第二十一話:顔合わせ
一方、志郎=青野は何をしているかというと居酒屋に来ていた。一人で来ているわけではなく、二人の刑事、立川と足立、フォローすることになった阿倍野と加茂野の顔合わせである。
どうして5人で居酒屋になっかというと提案したのは立川である。阿倍野と加茂野は休養していたが、フォローしている人物にお礼を言いたいことを立川と話すと、それならご飯を食べに行きませんかと誘った。そのことに足立は驚いた。
「お前、いつの間に青野さんの電話番号を知ったんだよ」
「え、ああ、一応連絡番号は知っていた方がいいと思って」
こればかりは性格が現れるからかというより、初対面の人間にまず連絡先を聞くのもどうかと思うが。後輩の情操教育はどうなっているのかと悩みそうになった。そんな先輩の心配をよそに。
「どうしたんですか?」
「なんでもねえよ」
青野は立川から連絡が来て少し驚いた。阿倍野と加茂野が戻ってきたので、もう連絡を取り合うこともないと思っていたからだ。
飲みに行けないかと言われると仕事があるからと断ることもできたのだが、彼らは現場に遭遇することが多い。特に足立は霊感が強いため、妖をひき寄せてしまう。
「構いませんよ」
「よかった、場所は新橋の居酒屋です」
志郎は電話を切るととすぐに息子の藤次郎に電話する。今日は御影様の見回りであったのでそばについてないといけないが、分身することはできない。
ならばと性格に難はあるが息子に託そうと電話をかけた。朝日のことになる幾分か低い声音になるのを聞きながら、志郎は嘆息する。
「どうしてもできないのなら、香散見か合歓に頼みます」
「……っ わかりました 私が行きます」
志郎は心を鬼にして少々?強引な願いをする。藤次郎のの苦悶する声に、志郎は少しだけ後悔の念に苛まれていた。
『息子と娘のことは任せっきりでしたからね』
だからこそと思いながら、志郎は新橋に出かけた。
〇〇
場所は新橋にあるSL広場に待ち合わせとなった。気温もそんなに低くないため、仕事帰りのサラリーマンが多く見える。
新橋は東京都港区の町名であり、丸の内、品川、に連なるビジネス街であり、サラリーマンの街として有名である。
その待ち合わせ場所ではすでに4人が来ていた。立川と足立、阿倍野と加茂野である。
「ねえ、あの4人カッコよくない」
「声かけちゃわない?」
4人とも顔立ちがいいので仕事が終わったOLなどから熱い視線を受けていた。
「あとは青野さんだけですね」
「そうですね、一体どんなかたでしょう」
阿倍野と加茂野は自分たちの代わりにいた人物とは対面したことがなかった。
「気さくな方でしたね、物腰が柔らかくて」
立川がその人物の人柄を誉める様子に阿倍野と加茂野は心なしか落ち着いた。そしてその人物が現れた。
「すみません、少し遅れました」
「あ、青野さん こんばんわ」
志郎もとい、青野は別人に扮して阿倍野と加茂野の前に現れた。
「こんばんわ、立川さん、足立さん、そちらが阿倍野さんと加茂野さんですか?」
志郎は二人に挨拶した。
ゲームの世界であってからまだ二週間くらいしか経っていないが、こんなに近くに対面するのは初めてだった。
「こんばんわ、阿倍野裕司と申します、足立さんたちをフォローしていただきありがとうございます」
「いえいえ、そういていただけてやった甲斐がありました 二人の仕事分をできるか心配でしたが、」
謙遜する青野に慌てたように立川は首を振る。
「ええ、そんなことありませんよ 仕事できるし、めっちゃ強かったですし」
「へ〜、そりゃ聞きてえな 壷井さんが直々に手配したんだから俺らも気になっていあた」
加茂野は面白いものを見つけるような眼差しに志郎は苦笑する。
「はは、お手柔らかに」
4人で話しあっていると女性の一人から声をかけられた。
「すみません」
「はい?」
声をかけられた志郎は無視するのは流石にまずいだろうと返事をする。
「なんでしょうか?」
青野は振り返ると、仕事帰りだろうか若い女性たちがきゃかっこいいと黄色い悲鳴をあげていた
「あの、私たちこれから飲みに行くのですが一緒に行きませんか?」
「え」
青野の一存だけでは決められないだろう。彼らを見ると阿倍野が口を開いた。
「今日は内輪だけですので」
「すみません、今日は仕事関係の打ち上げですので」
志郎の申し訳なそうな声に女性は嬉しそうに声を上げた。
「それじゃ、しょうがないですよね」
と小走りに走っていった。声を上げた女性は他の女性たちからよく頑張ったと褒められていた。
加茂野と立川は女性の誘いを断ったことに唖然としていた。
〇〇
「どうして断ったんですか?」
不貞腐れる二人に阿倍野は相棒を白い目でみた。
「いくら一般人でも守秘義務がありますからね」
「おう、でもよ バレなかったら」
「バレてもいいですよ、その時私はなんのフォローもしませんから相棒の独断だったと証言しましょう」
爽やかな笑顔なのになぜか後ろに般若が見える阿倍野に加茂野はたたじろく。
「はは、冗談だよ そんなこと言うわけないだろ 俺たち運命共同体だろ」
そんな運命共同体いやなんですけどねという顔をしたが口には出さなかった。その二人の様子に青野はクスリと笑った。
「ふふ、刑事さんたちもでしたが阿倍野さんたちも仲がいいですね」
初対面の人に恥ずかしいところを見られた阿倍野は顔が赤くなり、居た堪れなくなり話を変えた。
「それじゃ、予約している居酒屋にまずは行きましょうか」
「はい」
新橋の駅周辺には居酒屋などが立ち並んでいる。完全個室でプライベートがしっかりしているのを立川は選んだ。けれど中に入る前から玄関を見て一同が止まった。
「おい、ここって居酒屋なのか」
「はい、完全個室の居酒屋ってなってましたよ」
足立の疑問に立川は思い出しながら答える。
「どう見ても、高級料亭にしか見えないんだが」
「え、でもメニュー見たらそんなに高くありませんでしたけど、まあ今日くらいはいいじゃないですか」
ここで立ち往生していても仕方ないと言う青野の言葉に足立は渋々とうなづいた。立川がメニュー表を見ると焼き鳥が100円台ということに安堵した。
「コース料理だ3000円、まあこのくらいか」
「お手頃ですね」
一人一人メニューを選んでドリンクを端末で注文した。ドリンクはすぐにやってきた。
「それでは音頭は誰がしますか?」
立川は周囲を伺う。
「お前でいいんじゃないか?」
先輩に言われ特に誰も立候補しなかったので咳払いをして話し始める。
「それでは僭越ながら、私、立川がひとまず事件の後始末が終わりましたがまだホシは捕まっていないので終わっていません。だけど諦めるわけには行きません、ホシを捕えるためにかんぱ〜い」
カツンという音がこ気味よく鳴り響いた。
「それにしてもこんなに若い人だったとは思いませんでした」
「え、」
いきなり阿倍野に話を振られた青野は首を傾げる。それで壺井の話しになり察しがついた。
「ああ、管理官の知り合いってことだったので、年上の人かと思って」
「なるほど」
確かに知り合いとなると壺井さんが60代なので知り合いも60代になるだろうと。というより、青野である志郎はその数倍、いや数十倍生きているのだが。
「ふふ、彼とは、私の…父の知り合いでして」
「そうだったんですね」
阿倍野と加茂野は興味津々である。追及されかねないことも嘘と真実を絡めていうとバレにくくなる。
「そういえば、あの子達はお礼ができたんですかね」
「あの子達?」
「あのゲームの中に潜入していた二人です」
「賀茂憲暁と賀茂光秀ですね」
青野はその名前を聞いていやな予感がした。