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第四話:土御門家の葛藤


 

 授業が終わり、家に帰りついた朝日たちは早速、志郎に学校であったことを報告した。テレビを見た人たちが自分のことを「クロ様」とあだ名をつけていたことなどを話した。


「そうですか。やはり火消しには限界がありましたね。政府や陰陽局で偽の情報を流したようですが…」


 志郎は神妙な顔つきでため息をつきながら口を開いた。


「このまま何事も起きなければいいのですが、あの大ボスは倒せましたが、共犯の黒幕はまだ捕まっていないようですし」


「早く捕まえられたらいいんですけど」


「逃げ足が早いよね」


 一難さってまた一難。今度はどんな災害が来るのかと否が応でも神経質になってしまう。そんな雰囲気を払拭しようと朝日はあることを思い出す。


「あ、あの捕まっていた友達、お弁当おいしかったって喜んでいたよ」


「それはよかった」


 志郎は目を細めて笑みを浮かべた。


「しばらくは大人しくしておきたいですが、奴らはまた狙ってくるでしょう…いずれ近いうちに、警戒を怠りませんように」


「うん」


「はい」


 朝日と真澄は力強くうなづいた。


〇〇



 土御門菊理は今年で16歳になる高校生である。通常であるならばなのだが、彼女は中学一年生の時、ある日、少年から言われた一言が原因で引きこもりになる。家に引きこもっている時にゲームの世界にどっぷりとハマってしまった。


 もう一人の自分という分身を作り、苦しいことを忘れて楽しいことをする、菊理にとってそこはオアシスでのめり込むには十分だった。


 バトルロイヤルゲームVRMMO「合戦・百花繚乱」を初めて体験したときは、色んなゲームを制覇した菊理には新たな刺激となった。


 そこで自分の魂が囚われ、体が人質にとらわれていることも知らずにいたと知った時は何度も悪寒が走った。


「現実ではそんなことになっていたなんて」


 目を覚ましたらそこは自分の部屋ではなく病室だった。家族からこってりと絞られゲーム禁止令が出されたが、流石に死ぬかもしれないゲームの世界に戻りたいとは思わない。


 それから数日後、姉の土御門百合絵から電話があり、ある人物から自分に言伝を頼まれたと言われる。


『私に言伝?』


『ええ、モモって言えば分かるはずだからって、言っていたわね、知り合い?』


『モモ…』


 現実の世界ではその名前は初めてだが、ゲームの世界では何度もその名前を呼んだ。


『姉さん、私その人を知っているかも』


「そう、なんだかあなたに会いたいみたいなんだけど」


「私と…」


 菊理は引きこもりになってから家族以外の人と全くしゃべらなくなった。


 彼女が引きこもりになった原因となったのは何故なのか、何があったのかと妹想いの姉と兄の慶次は調べるとある少年に行き着いた。


 少年の名は賀茂憲暁。


 百合絵はそのことを知った時に歯噛みした。賀茂家の次期当主でなければ一発ぶん殴っていたいほどだったが、自分の感情的な行動で家同士が争いになりかねないと踏みとどまりグッと堪えた。


 それと土御門家は陰陽三家と呼ばれている名家であるが、安部家の分家である。分家とは安部家からは離れているが、土御門家の病弱である年若い当主に火の粉が降りかかりかねない。どうにか私情を鎮め、沈黙して数十秒の菊理に百合絵は優しく声をかける。


「無理なら烏丸さんにまた後日連絡を…」


「っ…無理じゃない」


 それは久しぶりに聞いた菊理の芯の通った声だった。


「会いたい、会って話がしたい」


 菊理の声に百合絵はなんだか泣きそうになった。ゲームの世界では散々な目にあったかもしれないが、妹にとっていい出会いがあってよかったと心から思った。




〇〇



 いよいよ花月たちに会いに行く当日になり、菊理はいつになくドキドキで胸がいっぱいだった。


 ゲームにない緊張感もあるが、会ってみたいという思いも強かったため不安はそれほどなかった。


「よし、行ってきます」


 菊理は万全な服装で出ようとした時、がしりと後頭部を掴まれた。


「まてい!」


「ふへ!?」


 いきなりの衝撃になんだと思い後ろを振り返るとそこには姉の百合絵が立っていた。


「どうしたの?姉さん」


「どうしたの、じゃないわよ!?」


 口元を引き攣らせながらいう百合絵の眼光に菊理はたじろいだ。


「例の子たちと今からお茶しに行くのよね?」


「う、うん そうだよ」


 そう答えるや否や百合絵は口を開いた。


「その格好でまさか行かないわよね」


「え…」


 そう言われて菊理は自分の格好を見下ろした。動きやすい上下のジャージに、そして動きやすいスニーカーである。


「何かおかしかった…?」


 百合絵は彼女が引きこもりであることを思い出した。家の中にいたため外に出ることもなければ、身だしなみを気を付けることは格段にへるだろう。このままではせっかくの気の合った友達ができるかもしれないのに


『あの子の服ダサくない』


『そうだね』


 なんて言われたら、百合絵は妄想したら居ても立ってもいられなかった。


「スニーカーはいいとして、あんた私の部屋に来なさい」


「へ」


 ぐいっと有無を言わさず力強く握られた菊理は逆らう術がなかった。それから30分、鏡の前での格闘が始まった。


「よし、こんな感じかな」


 百合絵は自分の出来栄えに腕を組みうなづいた。菊理は鏡の前で自分の姿に疑った。


「これが、私?」


 そこには30分前の自分と別の姿が映っていた。淡い色のワンピースに青のジーンズ、そして髪の毛には油をつけてドライヤーをかけてサラサラにしてもらった。


「姉さん…すごい」

 

 妹が感心する様子に百合絵はなんだか照れ臭くなった。


「ほら、行ってきなさい 菊理」




「うん、行ってきます 姉さん」


 いつにない満面の笑みを向けられた百合絵は目頭が熱くなった。


「行ってらっしゃい 気をつけてね」


「うん」


 菊理はそう言って玄関の外に出た。


〇〇


 時刻は11時前。場所は東京の神田神保町。


 名だたる出版社が軒を連ねていることで有名だが、喫茶、カレー屋、居酒屋など多く店舗がある。


 かつて江戸時代には武家屋敷が立ち並んでいた。「神保町」の名は戦国大名越中神保民の一族である旗本・神保長治の屋敷があったことを由来する。屋敷前の道は「神保小路」と呼ばれていた。


 その神保町では老舗のある喫茶店の前で待ち合わせをしている女子が二人いた。平野花月と烏丸桃華である。


 花月は忙しなくキョロキョロと見回しながら視線を動かす。そんな花月を横で見ていた桃華は苦笑する。


「目が取れちゃうわよ」


「だって…っ」


 花月はゲームの世界で短い時間だったが、苦楽を共にした仲であるククと再会できるのである。現実の世界で出会えると思っていなかった花月は桃華から話があると言われて驚いた。


「え、ククちゃんに会えるの!?」


「ええ、あの時、ククの本名を知ってびっくりしたわ」


 その時のことを花月は思い出す。


 そういえば、ククちゃんの名前を聞いていた時桃華ちゃんびっくりしていたような。色々とあって忘れていたけど。


 こうして日にちはあっという間に過ぎていき、今日(こんにち)となるまで嬉し過ぎて昨日はあまり眠れなかったほどである。


更新が遅くてすみません(・_・;

読んでいただいてありがとうございました!

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