第十五話:アルバイトの青年
青野=志郎と思ってご覧ください。
足立と立川、そして青野は大王の、いやゲーム会社の共犯と思われる子会社に向かった。
事件当時は陰陽局の矢上という男性がやってきたが、今回は青野=志郎がいるのでお役御免である。場所は東京にいくつもある15階たての雑居ビルの駐車場に車を停めた。
現在時刻は朝の10時過ぎ、ビルの外は人通りが多いが、中は閑散としていて静かである。足立と立川、青野はビルの管理人と挨拶を交わした。
「こんにちは、警察の方ですか?」
「はい、電話をした立川というものですが、このビルにあったゲーム会社の調査をすることになりましてご協力よろしくお願いします」
「はい、分かりました」
管理人はペコペコと頭を下げた。そして口を開いた。
「あ、会社で働いている人がいるので、その人の色々と聞いてください」
「え、まだ働いている人がいるんですか?」
「立川…」
「あ、すみません 先輩」
まさか共犯者と思われるアジトにまだ人がいるとは思ってなかった立川は寝耳に水だった。立川の驚く様子に足立は息をついた。
「俺も確認していなかった、俺のミスでもある すみません青野さん アジトに人がいるそうです」
申し訳ない気持ちで立川は青野に謝った。
「いえ、事前に知れて良かったです」
何も問題ないように振る舞う青野に立川は平謝りした。会社があるのは十五階の最上階、エレベーターでたどり着いて、ドアの入り口まで案内してもらった。
こんこんと叩くと中から青年が出てきた。
「はい、あ、オーナー どうかされましたか?」
「あ、今日は警察のものが来ていてね こちらが警察の方なので失礼のないようにね」
青年というより、少年という背格好である。そしてその顔立ちには立川は思わず本音がこぼれた。
「美少年…」
都会の中であるが窓を閉め切っていれば音楽も人の声もしないビルの中ではその声はやけに響いた。その静けさを打ち破ったのは吹き出した笑い声だった。
「ははは、お兄さん おもしろいですね」
笑うとより子供らしさが出る感じに立川は毒気が抜かれる。
「それをいうならお兄さんはイケメンですね」
「イケメンってまあたまに言われますけど」
謙遜することなく立川はいうと誰か突っ込んでくれると周囲を見ると、足立と青野は一歩足を引いていた。
「お前がいうなよ」
「まさか自分で言う人がいるとは」
ドン引きしている二人に立川は焦った。彼なりに場を和ませようとしたのだが逆に凍りついてしまった。
「え、二人とも冗談ですからね」
立川のなんとか釈明しようとする様子に青年はおかしそうに笑った。
「ふふ、お兄さんだけじゃなくみんなも面白い人たちですね。どうぞ、中に入ってください」
「はい」
その場で管理人と別れて、立川、足立、青野と彼の4人となった。
「あ、自己紹介がまだでしたね辻井と申します。私はここのアルバイトをして、主にコンピュータの管理と雑用とかしています」
「へえ、じゃあここのことに詳しいんだね 他にも君以外の人っているんですか?」
「いえ、前はいたんですけど あの事件以降会社を辞めていく人が多くて 今はもう僕しか残っていません 僕も今月で辞めますし」
「そうだったんですね」
立川は彼の話にうなづいていたが、足立は違和感を感じていた。
「それにしても会社は潰れてしまうなんて」
「お金はどこから支給されるのですか?」
「ああ、キャリアスキルと言う派遣会社です。契約期間は今月末までとなっているのですが、まさか勤め先がこうなるなんて」
〇〇
立川は辻井の話を聞いて、なんだかかわいそうに思った。まさか契約期間中に会社が潰れるなんて思わないだろう。ゲーム会社が妖怪が作ったりして、その下に人が普通に働いていたのなんてもっとおかしな話である。
『そういえば妖怪ってお金持っているんだな』
ゲームで稼いだものがあるだろうが、それはゲームが人気になった後だ。失敗すれば借金が残るだけだ。そうなる前からお金はあったのだろうか。そしたらお金を融資していたものがいるはずだ。人を雇うにも対価としてお金がいるはずだ。裏にとてつもない大お金持ちがいたりして…と立川は面白く想像してしまったが、今は仕事中と話を切り替える。
「あとはなんのお仕事が残っているんですか?」
「僕はここの後始末ですね。ディスプレイをまとめたり、ファイルを整理したりと」
「それならこのパソコンの中身を見せてもらえませんか」
「はい、いいですよ」
心よくうなづく辻井に、立川は好感を抱いた。そしてネットのファイルなど細かく閲覧してもらった。だが怪しいものは一つも見当たらなかった。
「う〜ん、目星のものはないですね。あとはファイルをしらみつぶしに探してみましょうか」
「僕も手伝いましょう」
「ありがとうございます。辻井さんってしっかりしていますね 何歳なんですか?」
「今年26歳になります」
「ええ、僕より年上なんですか 全然見えないです」
立川にはいつも人と話す時には壁がない。こうゆうところには本当に感心している。仕事でドジを踏むのが玉に瑕だが。笑顔で相手を和ませ話しやすい雰囲気があるからか。足立が笑顔で話しかけることもできないかと考えたこともあるがこの強面では逃げられるか、通報されるかが関の山だ。軽快なトークに足立は苦笑しながら、
少し眩暈がした。
(なんだ・・?)
この感じ、身に覚えのありすぎる感覚に冷や汗が出てきた。
『まさかこの部屋にいるのか』
周囲を見渡すが妖はいない。一体どういうことなんだと焦っていた時に青野から声をかけられた。
「ファイルありましたか?」
「え、ああ 特には」
「随分と体調が悪そうですね ここでお暇しましょう」
やけにはっきりと声をあげる青野に、それを聞いた立川とすぐ近くにいた辻井も目を見開いた。
「あれ!? もう帰るんですか? まだきてそんなに経ってないのに」
「もうここは空っぽでしょう その前に足立さんも体調を悪くしてしまったので」
「ええ!?どこか悪いんですか 病院にーーいたた!?」
いきなり耳を掴まれた立川は耳を引っ張った足立に抗議しようとするが、本当に顔色が悪いことに心配になった。
『いつからこんなに体調が悪くなったんだ』
警視庁にいた時は全然体調が悪そうじゃなかったのに、このビルに入ってから、いや部屋に入ってからかと立川は考えた。
『あれ、そういえば前にもこんなことが』
あれはゲームの事件が公になる前、アパートの住民が意識不明で発見された。その時家宅調査をするために行くと足立は気分が悪くなって。
『まさかいるのか!?』
立川は周囲を見回すがそこには怪しい影もない。ならば早くここから立ち去ったほうが賢明と考えた。
「そうですね、一旦帰りましょう」
立川はそういうと立ち去る前に辻井に声をかけた。
「え、もう帰られるんですか?」
「はい、すみませんがまた」
立川がまたきますと言おうとした瞬間、辻井は首を振った。
なんだと思い彼の顔を凝視すると彼は口を開いた。先ほど話していた軽快な声ではなく、どこか冷たい声が部屋中に響いた。そして彼の瞳が怪しく光った。
「いえ、もう来なくていいですよ そしてもうここには何もなかったと」
その瞬間ばちばちとした音が周囲に響きわたる。辻井は何の音だと驚愕する。
「!?」
「今のはっ!?」
思わぬ衝撃にみな一同動きが固まる。その中で一番早く動いたのは青野だった。青野は立川のポケットの中身を見てみるようにと声をあげた。そしてそのポケットの中にしまっていたものを取り出した。
「これはビルに入る前に渡されていたお札?」
「これに反応したと言うことは術をかけられそうになったから、私たち以外に一人しかいませんね、この部屋には…辻井さん、あなたしか」
志郎は辻井を問いただすが、彼は何を言わないことが不気味さを立川は感じ取った。
「どういうことですか?」
「私はここに来た時から気づいていました」
青野の言葉に辻井は返答した。
「何がです?」
「あの管理人に暗示をかけましたね」
今現在、三十二話を執筆しているのですが残りの話も考えると、話数が四十、五十話近くになりそうです。
まだまだ続きますのでよろしくお願いします(^◇^;)