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第五話:まずは自己紹介から


 そして日曜日となり、桃華が花月の家にやってきて一緒に向かった。


 神保町を待ち合わせ場所に選んだのは、話ができてご飯を食べれる所は喫茶店と花月と桃華は話し合い、スマホで喫茶店と検索すると、神保町の名前が出てきて人気のある喫茶店に決めた。時刻は11時前。


 花月たちの前に一人の少女が現れた。


 ふわふわワンピースにズボンは青色のジーンズをはいていて、髪はショートで可愛らしい目の女の子である。初めて会ったのに初対面ではない感覚にとらわれた花月はハッとした。


「もしかして、ククちゃん…?」


 おそるおそるという花月の声に女の子は首を傾げながら目を見開いてコクンとうなづいた。


「は、はい、ククです あの、もしかしてハナさんですか!?」


「うん、そうだよ」


 現実の世界では「はな」という呼び方は朝日しかいないので不思議な感覚だった。不安そうな女の子に花月は満面の笑みで返した。


「わぁ、すごい」


 嬉しそうな菊理は桃華の方を見て口を開いた。


「こちらはモモさんですか?」


「ええ、そうよ 初めましてではないけど、なんだか変な感じね」


 それに菊理は何度もうなづいた。


「そうですね。私もゲームのプレーヤーとリアルで対面したのは初めてです」


「そうなの?」


「積もる話は中に入ろうか?」


 聞きたいことが多すぎて花月と菊理は話を進めようとすると桃華が喫茶店に入るように進めた。


「うん、そうだね」


 3人は喫茶店に入り、奥の席に座った。店内は昭和の雰囲気が漂うレトロチックで趣深く、親しみがあった。


「さてとまずは自己紹介からしようかな」


 花月は手を挙げて、口を開いた。


「私は平野花月と言います。御影高校の一年生、普通科です」


 それに倣い、桃華もしゃべり始める。


「私は烏丸桃華、今は花月と同じ学校に通っているわ」


 最後に菊理の自己紹介となった。


「わ…私は、えっと初めまして、土御門菊理(つちみかどくくり)と申します 私はそのーー」


 一旦話をやめた菊理に花月はどうしたのだろうと首を傾げたが、どうして話をやめたのかそれに気づいた桃華はうなづいた。


「大丈夫よ、周囲には結界を張っているし私たちの話は他のことを話しているように聞こえているでしょうね」


 それに菊理はホッと安堵の息をつき話を進めた。


「ありがとうございます、私は陰陽寮の見習いに入っていました…」


『入っていました…?』


 過去形に気になった花月は思わず口に出した。


「はい…私はクラスメートの男の子に言われたことがショックでそれからうまく術が上手くできなくて、自分に自信がなくなって引きこもりになりました」


 菊理の重々しい表情に花月はゲームの世界で彼女が話していたことを思い出した。それに桃華は早くに気づいていた。あの時ゲームの世界では言わなかったというより、菊理のことだけに集中していられる場合ではなかった。けれど今は違う。桃華は菊理がどうして言われたのか話し始めた。


「術の発動は精神面に強く関わるからね。思いが強ければ強いほど力が発揮し、弱ければ重大なミスにつながる。陰陽寮も派遣をする時にはランクに見合った人に仕事を認可するけど、現場で戦い、対処するのはその人たち次第、時には命が奪われるリスクもあるわ」



「……え」


 寝耳に水。青天の霹靂という表現が適しているのか菊理は開いた口が塞がらない。ずっと自分の実力不足のせいだと思っていたからだ。


「私たちのラストゲーム覚えている?」


「は、はい 覚えています」


「あのゲームであなたは自分の攻撃で敵の戦力を削ごうとした時何を考えていたの?」


「私は…」


 菊理はその時のことを思い出す。


「私はその時ハナさんのように、モモさんのように強くなりたいと思いました。私も守りたいって」


「ククちゃん」


 そう思っていてくれたことに花月は胸が熱くなった。


「それじゃ、あなたがその男子に言われた時どんな感じだった」


「……」


 菊理は苦虫を噛み潰したような表情になりながら紡ぎ出した。


「足を引っ張らないようにって…彼は本家の人間だから迷惑にならないようにって考えていました」


 花月は菊理の暗い表情を見て何か元気づけたいと思ったが、桃華が話しているのを邪魔にならないようにグッと堪えた。





『邪魔だ、やる気がないなら来るな』


 あれは菊理への注意だったのだ。あの言葉は菊理を邪魔と言ったのではなく、菊理が怪我しないようになどと思いもよらなかったのだ。そして二人の話を聞いて菊理は引きこもりの原因となった少年のイメージが変わった。



「私が原因だったんだ。 彼は何も悪くないのに人のせいにして……」


「でも言い方ってものがあると思うけどね…」


 落ち込む菊理に花月はう〜んと納得できなかった。菊理は目をぎゅっとつむり、胸に後悔が押し寄せる。


「そんなものよ、普段は自分がしやすいスタイルでやるだろうけど、大人数で連携組む時に対処できないから、時には実践向けに他人同士で組む訓練もあるわね」


「そうなんだろうけど…」


 花月は釈然としない。それに桃華は苦笑するしかなかった。自分はどうすればいいのだろうと菊理はぐるぐると逡巡していたのに気づいた花月は優しく語りかけた。


「でも、あの時のククちゃん とてもかっこよかったよ」


「…ハナさん」


 その時涙がポロリと菊理の瞳から溢れた。溢れた瞬間涙が止まらなくて止めようとしてもなかなか止まらなかった。


「うっく、ヒッグ」


 花月と桃華は菊理が落ち着くまでそっと見守った。少しして落ち着いたのか目が充血していたので花月は従業員を呼んでおしぼりを頼んでおいた。


「はい、これ」


「あ、ありがとうございます」


 おしぼりを渡された菊理は花月に礼を言って、目元に当てるとひんやりとしていて気持ちよかった。桃華はそんな菊理を見て口を開いた。


「少し、すっきりした…?」


「はい、なんだかモヤモヤがなくなって…とても」


ぐーーー



 その音で3人の動きが固まった。誰の音が鳴ったのか明白であるが問い詰めなかった。


「あ、そういえば まだ何も頼んでいなかったよね、何か頼もうか」


 花月はフォローした。それに桃華はうなづいた。


「そうね」


 菊理は顔を真っ赤にしてこくこくとうなづいた。


〇〇


 ピザトーストにミートスパゲティー、ナポリタン、ミックスサンド、カレーライス、どれも甲乙つけ難く選ぶのに悩んだが。花月は人気のピザトースト、桃華はナポリタン、菊理はカレーライスを頼んだ。


 トーストの上にはピザソースが塗られ、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、ベーコンの上にチーズが乗っている。厚切りのため、十分にお腹を満たされる。


 桃華が選んだのはナポリタン。思った以上に量が多く、花月は食べれるのかと思ったが、彼女はペロリと平らげた。


 これにも玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、ベーコンが入っていて、柔らかな麺にトマトソースの酸味が絡み食欲を引き立てる。


 菊理が選んだカレーライスにはミニサラダとお供の福神漬けがついてきた。


 朝日の家のカレーライスは野菜がゴロゴロと入っているが、この喫茶店のカレーのルーは野菜の形がなかった。菊理はパクりと食べると先ほどの表情はどこへやら笑みを浮かべた。パリポリとした福神漬けの甘みもいいアクセントになる。


「はあ〜、美味しかったね」


 花月は満足したようにいうと桃華と菊理はうなづいた。


「そうですね 喫茶店ってこんなに美味しかったんですね」


「それじゃ次は」


 花月はまたメニューをとり、デザートのメニューを広げた。


「デザートに行きましょうか」


 甘いものは別腹と、流れるような花月の動作に菊理は面白そうに笑い、甘いもの好きな桃華はメニューに食いついたのだった。


 花月はクリームソーダとシフォンケーキ、桃華はいちごのフレッシュジュースとベリータルト、菊理はアイスラテとチーズケーキを頼んだ。


 ここにくる前から花月は久しぶりにクリームソーダを食べたいと思っていたので笑みがこぼれる。


「懐かしいな…」


 家族が事故で亡くなる前はたまに親に連れられてご馳走になっていたのだ。その言葉に菊理は反応する。


「アイスの上にチェリーとか見ると食べたくなりますよね」


「ここに決めたのもこのメニューがあったからなんだよ、そうだ、今度菊理ちゃんの行きたいところでまた話をしたいね」


「え」


『また話をしたいね』


 花月の言葉に菊理は思わず言葉が詰まった。こうゆう時どういえばいいのかと菊理は考えていると桃華は口を開く。


「行きたいの、行きたくないの?」


 その瞬間すぐに口を開いた。


「はい、行きたいです」


 菊理は清々しく答えたものの思った以上に声が出てしまい周囲はなんだろうと伺っている。それに菊理は申し訳なさそうにペコペコと謝り、その様子に花月と桃華はなんだかおかしくなり破顔した。


現実の世界でようやく初対面する3人でした!

読んでいただいてありがとうございました!


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