第十五話:ブチ切れ
そしておもむろに朝日と目が合う。
『何で僕を見るんだ』
それに嫌な予感がした朝日は視線を逸らそうとした時、志郎が勝手に話を進める。
「それじゃここにいる彼と手合わせしてください」
「えっ」
何をいっているんだと朝日は驚愕する。そんな提案をするなと口を開こうとした矢先に憲暁の方が口を開いた。
「分かりました 勝ったら俺に修行をつけてくれるってことですね」
「はい」
本人の承諾なしに勝手に決められた朝日は流石に黙っていられなかった。
「ちょっと待て!何を勝手にいっているんだ 僕はそんなことで戦わないぞ」
朝日の言葉を聞いた憲暁はふんと鼻で笑う。
「どんな奴かと思えば腑抜けか、戦うまでもなさそうだ」
明らかにバカにした言葉に朝日は思わず固まった。
『腑抜け……戦うまでもないなど!?』
今自分が言われたのかと思わず考えてしまった。真澄はそれを聞いてじっと睨みつけた。
『朝日様になんてことを』
前を出ようとした時、それを止めたのは朝日だった。
『朝日様?』
心配そうな真澄に朝日は意味深にコクリとうなづいて前へと進み出た。朝日は憲暁に向かい声をあげた。
「別に戦いたくないとはいってない」
「は? 今さっき戦いたくないって」
憲暁は分からず、秀光はそのことを思い出した。
「あ、そういえばいっていたね 『そんな理由でって』」
「そんな理由でって何だ?」
「あんたがしろ……じゃなかった。セイに稽古をつけてもらうことだよ!」
「それの何が悪い?」
絶妙に話の噛み合わないことに朝日は苛立つ。
「はあ、もういいよ」
ため息をつき投げやりに言う朝日に真面目な性格の憲暁のかんに触った。
「何だ、その物言いは?」
朝日はとうとうブチ切れた。
「そんなの俺の勝手でしょ」
『あ』
真澄と志郎は朝日の一人称が変わったことに気づいた。感情的にいった時に「僕」から「俺」に変わることは知っていた。
『大丈夫でしょうか』
そのことに真澄と志郎は思案する。
『少し様子を見てみましょうか』
『はい……』
朝日の言い分に憲暁は我慢できなかった。
「それじゃとっとと構えろ」
武器の刀を憲暁は構えた。
「ああ、言われなくとも」
もはや売り言葉にかい言葉である。バチバチと憲暁と朝日の間に火花を散らした。
「それじゃ僕たちはどうしますか」
そこには裕司と照良と秀光が暇そうに持て余していた。
「そうですね 戦いを見届けたいと思っていたのですが、私も体を動かしたいと暇そうなので」
「何だ、俺たちは準備運動代わりってやつか」
照良は面白そうに笑って裕司はその頭をこづいた。
「いて」
「何、バカなことをいっているんですか?」
「別にいいだろ?」
その話のやりとりに志郎は既視感を感じた。
(どこかで聞いたような……)
「私はどうした方がいいでしょうか」
真澄は志郎に指示を仰いだ。
「そうですね それでは彼女(秀光)の相手を」
志郎の配分に照良は口を開いた。
「おいおい 一人で相手にするつもりかよ ちょっと舐めすぎじゃねえか」
「おや二人でも心細いですか、三人でも構いませんよ」
志郎の明らかに挑発する物言いに照良はカチンときた。
「いいぜ、相手してやるよ」
簡単な挑発に乗せられた照良に裕司はため息をついたのだった。
「それでは場所を移動しましょうか」
「ええ、そうですね」
志郎と裕司と照良は移動した。そして残った真澄は秀光に話しかける。
「私たちも移動しましょうか」
「そうだね……のりりん頑張ってね」
ふざけた言い方だが、彼なりの応援だった。
「ああ お前も気を付けろよ」
「うん」
朝日と真澄は念話をした。
『朝日さま、ご健闘を』
『うん 真澄も気をつけて』
『はい!』
そして二人は場所を移動した。
〇〇
花月達は戦いを固唾を飲みながら見守っていた。
(アキミツさん達頑張って!)
〇〇
憲暁と朝日の戦いは始まっていた。お互いに相手との距離を取りながら間合いを図る。
憲暁はそれなりの場数を踏んでいるので、相手がどれだけの力量なのか図ることが出来る。
(こいつ思った以上にできるな)
そんなことを思いながら憲暁は彼の黒髪を見てある人物を思い出す。
(オカゲ様 ……そういえばあの人も使っていたのは刀だったな)
憲暁がそう思った瞬間、朝日が御影様と重なったように見えたのだ。
そのことに思わず首を振る。
(何だ……今のは)
「考え事とは余裕ですね」
憲暁はハッとすると声の持ち主はすぐそばまで迫っていた。朝日が刀を素早く抜き放ち斬撃を放つ。しかしその攻撃に皮一枚で止まった。
(浅い)
手応えがないことに朝日は歯がみする。
(あいつ、あの一瞬で後ろに下がりやがった)
憲暁はさらに後方に下がり息を整えた。
(まずかったと言うか実践だったら死んでいた)
少しでも油断していた憲暁は自分を許せずに刀を持っていない手で拳を作り、頬を殴りつけた。その行動に朝日と見ていた一同は驚いた。どうしたものかと朝日は困惑するが、
「悪い……続けてくれ」
憲暁の目を見て気持ちを切り替えた。
「分かりました」
(あの一瞬で自分の油断を諫めやがった)
一連の行動に驚いた。
(これは長期戦になるのはまずいな)
朝日は気持ちを改めて、戦いを臨んだ。
〇〇
そして志郎VS裕司と照良も場所を移動してから戦いを始めた。
「さてとまずはどちらから来ても構いませんよ」
志郎は二人を挑発するように言うが
「そんな安い挑発には乗りませんよ」
裕司は鼻を鳴らし、志郎はふふっと笑った。
「そうですか なら私から始めましょうか」
その瞬間、二人の目の前から志郎は姿を消した。裕司はそのことに驚愕する。その瞬間、衝撃が襲った。けれどその攻撃は裕司は当たらなかった。それを遮ったのは前に出た照良だった。自分の攻撃を防御した照良に志郎は目を見開く。
「おや、いい目をお持ちです」
「はは、それほどでも」
裕司は彼の動きについていけなかったことに悔しく思った。運動神経は自分よりも照良の方が上だと言うことは自他ともに認めていたが。
「ったく どんだけの速さで動いてんだよ 集中してねえと追いつけなかったぞ」
それを見逃さなかった照良もすごいが、彼は何でもないことのようにいった。
『私がサポートに入ります』
今日は分が悪いと思った裕司は照良に主導権を譲った。
『わかった』
志郎は楽しそうに口を開いた。
「楽しくなりそうですね」
〇〇
一方真澄VS秀光は同じく場所を移動して戦いが始まる。
「どっちから始めようか?」
軽快に話す秀光に真澄は淡々と答える。
「私はどちらでも構いません」
「そう? それじゃ僕から始めるね」
秀光が出してきた武器は飛び道具だった。
しかしその攻撃は大抵の相手だったら一発でノックアウトされているだろうが、その攻撃は防御された。
「速さはなかなかですね」
真澄が持っていたのは札だった。
「術師か」
秀光の質問に真澄はうなづいた。
「はい、その通りです」
秀光は陰陽師の攻撃の仕方など、血筋も生まれてからのプロフェッショナルである。だからこそ自信があった。
けれどそれは真澄も同じことである。彼女はかつて安倍晴明を凌ぐ陰陽師の式神だったと言うことを、行使する側もそれをどう躱すかも心得ていた。そして数十分が経過し、勝敗を制したのはーー。