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第二十四話:似たもの親子


「お兄ちゃん!」


 つい昔の呼び方で叫んだ双子の妹の合歓は叫んだ。追いかけようとするが、肩を掴まれて動きを止められてしまう。止めたのは姉の香散見だった。


「合歓、どうするつもり?」


「どうするって、お兄ちゃんが!」


 いつもの冷静な面がない妹がことさら動揺していることに香散見は一目でわかった。自分も初めて兄が生まれた前の話を聞いて驚いて動揺しているのだ。けれど妹の困惑する表情を見て姉としての理性を取り戻した。


「ええ、だからこそ今は一人の方がいいと思うの」


 香散見の言葉を聞いて合歓は少し冷静さを取り戻した。




「それは本当なの?」


 その声に一同は驚いた。この場に、いや近くにいるとは思ってなかった人物がいた。


「朝日様…」


 志郎は困った表情に朝日は言葉を述べた。


「ごめんね、近くで真澄と一緒に話を聞いていたんだ」


「真澄さん」


 志郎は真澄の方を見ようとすると朝日は焦った。


「えっと…僕が頼んだんだ」


「どうしてです?」


 志郎は朝日の意図がわからなかった。


「知りたかったんだ。どうして彼があんなにも悲しそうな表情をしているのか、そして昔何かあったのか。昔の記憶を思い出せないなら聞くしかない。それに今回僕は早く帰ってきたのは僕の私情によるもので彼のせいじゃない」


 キッパリという朝日に志郎は逡巡しうなづいた。


「そうでしたか…少しいいすぎてしまったでしょうか」




 息子が立ち去った方向を見て志郎は名残惜しそうに見つめた。



「今から追いかけてみたら、泊まっているホテルとか知っているんでしょう」


「はい、ですが」


「会える時に会った方がいいよ 家族の時間を奪っちゃった僕が言えることじゃないけど志郎には家族を大切にしてほしい」


 朝日の言葉に悩んでいた志郎は志郎の心が動かされる。


「はい、行ってみます 香散見、合歓 朝日様を頼みました」


 父の声に娘二人は元気よく返事をした。


「はい、お任せください 気をつけて」


 その声にうなづいて志郎は闇夜へと消えた。志郎はいなくなり、朝日はようやく緊張が解けたのか腰を下ろした。


「は〜、なんか疲れた」


「もう遅いですが何か飲まれます」


「う〜ん、じゃあホッとミルクで」


「わかりました 」


 双子にも真澄は声をかけた。



「えっと私はココアで」


「私はカフェオレが飲みたいです」


「わかりました 少しお待ちください」


 双子が手伝おうとしたが真澄が止めた。


「二人は座っていてください」


 真澄の優しさに二人はおとなしく座った。というよりも朝日と同じように話を聞いてドット疲れていたのだ。心遣いに二人はありがたかった。


 少し休んでから4人はそれぞれようやく寝室に入った。双子はとどうなったのか気になった。


「大丈夫でしょうか お父さんとお兄ちゃん…」


「う〜ん、どうだろう私たちもびっくりしたからね お父さんとお母さんの昔の話は知っていたけどお兄ちゃんの生まれた時の話は初めてだったね」



「うん だからお父さんは朝日様のそばにいるのね」


 双子は兄よりも父がそばにいることに特に執着してはいなかった。というより、母と兄に愛情をたくさんもらっていたからである。そして少ない時間だが志郎からももちろん。


「それにしても」


「うん?」


「お父さんとお兄ちゃん、本当に似ているというか不器用よね。仕事はできるのに」


 その言葉にくすりと妹が笑った。


「そうだね仲良く一緒に帰ってきてほしんだけど」


 それを想像した香散見は思わず吹き出した。


「お、お姉ちゃん」


 二人が仲睦まじくというなかなかシュールな光景が脳裏に浮かんだのを笑った姉はじとっと睨んだ合歓に謝った。





〇〇



 一方、聖子はというと安久の看病をしていた。


 最初の一日、二日目は体調が悪そうだったが、三日目からは少し顔色が良くなったことに聖子はホッとする。


 けれど看病しながらも聖子は安久を監視していた。


 傷の深さから見て人間のものではなかった。志郎から容疑者を逃してしまったことは聞いていた。そしてその男は手傷を負わせたことも。聖子はそれを聞いた瞬間に出かかっていた言葉を飲み込んだ。



 報告すればきっと志郎がすぐさま彼を捕まえにきてしまうだろう。なぜそうしなかったのか、朝日の側近として害が及ぶ危険性のあるものは排除するべきなのに。


『私は護衛者として失格だな』


 数百年生きていても自分の感情もままにならない聖子は自虐する。



「さん、聖子さん!」


 そこで呼ばれていたことに聖子はようやく気づく。振り返るとそこにはおでこに冷えピタを貼った安久が立っていた。


「ど、どうした」


「ご飯食べ終わりました ご馳走様です」


「ああ、そうか 味は良かったか?」


「はい」


 思った以上に安久との距離が近いことに気づき、聖子は思わず目線を逸らす。最初は棘があったがこの、1、2日でだいぶ柔らかくなった気がする。お礼を言うのも親の躾が良かったのだろうと聖子は推察する。


「どうして目を逸らすんですか?」


「え」


 あまりの直球な問いに聖子は皿洗いの手を止めた。安久は聖子に対して何か怒っているようである。


「えっと、目を逸らしたわけではなくて あまり人の目をじっと見るものではないだろう ほら 私、結構目つき悪いし」


 身長が170もあり、切長の瞳だとなかなかの迫力がある。自分を卑下するように言う聖子に安久は言葉を述べた。


「僕は好きですよ」


「…え」


 安久の思わぬ返事に聖子は目を見開く。少しの沈黙が長く感じた。その沈黙に耐えきれなかったのは聖子である。


「そうかい、ありがとね」


 聖子の優しい表情に安久はドクンと胸が高鳴った。


「今日はもう帰るとするよ 明日の朝ごはんは作り置きてしているから」


「え、ま」


 聖子が今にも出ていきそうなのを安久は焦った。だが手傷を負っている彼は無理である。


「悪いが私はここまでだ」


 聖子の申し訳なさそうに言う言葉に安久は息がつまりそうだった。そうだ、彼女は僕が傷を負っていたからその看病をしていただけ。


 まだ治ってはないが、動けないことはない。と言うことは看病は不要になる。簡単に考えればわかることだけど割り切れない思いがあった。


 それは聖子ともっと一緒にいたいということだった。けれど聖子と自分は赤の他人である、それをこれ以上無理に頼むわけにはいかなかった。


「わかりました 今までお世話になりました」


 安久の元気のない声に聖子は心が掻き乱される。これ以上彼といたら、私はきっと情に流されてしまう。


「すまない、それじゃ…元気でな」


 聖子は出ようとした時に安久に呼び止められる。


「一つだけ聞いてもいいですか」


「うん なんだ」


「どうして目を合わせてくれないんですか」


 それは先ほどの同じ質問で聖子は迷った。けれど安久の真剣な眼差しに聖子は嘘をつけないと思った。


「…昔、の好きだった人に似ていたんだ」


 聖子のおもわぬ答えに安久は想定外で呆然とする。


「僕が好きな人に?」


 その表情が子供らしくて聖子はクスリと笑った。


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