 二人が仕事中に喋っているのをみて正室の侍女が注意する。


「仕事中に何を話をしているの、正室の前ですよ」


 使用人の二人はハッとして、正室の姿が見えると青白くなる。


「申し訳ありません、すぐに仕事を」


 すぐさま持ち場に帰ろうとした二人だったが、それを正室が止めた。


「待て」


 その言葉に二人は止まった。


「ふふ、たまにはおしゃべりをしたいだろう、ところで何やら面白い話をしていたな」


 正室の笑みに二人は目を合わせて逃げられないと観念してかその話をした。


「実は使用人の間で噂になっているんです キヨ様と安珍様が付き合っているのではないかと」


「!」


 その言葉に正室と侍女は衝撃を受けた。


「それは真なのか!?」


 彼女は使用人の女性を問い詰める。


「私たちも噂程度にしか、申し訳ありません」


 二人は腰をおり、深く頭を下げた。


「もう良い 下がって良いぞ」


「は、はい」


 二人は足早く仕事場へと戻っていった。


「全くろくなことを噂しませんね 若いものは 徹底的に教育しなければ」


「お前はどう思う」


「はい、なんでしょう」


「あの小娘が旦那様を裏切り、姦通したと思うか?」


「奥様!?」


 正室の口から飛び出した言葉に衝撃を受けた侍女は思わず周囲を見る。そして誰もいないことを確認して口に出した。


「その噂が本当なら あのものはまず罪に問われるでしょう」


 その言葉に長年支えている侍女は正室が何を考えているのかわかった。


「もしや、あの娘を」


「ええ、色々と使い勝手が良かったけど もう用済みよ」


 ようやく体調が戻った重吉をみて笑みを浮かべた。


「元気になられて本当によかった」


「ああ、心配かけて本当にすまない 迷惑をかけた」


 桃子のねぎらいの言葉に重吉は嬉しそうに笑みを作る。


「いえ、これは本妻である私の務め、夫を支えるのは当たり前の仕事です」


 その言葉に重吉は嬉しそうに笑った。


「そうだ、私が寝ている間の僧の方が見えていたはず それにキヨも」


 その名前を聞いて桃子は胸の内に蟠っている思いが 弾けそうだった。


「そのお二人のことなのですが」

  

 桃子は深刻そうな表情を作った。悲しくて今にも泣きそうな顔にあまり頭の機転がよくない重吉はすぐに騙された。


「どうされたのだ」


「起きたばかりで話したらいいのか、とても悩んでいたのですが」


「なんだ、なんでも申せ」


「実は、使用人の間である噂ばなしがあるのです そのお二人が付き合っていると」


 その言葉に目がぱちくりとなった。そしてあまりにもおかしくて笑ってしまった。


「ははは、何を言うかと思えば」


 重吉はお腹が捩れるほどだったが、桃子の神妙な表情に笑えなくなってきた。


「ほ、本当なのか」


「残念ながら本当です…でもあくまで噂なので」


「そうだな すぐにキヨと安珍どのを連れてきなさい」


「はい」


「かしこまりました」


 恭しく侍女はおじぎをした。


『そんなことはない そんなことあるはずがない』


 重吉は焦燥に駆られながら二人を待ち侘びた。桃子は今か今かと待ち合わせる。





『さあ、早くここにきなさい 小娘』


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