第十三話:ツンデレ憲暁
事件が終わった後の刑事と陰陽師コンビの話です。
あの不可解で不気味な大事件が収束してひと月が経った。魂をゲームの世界へと閉じ込められたプレーヤー達はその後は後遺症なく現実の世界に帰ることができた。
しかし警察は事件が収束しても犯人を逮捕しない限りは終わらない。立川と足立はゲームから帰ってきた阿倍野と加茂野に会いに報告しに向かった。
そして、阿倍野と加茂野はそこでみたものを話した。中での状況やまるで時代劇にある城下町などようが精巧に造られていたのを聞いた立川は思わずゲームの世界に行ってみたいと思ったが、魂を奪われる、すなわち死ぬということにゾッとしてすぐさま考えるのをやめた。
ゲームの世界にやってきてまず突破口になると考えたのが、バトルロイヤルで優勝したものはあの世界のボスの大王に対する挑戦権がもらえるということを、阿倍野は分かりやすく説明した。
「大王?」
「はい、まずはその大王を倒せばいいと思い、そこで何かしらアクションがあると踏んだのですが、途中で負けてしまって」
「ええ、どうなったんですか?」
「どうなるかと思ったのですが、私たち並み、いえ私たち以上の実力者に託すことになりました」
足立は阿倍野の不可解なセリフに眉間にシワを作った。
「お前達以上の実力者?」
「はい、あれは僕たちが束になっても時間稼ぎにならないでしょうね」
悔しさもない、あまりの力の差に肩をすくめる阿倍野に足立は驚く。
「あれはほぼ反則ですね、人間では敵わないような強さでしたね」
秀光を思い出しながら笑うが、憲暁はそのことを思い出し悔しそうにぶすくれていた。
「次あったら絶対に俺が勝っている」
悔しそうにいう憲暁に秀光はふっと笑った。
「あ、そういえば連絡先聞いておけば良かったね」
「は?」
そのことに憲暁は硬直する。
「まあ、また会えるんじゃない、そんな感じがするし」
もう一度会って戦いたいという秀光の表情に憲暁は無愛想に鼻を鳴らした。
「なにはともあれ良かった、こうして元気になってくれて」
「うん?」
「何かあったんですか?」
立川は気になり秀光の話を聞いた。
「えとですね、大王が優勝した少年に襲い掛かろうとした時にこの単細胞が庇いやがったんですよ」
秀光は普段はマイペースでおっとりとした口調だがらこそ、毒舌が目立つ。げんに立川と足立も彼が毒を吐くような人物に見えなかったので面を食らった。
普通はここで憲暁は自分を単細胞呼ばわりにした秀光に怒るのだが、自分がしたことを重々承知しているため怒ることもできず、目を泳がせている。
だがそんな事情を知る由もない立川は心配そうに憲暁に声をかける。
「ええ!? 怪我とか大丈夫なんですか」
それに返事をした秀光は嘆息しながら述べた。
「はい、あの大王を倒した瞬間の後は憲暁の体の傷が治っていたので」
秀光は目の前で主人が致命傷を受けたのが現実の世界ではなかったことをどれほど安堵をしたのか、どれだけ人を心配させたのか憲暁にはわからないだろう。嫌味の一つや二つくらい、言ってもばちが当たらない。
「なら、その少年は命の恩人なんですね」
「そうなりますね、お礼をしたいのですが向こうも干渉して欲しそうではなかったので 図々しいことは言えませんでした」
残念そうにいう阿倍野に立川も残念な気持ちになった。しんみりとした雰囲気を明るい声を発したのは加茂野だった。
「そういやその後何もなかったか?」
加茂野の言葉に立川と足立は目を合わせた。そのわずかな仕草に4人は話題を切り替えた。
「何があったんです」
「実は深夜0時にスクランブル交差点のスクリーンにゲームの世界での映像が大型ディスプレイに、あの大王が狙っていたのか、もしくは共犯者がいた可能性が」
「その映像ってまだ残っていますか?」
「はい、みんなにも見せた方が早いと思って」
立川はうなづきノートパソコンとUSBをセットしてその映像を再生させた。そして見れば見るほど顔色が悪くなっていくのは足立と立川も同じ気持ちだった。
〇〇
「これがマジで渋谷に流れたのか」
いつもは飄々としている加茂野だが、口元を引き攣らせながら顔色が悪くなり、顔を手で覆った。阿倍野、憲暁、秀光も同じ様子である。
「あ、ですが 陰陽局と警察がちゃんと対応の準備を取れていたので今はテレビと新聞、通してシステム障害ということで報道するみたいです。今日の朝も報道していたみたいですし」
阿倍野達がゲームから目覚めたのは翌日の昼頃だった。
「体とか大丈夫ですか?」
「はい、一応訓練はしていますので 数日くらい体を動かさなくても大丈夫ですよ」
指の動きを確かめながら笑う阿倍野に立川と足立は安堵する。
「は〜、良かった みんな無事に帰ってきてくれて」
「私たちは大丈夫でしたが、他の人たちは大丈夫だったんでしょうか」
阿倍野の言葉に立川は話を進める。
「はい、他の人たちは期間が長いほど体が衰弱していたり、復帰するのは時間がかかると思いますが、亡くなったという報告はないですね」
その一言に4人は安堵のため息をついた。確かめるように憲暁は口を開いた。
「ないってことはあいつは生きているってことですよね」
「あいつ?」
立川と足立はそれが誰なのか分からなかった。それがすぐに分かったのは秀光だった。
「あ、もしかして 彼のこと?」
そのことにピンときたのは立川だった。
「ああ、さっき言っていた命の恩人ですね」
「はい…」
「今のところ亡くなったという報告はないので大丈夫です」
「そうですか」
ほっとした憲暁だが、周囲を見ると秀光は口元がニヤついているのが見えた。
「なんだ?」
思わず声が低くなる憲暁に臆せず、微動だにしない。
「いや、心配していたんだなって思って」
「それは心配というかっ…一応助けてもらったし! 日本人として、礼は尽くすべきだ!何かあったら縁起が悪いだろうが!!」
なぜか最後は逆上する憲暁に立川は微笑ましくなった。
「それにしても対応が早かったですね」
何気ない立川の言葉に阿倍野は言及する。
「それは陰陽局に予知する人がいるからですよ」
「ええ、実際にいるんですか!?」
「はい、だから対応が早かったのです。僕たちも寝てばかりではいられませんね」
ベットから起きあがろうとする阿倍野に立川と足立はストップをかけた。
「その陰陽局からなんだが、4人はしっかりと休養を取るようにと言われた」
「え、陰陽局の誰からですか?」
「壺井って人からだ」
「壺井さんから?」
その名前を聞いて4人は納得するのが早かった。
「分かりました。僕からも壺井さんに電話します」
「ああ、分かった 俺たちも共犯者がいないか探すが、何かあったら連絡する」
「はい、了解しました」
そう言って病院を退室した。立川と足立は4人の奮闘した姿を見て立川はやる気がみなぎる。
「よし、先輩まずはどこから行きましょう」
勇み足で行こうとする立川に足立は頭を鷲掴みした。
「ちょっと待て」
「何を」
「今回の事件が関わっているなら陰陽局と連携しなければならない、けど、あの4人は動けねえだろ」
「確かにそうですね」
自分が冷静じゃないことに気づき、立川は自分を諌めた。
「いざその共犯者のアジトを見つけ出し侵入しても、妖であれば対抗する術がない。まずは陰陽局に人を派遣してもらわないとな」
それに立川はうなづいた。
「そうですね」
女の子でツンデレキャラは桃華でしょうか…。