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第九話:みんな違って、みんないい



 姉の暴走を止めようとした合歓だったが、それよりも早く止める声が上がった。真澄である。


「香散見さん、朝は起こしに行かなくて大丈夫ですよ」


「へ…?」


 予想外な言葉に合歓と妄想に暴走していた香散見もぴたりと止まった。


「え、どう言うことですか?」


 二人は気になって真澄に聞くと彼女は何かに気づいて口を開いた。


「…そういえば、花月さんに会ったことありませんでしたね」



(花月さん…?)



 双子はその名前を聞いて首を傾げる。二人同時のその様子が可愛らしくて真澄はクスリと笑った。


「そうでしたね、香散見さんと合歓さんはこの家に来たのは50年も前のことでしたもんね」


「はい」


 一度朝日が目覚めて改めて志郎の家族として紹介をして、それから数回会いに行った程度である。真澄は花月のことを説明した。


「朝日様は幼稚園の頃からの幼馴染がおりまして、今、近くの高校に通っているのです」


「お、幼馴染!?」


「一緒に通っている?」


 双子はあまりの衝撃に驚き目を合わせた。香散見は情報過多でまた妄想に呑まれようとしていた。けれど冷静な妹はあることに気づく。


「それって大丈夫なのでしょうか?」


「何がです?」


「その方は人間ですよね 朝日様の正体は…」


「いえ、花月様は朝日様の正体は知りません。ですが花月様は霊感が強い方ですので妖を引き寄せてしまうんです。」


「なるほどトラブル体質なのね」


 ぶつぶつと隣でいう姉に妹は黙殺した。


「なら私たちも気をつけねばなりませんね」


 そのことに真澄は深くうなづき、話を進めた。


「もうそろそろ花月さんがこの家にやってきますので臨機応変にお願いいたします」


 真澄の言葉に双子は失礼のないように身を引き締めた。



〇〇



 花月は朝日の家の門をくぐると見慣れない女性二人に驚いた。


(だ、だれ!?)


 ふわふわで色素の薄い髪にタレ目が可愛らしい女性は着物を着ており、目が合うと思わず体が固まった。


「あ、おはようございます」


ペコペコと頭を下げる花月に合歓は笑顔で出迎えた。


「おはようございます、私は木内志郎の娘、双子の妹の合歓と申します」


「志郎さんの娘さん!?」


 花月は志郎に子供がいることは知っていたが、その子供に会ったことっはないが、けれどこんなに成人しているとは思わなかった。


「あ、初めまして 私平野花月と申します 朝日ちゃんの幼なじみで」


「ちゃんづけ…」


「え…」


 ポツリと言ったのは前髪を半分に分けたもう片方の女性だった。花月は彼女の言葉を聞き取れなかった。香散見は手で顔を覆う姿に花月はびっくりして心配した。


「ど、どうしました!?」


「ああ、ごめんなさい ちょっと立ちくらみが」


「大丈夫ですか? 少し横になったほうが」


「ええ、ありがとうね どうぞ中に入って」


「はい」


 ぺこりと頭を下げて花月は香散見が気になったが、時間もないので朝日のおにぎりを作りに向かった。香散見は体調が悪いわけではなく、立ちくらみをするほど病弱なわけでもない。


「ちゃん付けって、朝日ちゃんって 可愛すぎるでしょ!?」


 またもや暴走気味の姉に妹は慣れたもので冷静に止めた。


「姉さん、落ち着いて」


「だってちゃん付けなんて幼なじみの特権じゃない、あんな違和感なく」


「……まあ、私たちは朝日様との関係性はそもそも違いますし」


 思案しながら合歓は告げるのだが、当の本人は聞いていない。


「合歓、気づいちゃったんだけど」


 姉の真剣な眼差しに妹は優しく聞き返した。


「どうしたの?」


「真澄姉さんと平野さん、そして朝日様、三角関係になるんじゃないの」


 香散見の鋭い指摘に合歓は目を見開いた。



「それは」


 合歓は改めて考えるとハッとして思わず固まった。真澄が朝日のことを慕っていると気づくのは早かった。彼女は朝日に向ける眼差しはとても優しくてあたたかなものであったぁら


 それでも私情と公私は分けなければならない。朝日様は主人で真澄様は式神、表に感情できないのも主人のためを思っての行動だから。 だからこそ、応援ししたくなる妹の気持ちをわかった。


「まずはどういう関係なのか、観察してそれから対応を考えましょう」


「そうね」


 妹の言葉に香散見は快くうなづいた。


〇〇



 花月は朝日の家に着いた早々に驚いた。朝日の家に来てから朝日、志郎、真澄、聖子、糀以外に会ったことがなかったからだ。


(それにしても綺麗な人だったな)


 そう思いながら花月は朝日のおにぎりを作り終わり、寝室に向かった。


 寝室に向かう途中、一人の女性が縁側に座っているのが見えた。背は花月と同じくらいだろうか着物で線が細く華奢であることがわかった。


(あれ、他にもお客さん あ、志郎さんのご家族の人かな?)


 彼女も花月の存在に気づき、こちらの方を見た。肌は色白で髪の毛を結えている。


「お、おはようございます」


 花月はおそるおそる挨拶をした。初対面なので、異様に緊張する。すると可愛らしい声が返ってきた。


「おはようございます 平野花月さん」


 ふふっと微笑む姿に花月はほおを赤らめた。


(なんだか可愛らしい人、私と同じ歳くらいに見える)



〇〇


 朝日、花月、真澄は由恵と香散見と合歓に見送られた。


「朝日ちゃん、あの人が志郎の奥さんだったの?」


「うん、木内由恵さん、志郎の奥さんで子供が3人いるんだよ」


「3人!? そうなんだその話聞くまで私、志郎さんてっきり結婚していないのかと」


 花月と朝日が出会って10年の間、志郎の家族の影も形も聞いたことも見たこともなかったので独身かと思っていたぐらいである。


「すごいね あんなに華奢な人だったのに お母さんって」


「うん、由恵さんは本当にすごいよ ぼ……私のせいで色々と迷惑をかけちゃったから」


 朝日の沈んだ声に花月は首を傾げた。


「朝日ちゃん、どうしたの?」


「ううん、なんでもない 行こうか」


「うん」


 真澄は朝日が何が気がかりなのかわかった。自分のせいで志郎の家族の時間を奪ってしまったことを、あれから数十年も経つが、その溝はいつまでも平行線のままだった。

昨日の会議も志郎と藤次郎は事務的に話すだけで特に会話もなく藤次郎は住まいにしている都内のホテルに向かった。


〇〇


 香散見と合歓は3人を見送りながら、特に香散見は妄想に拍車がかかった。朝日達の前ではなるべく慎ましく品良くしていた香散見なのだが、興奮が抑えられなかった。


「朝日様のあの制服ってなにあれ、ちょー可愛すぎじゃないの!?写真で何回か見ているけど、間近はやばいわ」


「姉様落ちついて」


「しかも一方は幼なじみで一方は朝日様の護衛、一体どんな物語が、主従ものも好きなんだけど、幼なじみものもなかなかで…ジャンルって選べないのよね、ほら『みんなちがって、みんないい』って大正だったかしら昭和の女性の詩人が」


(まあ、言っていることはそうだとう思うけど…)


 あれは確か、この世にあるもの、誰一つ、何一つ、同じものはなく、だからこそみんな素晴らしいって意味合いだったから、合歓は冷静に心の中で香散見は発した言葉に思案して分析した。


 姉が何を言いたいのか理解しようよとするが合歓は釈然としなかったのだった。そして妹が悩んでいるのをよそに香散見はあることを閃いたのだった。


「……私、学生に化けて、尾行しようかしら」


「……姉様」


 これ以上はまずい。姉の暴走を止めようとしたが、それよりも止める手があった。


「香散見、仕事がありますのでよろしくお願いしますね」


 普段の父は二人の娘に対して優しい、兄は朝日に対してツンケンしているので怒られがちだが、娘に怒れないわけではない。合歓が困っているのを見た志郎は香散見に注意する。にっこりと微笑んでいるが目の奥が笑っていない父に香散見は粛々とうなづいた。


読んでいただいてありがとうございます。

次回はようやく第六部の主役の聖子さんが出ます!

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