第十九話:終焉へ
それより少し前に遡る。朝日達の他にも紅姫や慎之介達も自分の命を省みず奮闘する。
自分の命を大切にしてほしいが、そのおかげで逃げ遅れたプレーヤーの助けになっているのだ。
そして近くで兵士たちをなぎ払っている憲暁に朝日は目を向けた。
『何でだろう……また懐かしく感じてしまうのは』
朝日はふと先日陰陽寮であった憲暁のことを思い出した。そしてそこで気づいた。
『まさか、あの少年なのか そんな馬鹿な』
思わぬ予想だが外れてないかもしれない。
『現に僕がゲームの世界にいるんだ、他の者達も何らかの任務で来ていてもおかしくない。まさか遠藤さんと出会うとは思ってなかったけど』
そのわずかな時間、考え込んでいたときだった。誰かが叫ぶ声が聞こえた。何だと思い見ると自分の方に襲いかかってくる残像が見えた。
そのことに体が強張ってしまい、朝日は動けなかった。そしてーー朝日に衝撃が襲った。
〇〇
粉塵が舞い上がり、辺りに煙が漂う。
「う……ぐ」
朝日は頭と背中に強い痛みが走ったが何とか意識が戻った。
『何が起きたんだ』
すぐ横を見ると憲暁が覆い被さっていた。
「おお!? なんでお前が」
すぐ引き剥がそうとしたとき、手にべったりとしたものがついたことに気がついた。
それは赤い血だった。
そしてようやく気づいた。彼の背中がざっくりと斬られていたことに。
「お……い お前」
朝日は震えながら憲暁を見つめた。口元から血を流しながら彼は呟いた。
「バカが……敵から目を離すな……」
そう言い残して、憲暁は意識を失った。その瞬間誰かと面影が重なる。
『何だ これは一体…どうして…あいつの顔が重なるんだ あいつの名は確かーー信忠』
彼を守れなかった。彼は……また彼を……。
〇〇
強襲に成功した大王は朝日達を見下ろして呟いた。
「ふふ、お友達は虫の息ですね。早く私の糧になるが良い」
大王は再び凶刃を下ろそうとする。志郎と秀光は少し離れたところにいたため朝日達が襲われたことにようやく気づいた。
「憲暁!!」
「アキミツさん!」
その声に大王は嘲笑いながら振り下ろした。その刹那ーー朝日かた発する光が凶刃を弾き飛ばした。
「な、何だと!?」
朝日は激昂した。
「ふざけるんじゃねえ……俺たちはお前の糧になんてならねえ!!」
朝日の容姿が少年から大人びた骨格になり、黒髪がさらりと伸び、瞳が銀色に変わる。
その姿に見たものは一同に驚くが、別の意味で驚いているものがいた。それは先ほどまで見下していた大王の傀だった。傀は我が目を疑った。黒髪に銀の瞳だと。
彼は一人だけその色を持っている人物を数百年前に一度だけみたことがある。その姿は鬼族を束ねるものとして尊大で、そして畏怖の対象であった。
だからこそ自分は夢でも見ているかと思った。
「どういうことだ……なぜお前のようなものが御三家の暮の一族に似ているのだ」
『御三家……暮の一族』
喚き散らす単語に朝日は今どうでもよかった。
「そんなの知るか……俺は俺だ」
咆哮をあげながら、刀が異様な光を放ち、そしてそれをなぎ払った。大王は避けようとするが、近くに寄りすぎてしまい直撃してしまう。
「ぐわあああああ!!」
あまりの痛みに断末魔の叫び声を上げてよろめく。
『どうして私に物理攻撃は効かないはず……………ワタシハ……ココデ ハ アノカタノタメに』
そういって大王は、傀は消滅した。
〇〇
「終わったのか……」
秀光がそう呟くのを耳にしながら、志郎は呆然としていた。それは今の朝日の姿だった。まさかゲームの世界とはいえ、本来の姿に戻るとは思わなかったからだ。
本来であれば朝日、いや暁光が志郎に視線を向けた。妖にとっては100年はほんの一瞬の時間だが、久しぶりに感じた主人の姿に志郎は柄にもなく目頭が熱くなった。
「志郎…」
そう呟いた瞬間、ぐらりと体が傾いた。それを志郎は見逃さなかった。倒れる前に彼の体を支えると朝日の姿になっていた。
少し残念な気持ちになったが、無事なようでほっとした。裕司と照良は憲暁のもとに駆け寄った。
そしてすぐに彼の体をみると驚いた。
「憲暁の傷が治っている!?」
「確かに切り傷がありますが…」
そこは先ほどまで斬られたところがないほど綺麗に完治していた。そのことに志郎はほっとして彼らに近づいた。
「あなた達のおかげで私の仲間が助かりました、本当にありがとうございます」
お礼を述べられた秀光達は慌てた。
「いえ…お礼を言うのは私たちで、彼があのボスを倒してしまうとは、思いもしなかったので…彼が大丈夫ですか?」
彼…朝日の容態を裕司は聞いた。
「はい、全力を使い切るように寝てしまいました」
そのことに裕司は心からほっとする表情をした。
「そうでしたか…色々と聞きたいことがありますが。今は聞くつもりはありません」
今すぐにでも聞きたいだろう心情を呑み込み、朝日達のことを配慮した。
「お気遣いありがとうございます」
話が終わると紅姫がやってきた。
「大丈夫だった みんな!?」
「はい、大丈夫でした 紅姫さんは」
「私は大丈夫、何度も蹴散らしてやったわ アキミツ様は大丈夫?」
紅姫は心配そうに眠る朝日を見つめた。
「はい、今はぐっすりと眠っているだけです」
「そうか、よかった」
慎之介もやってきて朝日の働きをねぎらった。
「まさかこの少年があのような力があるとは、また再戦したいものだ」
花月や真澄達も朝日達のもとに戻ってきた。
「さてと、これからどうするか……」
志郎は考えて呟く。
「ツボの中に入れられたプレーヤーの魂を開放してみましょう」
「それじゃ 私がやるわ はっ」
桃華がツボを叩き割るとぱきりとした音をたてて崩れた。そして縛られた魂が戻っていった。花月達はそれをみて喜んだ。
(よかった……みんな元に戻って)
人々がようやく落ち着いたとき、世界がぐらついた。
「これは一体」
「もうやめてくれよ」
裕司は周囲を確認して、おぼろげになっていることに気づいた。
「まさか、これは……大王がいなくなってゲームの世界が終わるのでは」
「終わったらどうなるのよ」
「ログアウトってところかしらね」
『そうだと良いのですが』
志郎は場の雰囲気を壊すようなことは言わなかった。ただでさえ不安定だと言うのに。花月達が降りてきた下町が無くなっていく。
プレーヤーの一人、また一人が目の前から光となって消えていく。知り合いとなったプレーヤーに別れを告げた。
「それでは達者でな」
紅姫は志郎に別れを告げた。
「起きたらありがとう、楽しかったよって伝えて」
「はい、必ず」
憲暁達も光り、そして消えた。花月達もククに別れを告げた。仲良くなっていた分、別れるのが一入寂しかった。
「また会うことができますか?」
「うん、会える そういえばククちゃんの名前は?」
今はゆっくり話せる時間も惜しく直接聞いた。
「はい、私の名前はーー」
桃華はその名前を聞いて、驚いた。
いかがだったでしょうか?
キリトが黒の剣士の姿に変わるシーンは壮観で、クライマックスという場面、朝日のこうゆうシーンがあったら盛り上がると思い描いてみました。
文字数が少なくなってしまったので第六部の表記を第五・五部に変更します。上下巻合わせて10万文字越えた程度とはどんだけ甘く見積もっていたのやら∑(゜Д゜)
いよいよ投稿のストックが無くなり、次の話で一旦投稿が終わりとなります。
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
最後の投稿までぜひご覧ください!