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第三話:クロ様



 モデルはその時の状況を詳しく説明した。


『居酒屋をはしごしていて、渋谷の街を友達と歩いていたら突然回りの電気が消えてしまってめっちゃ焦りました。そしたら大きな画面だけに電気が点いたと思ったらあの映像で、それに出てくる男性がもうかっこいんです』


 モデルが男性のことを褒めちぎる様子に周囲は面白そうに笑った。


「そんなにかっこいいなら見てみたいけど、その映像なんか消されていて見ることができなかったんですよね」


 コメンテーターとして出ている芸人は残念そうにつぶやいた。その言葉を皮切りにMCは声を上げた。


「そんな人たちのために我々スタッフ一同が集結してその映像を入手しました」


 その言葉を聞いた朝日達は一同にぎくりと肩をこわばらせる。朝日は花月に気づかれないように目配せして祈った。


 黒い髪に銀の瞳、黒の着物をきた男性がバケモノを一刀両断するシーンは爽快でたった数十秒でも見るものを魅了するにはあまりにも十分だった。


「は〜、かっこいい、あとで誰かここだけ保存しておいてほしい」


「この人は一体何者なんでしょうかね」


 MCの疑問には評論家のコメンテーターが答えた。


「これは現実の世界ではなく、ゲームの世界の誰かがこのバケモノを倒してプレーヤーの意識が覚醒したとのことなのでこのかたは言うなら命の恩人ではないのでしょうか」


 それに賛同するかのようにゲスト達はうなづく。


「このテレビを見て心当たりのある方はテレビ局までお電話ください」


 そう締めくくり、次の話題へと流れた。同じように流したいところだが、朝日、真澄、志郎は心穏やかではなかった。朝日は真澄と志郎に念話を送った。


『どうしよう、これから!?』


『帰ったらまた話し合いましょう。まずは学校に行って、学校の状況を確かめてください』


『学校…』


 朝日は学校という言葉で、あるクラスメートのことを思い出して頭を抱えたくなった。確か今日から学校に行けることになっている。幼馴染の挙動がおかしいことに気づいた花月は朝日の様子を伺う。


「大丈夫、朝日ちゃん? やっぱりどこか悪いんじゃ」


 朝日のことになると真澄は神経質になるので聞き逃さなかった。


「やっぱり…?」


 それに朝日はぎくりと肩をこわばらせた。


「へぅ、あ、いや ぼ、じゃなくて私は全然平気だよ」


 思わず一人称が普通になりそうだったが何とか堪えた。腕をぶんぶんと回す朝日に花月は安心したかのように胸を撫で下ろした。


 真澄は何か言いたそうだったが、朝日が何か言いにくそうだったのを察し、うなづくに留まった。


 学校を向かう道なりには花屋さんがある。そこには小さい頃から花月がお世話になっているお店で近所からも慕われているイケメンで話いやすいお兄さんである。


「おはようございます、りんさん」


「あら、おはよう はなちゃん、朝日ちゃん、真澄ちゃんも」


「おはようございます」と朝日と真澄は挨拶を述べた。


「それにしても最近のゲームって物騒ね ゲームしているだけで意識をなくしてしまうなんて」


(正確には魂を抜かれてしまっているのだが)


 朝日達は思いながらりんの話を聞いた。


「本当に物騒よね、あなた達も気をつけるようにね」


「は、はい そんなに怖いものがあるんですね」


 口ごもる花月に朝日は苦笑する。


『うん、あなた達?』


 その言葉に何だか違和感を感じ朝日はりんを凝視する。花月だけではなく自分たちも含んでいるかのような言い方にである。どういうことだと問おうとした時だった。


「あなたたち、時間は大丈夫なの?」


「え、あ もう行かないと」


 花月達は慌ててりんに別れを告げた。


「行ってらっしゃい 気をつけてね」


【本当に昔からトラブルに巻き込まれる二人なんだから】

 

 ため息をつきながら作業に戻った。


〇〇



 朝日達が学校へ着くと周りはスマホを持っていた。スマホは授業時間以外、消していれば、学校に持ってきても特にお咎めはないのがありがたい。


「ねえ〜、今日もニュース見た」


「見た見た クロ様でしょう」


(クロ様?)


 その名前に朝日達は、はてなマークで何のことだろうと考えていた時だった。陽気な声が朝日達にかかる。


「おはよ〜ん、みんな元気にしていた」


 久しぶりに会う遠藤麻里子の姿に花月は破顔する。


「麻里子!もう体調はいいの?」


「うん、起きている時はずっと寝ていたから、体力を戻すのに必死だったよ お医者さんももう大丈夫って言っていたし」


「よかったっ」


「心配かけてごめんね、平野ちゃん」


 その言葉にぶんぶんと首を振った。


「戻ってきてくれて本当によかった」

 

 話し合いもそこそこに、次はお昼に話そうと昼休みに持ち越しになった。


〇〇


 桃華もその後合流して一緒に昼ごはんを食べることになった。花月、朝日、真澄、桃華、友希子、麻里子は適当な場所に座り、まずは腹ごしらえをすることにした。


 朝日と真澄は風呂敷を広げると三段重ねと一口サイズの食べやすいおにぎりが陳列していた。


「ほわ〜、めっちゃ美味しそうだね 朝日ちゃん家のお弁当」


 麻里子はキラキラと目を光らせる、それに友希子は強くうなづいた。


「よかったらどうぞ」


 朝日は麻里子に箸を勧めた。こんなに大きい弁当を持ってきたのは今回麻里子のためである。


 今回は幸いにして魂をちゃんと体に帰ってきて、後遺症もないことに対しての志郎からのそして朝日達からの密かなお祝いなのである。


「う〜ん、美味しい」


 こうしてまた一緒に食べることができて本当によかったと朝日と、そして花月は思い思いに麻里子を見つめた。食欲も満たし朝日はあることを思い出した。


「そういえばクロ様って一体何だったんでしょう」


 それに反応したのは切り替えの早い麻里子である。


「あれ、知らないの? クロ様といえば私をいや、あのゲームの中で囚われたプレーヤー達を救った英雄でしょ?」


「え、英雄って」


「私たちを助けてくれた恩人なんだから英雄って呼ばれてもおかしくないと思うよ、あ、他にも銀さまとか呼んでいた子もいたような…」


「クロ様というのは見た目が黒だからでしょうか?」


 それに質問をしたのは真澄である。それに麻里子はうなづいた。麻里子から発せられる新事実に朝日は聞かなければよかったと後悔したがもう遅い。


「そうね、それとあの姿を間近で見てまずは見惚れるだろうね」


 うんうんと麻里子は強くうなづいた。それに賛同するかのように花月はうなづいたのを友紀子は気づいた。


「花月も見たことあるの?」


「へ? えっと、テレビで今朝見てあんなにかっこいい人が助けてくれたら惚れちゃうな〜って」


 花月はその時他のプレーヤーを助けるために移動していたので気づかなかった、テレビで見た時はとても驚いたぐらいだ。


「そうかな…?」


 ポツリとつぶやいた言葉を桃華が耳で拾い口を開いた。


「何んであんたが照れているの?」


「え、あ、いや」


 訝しげに桃華は狼狽える朝日を見つめる。主人が困っているのを見て真澄はすけだちする。


「烏丸さん、りんご 美味しいですよ いかがですか?」


 真澄に勧められた桃華は大人しくうなづいた。桃華は真澄に料理修行をされてから戦々恐々になってしまったのである。しゃくしゃくと歯応えのあるりんごを黙々と食べる。


「美味しいですか?」


 真澄の何気ない圧に桃華は刻々とうなづいた。朝日は桃華に申し訳ないと思いながらも念話で真澄に送った。


『真澄、ありがとう』


『いえ』


 そんな静かな戦いもあった昼休みが終わりそうになった時に麻里子はクロ様に対しての想いを話した。


「私、その人にお礼を言いたいんだ、みんなを助けてくれてありがとうって」


 それには友紀子も口を開いた。


「私も言いたい 私の友達を助けてくれてありがとうございますって」


 友希子の気持ちがこもった言葉に花月と桃華はうなづいた。朝日と真澄はその言葉に耳を傾けながら本当にみんな助かってよかったと心からそう思った。


『この子たちを守りたい、それにーー』


 チラリと横の花月を見た。珍しく寝坊してしまったのも、見回りと朝日がここ最近始めた体術のせいである。そのため筋肉がついてしまい花月が力が強いと思ったのもこのためである。


 それと朝日がゲームであの大ボスを倒した時は無我夢中で前後の記憶が飛んでいる。一歩何かミスがあれば大惨事になっていてもおかしくない。そのために訓練を志郎に頼んだのだが生活に支障をきたしたら本末転倒である。もう少し軽めしてもらおうと朝日は考えた。



『それにしてもクロ様って、今後聞いた時シラフでいないといけないのか…』


 考えに耽っている朝日を桃華がじっと見つめていたのを最後まで気づかなかった。


読んでいただいてありがとうございました!

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