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第七話:志郎の家族


 

 花月たちが菊理と和気藹々と初対面を交わしてしていた頃、朝日の家に来客する者たちがいた。普段は来客がするものはほとんどいないのだが、人数は3人。


 小柄な女性の容姿は着物を着ており髪はふわふわの髪が腰まであり、色素が薄い。


 少し身長が高い女の子が二人、黒髪の方はすらっとした出で立ちが似合うパンツスタイルでワンレンといって前髪を後ろの髪の長さまで切りそろえた髪型であり腰ぐらいまである。もう一人は女の子らしいスカートを着ており、女性と同じふわふわの髪で色素が薄く肩で切り揃えてある。


 そして最後は2メートル近い長身の男性である。髪型は黒髪の女の子と一緒で前髪を分けており、特徴なのが束ねている黒髪で前髪は色素が薄いことである。その面差しは若い頃の志郎に似ている。


 女性が呼び鈴を鳴らすと真澄が返事をした。


「はい、どなたでしょう」


「あ、いつも旦那様がお世話になっています、志郎の妻の由恵です」


「はい、お待ちしていました。どうぞ中へ」


 4人は中へと入っていくと玄関の前には真澄が立っていた。


「ようこそ、いらっしゃいませ」


 着物姿を着た真澄は来客に優雅にお辞儀をした。


「こんにちは、真澄様」


「こんにちは由恵さん、藤次郎くん、香散見(かざみ)ちゃん、合歓(ネム)ちゃん」


 一礼をして二人の少女は真澄に挨拶をした。


「こんにちは真澄姉様」


 姉と呼ぶのは彼女たちにとって真澄は姉のような存在だからである。実際二人が子供の時に一緒に遊んだりした。


「中で朝日様と志郎様がお待ちです」


 家へと上がり、座敷には朝日と志郎が座っていた。朝日は由恵たちに挨拶すると返事をした。藤次郎を除いて。志郎はそれを見て口をひらこうとしたが、朝日が止めた。


「お久しぶりです、お元気でしたか」


「はい、変わりなく元気でした。朝日様たちがお元気そうで安心しました」


 朗らかに笑う女性こそ、志郎の妻でありこの3人の産みの母である。


 かつて東京がまだ江戸と呼ばれていた頃、志郎と由恵は中国から密入国してきたらしい。その時、身重だった由恵は土地勘のなかった志郎が困り果てていたところを助けたのがまだ暁光と呼ばれていた頃の朝日だった。


 けれど当時の記憶も事件により無くしてしまったため、その後に会っても思い出すことはなかった。朝日に話したそうにうずうずと自分を見つめているのは香散見と合歓である。


 香散見と合歓は双子の姉妹である。現在は別々の髪型にしているが、昔は同じ髪型にしたりして遊んだらしい。


 合歓は双子の妹でおとなしく静かなのだが、姉の香散見は大のイタズラ好きで好奇心旺盛である。一般的に姉の方が妹の面倒を見るのかもしれないのだが、その資質は妹の方にあった。

 


「お久しぶりです、朝日様!」


「うん、久しぶり 元気にしていた」


「はい!」


 次に長男の藤次郎に挨拶しようとしたが、


「あっと、藤次郎く…」


 朝日が言いかけた瞬間にプイッとそっぽを向いた。彼は最初に会った時からこんな感じである。


 なんとかスムーズに挨拶しようと思った朝日なのだがどうしようかと困り果てる。彼が自分にどうしてあんな態度を取るのかわかっている。


 けれど、自分ではどうすることもできないことにもどかしくなった。父の志郎は息子の態度を見て我慢できなくなった。


「藤次郎、お前どういう了見や」


 いつもは物静かな口調だが、感情的になると関西弁になってしまう。あまり沸点が低くないのだが、朝日のことに関するなら真澄にも負けない。


「別にどういうつもりもないですよ 僕はただの付き添いなので」


 不貞腐れた物言いに志郎の怒りがヒートアップする。


「朝日様は私と妻の命の恩人であるなら、お前の恩人でもある、失礼な態度をとるな」


 父の一喝に藤次郎はまたそっぽを向いて、愚痴をこぼした。


「うるせえ」


 それに堪忍袋の緒が切れたかのように音が聞こえた気がした朝日は志郎を宥める。


「し、志郎、ちょっと落ち着いて 僕は全然平気だから」


 志郎にぎろりと睨まれた命の恩人である朝日は硬直する。


「朝日様はちょっと黙っていてください これは親子の問題なので」


 もう誰も止めることはできないのかと一触即発の状態だが、快活な声が遠くから聞こえた。


「やほ〜 遊びに来たわよ って靴はいっぱいあるわね 入るわよ〜」




〇〇



 づかづかと入ってきたのは聖子と糀だった。


「こんにちは〜って、何この険悪な雰囲気は」


 着いた早々、聖子は異変に気づいて仲裁に入る。


「全く相変わらずね二人とも お久しぶり、由恵さん、藤次郎くん、香散見ちゃん、合歓ちゃん」


「お久しぶりです、聖子姉さん」


 藤次郎は朝日と違い素直に返事をした。昔からの馴染みであり年上なので、聖子姉さん、真澄も姉とつけている。


「せっかくの家族団欒なんだから、喧嘩は後にすれば」


 二人の様子見てため息をつく聖子に志郎は切り返した。


「聖子さん、これは主人に対しての礼儀を教えているところです 少し黙っていてください」

 

 志郎の言葉に聖子も肩をすくめふっと息をつく。これはかなり怒っている。その時に糀がある方向を見ておもむろに二人の間に入った。


「志郎…お腹減った、なんかない」




グキュルルル



 部屋の鳴り響く豪快な音に硬直し誰かが吹き出した。ずっと沈黙していた朝日である。


「お腹すいたの? なんか食べる」


「うん、朝食食べる時間なかったんだよね」


「それじゃ台所に行こうか」


 朝日は立ち上がり、糀と一緒に台所に向かった。少し離れて、朝日はポツリとつぶやいた。


「糀…ありがとう」


「うん、何が?」


 首を傾げながら無邪気に笑う糀に暗かった気持ちが温かくなった。志郎は予想外の出来事に怒り続けるのもなんだかバカらしくなり、藤次郎もまた同じ気持ちになった。


『あいつ、分かっていたな』


 糀が誰に視線を向けているのか。志郎もまた彼が何を考えているのかようやく気づいた。空気の読まないところがこの場の重い空気を晴らした気がした。


 朝日が顔は笑っているが落ち込んでいたことに気づいたのはその直後だった。私情で怒りで我を忘れて主人を悲しませるなど、彼に仕えるものしてのプライドが許さないことで溜飲が下がる。


「藤次郎、後で話があるから帰るなよ」


 自分のせいで父を困らせていることに気づいていたが藤次郎は頑な態度をとる。それを心配そうに由恵と香散見と合歓は見つめた。藤次郎は話をやめたのが自分ではなく朝日を見て態度が変わったことに気づいていた。


『どうしてあいつばっかり』


 藤次郎は幼少期の反抗期を拗らせたことで重度のファザコンになってしまったのだった。そうしてこうなった原因の朝日を建前では装っていても妬みに妬み、その数十年のわだかまりが燻り続けてしまい今に至るのである。


『だから嫌だったんだ、ここに来るのは』


最初に志郎は独身にするか所帯持ちにするか迷いましたw

おっとりとした性格の妻の由恵、イタズラ好きな姉としっかり者の妹の双子姉妹、そして朝日に対してツンツンな志郎の息子でした٩( 'ω' )و

読んでいただいてありがとうございました!

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