第十三話:元ヤン疑惑?
「ほう、これは一本取られましたね 」
志郎は擦り傷を受けたにもかかわらず嬉しげな声をあげた。彼が動き出そうとした瞬間だった。
『志郎! これ以上はやりすぎだ』
突如朝日の声が頭の中に響いた。
『アキミツ様?』
切羽詰まった朝日の声に昂った気持ちが沈静化される。目の前を見るとキツネが驚いた表情をしていた。
「……殺さないのか?」
もういつ倒されてもおかしくない状態のキツネに志郎は止めを刺した。
「ええ、今すぐに」
そしてアイのチームが勝利したのだった。アナウンスは志郎の戦いっぷりを熱く語る。
「いや〜、あの戦闘は恐ろしいですね。さすが紅姫のお仲間ですね。それと対戦した特に忍者のチームには称賛に値します」
合戦から帰ってきた忍者の仲間達がその言葉に歓声をあげた。
「よっしゃ」
「やった〜」
仲間達が嬉しそうな声をあげるのを見て負けてしまったが、この光景を見てあの時は逃げないと良かったと心から思えた。
〇〇
そして勝ったものの紅姫のチームは先陣切った志郎を朝日は糾弾する。
「セイさん、随分と目立っていましたね」
「………あれは そのなんて言うかその、昔の血が疼いてしまったと言うか」
珍しく志郎は視線を泳がせながら理由を話すのだが、その言葉を聞いたアイは呟いた。
「うん? セイさんって元ヤンだったの?」
「モ、元ヤン!?」
まさかそんな風に言われると思ってなかった志郎は思わぬ所からダメージを受けたのだった。
〇〇
そして先ほどの激戦をみたものは興奮様やらぬものがいた。それは次に対戦する憲暁だった。キラキラと目を輝かせる様はまるで少年のようである。
少年は少年なのだが、普段が大人といることが多く毅然としたたたずまいが叩き込まれているのだが、こうゆう子どもらしいとこは少なかった。
『あの人一体なんて名前だろう、ぜひ指南してもらいたい!』
憲暁が思っていることが手にとるように分かった秀光は苦笑した。
「いや〜、すごい強敵が現れましたね 先輩達は倒せそうですか」
後輩から質問された裕司と照良は考える。
「あ〜、体術ならともかく、あの紅姫って子の剣捌きだったらな」
「そうですね あれはちょっと初見では厳しいかもしれませんね」
そこまで言わせる者に日々研鑽を積んでいる憲暁はますます指導してもらいたいと思った。
「次はいよいよ僕たちのチームですね」
麻里子ことメリーが話を始めた。
「次は12位と第10位のチームとなんですね 一番強いのが第5位の 団のチームで大将は少年だよ」
「それは面白そうだな」
憲暁は好戦的な笑みをした。そして各々チームは合戦場に転送された。
「それで まずどうしましょうか?」
「まずは相手の情報が必要ですね この中で一番強いのは第5位ってことですか」
「淳っていう中学生みたいな少年だね、2年くらいでできたばかりなんだけど、統制の取れているチームだよ」
「一度やりあってみないとわからないですね」
「なら一人でひとチーム潰した方が良いんじゃないか?」
「あ、それはやめた方が良いかも、向こうもそれなりの場数を踏んでいるから、数分あるだけで結構罠とか作れちゃうしね、やるなら全員で攻略した方が良いかも」
メリーの的確なアドバイスは一理あると思いうなづいた。そのことに憲暁は少し驚いた。その表情にメリーは何を思っているのか分かった。
「僕がこんなこと言うと思わなかった?」
「う、ああ、まあな」
憲暁の素直な答えにメリーは笑った。
「まあこれでも何年もやっているからね」
「すごいですね メリーさん」
裕司に褒められて、メリーはまんざらでもなかった。憲暁はメリーになんとなくフォローされたのに気付いていない。彼の実直さは時と場合により良くも悪くもなるのだ。
〇〇
淳がこのゲームをしてからもう数ヶ月が流れる。最初は一人で活動をしていたが、やがて同じような趣味、思考を持つ人々と出会いいつしか仲間となっていった。
それから上へ上へと目指しているが、自分より上位のプレーヤーは猛者ばかりであった。
そしていよいよ今日チームでの合戦を行い、優勝すれば大王への挑戦権を得られると言う。滅多にない醍醐味に根っからのゲーマーは逃したくなかった。それは仲間達も同じである。
そしてそのための情報収集を忘れない。二つのチームは攻略していたのでそんなに不安ではなかったが、後もう一つのチームが問題だった。
つい先日入ってきたばかりだと言うのに経験者並みの、いやそれ以上の動きをするチームだった。
「この前の例の対戦見たか? あれで初心者かよ」
「それは僕たちもだろ?」
「まあ、そうだけど」
「そうだな 二つのチームを早めに攻略していって 最後に彼らのチームを狙いにいくか」
転送される前に作戦を話し終えて、まずは一つのチームを攻略していった。見事な迅速な動きに実況は声を上げる。
「お〜っと、早くも一つのチームが脱落。さすが第5位ですね、しかし同じくらいもう一つのチームも奮闘しています。それはノリ選手のチームです」
二つの大将のポイントが消えたことに憲暁と淳は確認した。
『向こうも同じことを考えていたか……』
「アッツー、こっちに向かってきますよ」
「そうだなーーさてと行こうか!」
淳は声を上げて向かうとそこには憲暁のチームがおり、こちらに向かっていた。そして最初に激突したのは淳と憲暁だった。刀がぶつかり衝撃音が辺りに響き渡る。
憲暁をフォローしようと秀光は声をかけるが彼に止められる。
「一対一の真剣勝負だ 手を出すなよ」
声を上げた憲暁に秀光は苦笑する。もし邪魔をすれば後でどんな風にガミガミ言われるだろうと、大人しくすることにした。
それは裕司と照良も一緒だった。後輩の願いを無下にするように心は狭くない。そしてそれは淳の仲間達も一緒だった。ここで出会って数ヶ月だが、良い仲間に巡り会えたと思っているからこそ、淳を信頼していた。一向に力を緩めない淳に憲暁は笑った。
「お前、なかなか強いな 俺の一太刀で大体のものは斬られるんだが」
憲暁の言葉に淳は挑発するように笑った。
「へえ〜、それじゃその大体のものと俺は一緒じゃないってことか」
「そうなるな」
「それじゃ少し本気になろうか」
その瞬間、淳の持っていた刀が光り輝いた。そして光と同時に力も強まっていたことに憲暁は気づき、腕の力を強めた。
「これはっ なんだ?」
「知らないの? 強化っていう術を武器に付与しているんだよ」
「そんな仕組みがあったのか」
『初めて知ったのか』
それをしても即座に対応し耐えている憲暁はやはり異常だと淳は感じた。そして何度か刀を交わりながら、スピードは淳が、力は憲暁が上で接戦していた。
「やるな お前」
「あんたこそな」
憲暁が楽しむ様子に秀光、裕司、照良、メリーはもはや観客になっていた。
「いや、のりりん めっちゃ楽しそうだね」
「あれ もう僕らのこと忘れているね」
「はは」
だがいつまでも対戦しているわけにはいかない。最初に痺れを切らしたのは淳だった。
「はあ!!」
長期戦も得意だが、実力の未知数なプレーヤーとの長期戦はやりたくなかった。いつまでもプレッシャーが襲いかかる。やるのなら短期。
(そこだ!)
憲暁の絶好のロスを狙い、畳み掛けるが後方に下がった。
『今のは不味かったですね ふふ』
秀光の声が頭の中に響く。
「いや〜今のは危なかったですね」
「嬉しげに言うんじゃねえ お前」
憲暁は息を整えてそして刀を構える。
「ふ〜」
目を瞑り、抜いた瞬間、憲暁の剣気の迫力に淳と仲間は飲まれそうにななった。
「ー!!」
憲暁は淳を見つめて口を開いた。
「行くぞ!」
淳は威勢よく返事をした。
「ああ!」
余談ですが志郎の息子は現ヤンです∑(゜Д゜)いずれ本筋にも登場させたいです。