第十二話:武者震い
花月たちは戦いが終わり、次は朝日たちが闘う番となった。ランキング2位の紅姫と組むことでランキング上位のものと戦うことにもなることを朝日は考えておく。自分たちが戦うのは3チームである。転送する前に帰ってきた花月たちから声をかけられる。
「頑張ってください!」
「はい、頑張ります ハナさん 凄かったですね」
「え?」
「あの敵チームを攻撃していたところです」
「あ、はい! なぜだかよく分からないんですけど」
「そうなんですか?」
「はい、何かとても大切なことを思い出したような気がして」
その一瞬、花月が別人のように見えた気がした。それはかつて夢の中で見た人物とそっくりで思わず目を瞬く。
だが次の瞬間には何も見えなかった。どう言うことだと思わずじっと見つめていると。
「いや〜、お熱いね」
いきなり聞こえた声に朝日はびくりと肩をつらし、視線を向けるとそこにはニヤつく笑みのアイが立っていた。
「あ、僕のことはお気にせず続けていいよ」
「〜〜〜」
なんだかよく分からないが羞恥心を感じた朝日だった。アイは朝日にちょっかいをかけようとするが止められる。
「アイさん、今は遊んでいる場合ではないのでは」
真澄の冷静な言葉にうなづく。
「そうだね、それじゃあお姉さんたち」
花月たちに挨拶をして朝日たちは転送された。
〇〇
「さあ〜て第42戦はランキング12位、9位、そしてランキング3位の忍者チーム「風魔」と第二位の紅姫のチームだ」
アナウンサーは興奮しながらも流暢にそれぞれのチームの特徴を説明していく。各々のチームはやはり2位の紅姫のチームを警戒した。
紅姫が強いことはわかっていたのでなかなか手を出すことができない。けれど何も対策をしないのは愚の骨頂と自分達の考察を話しあう。
「だが、紅姫と新しくできた仲間の三人とはどうなんだ」
「あの紅姫と一緒にいるんだ、強くないわけがないだろ」
「そうだよな」
「このまま他のチームと戦ってもジリ貧だろうし」
何かいい案はないかと作戦を立てようとしている時、忍者のチームの一人が対話を求めてきた。
「それでは3チームで共闘し、紅姫のチームと合戦するのは?」
二つのチームは罠かと思っていたが、あの紅姫を止める術が思い浮かばない。そして三つのチームが共闘して、紅姫のチームを追い詰める。
そのことに紅姫はいち早く気づいた。
「う〜ん、どうしようか流石に大勢来られると負傷じゃ済まないかも、1チームぐらい潰そうかな」
可愛らしい声で物騒なことをいう愛に朝日は将来が末恐ろしいと思った。そんなことを思っていると、にこやかに志郎がある提案をする。
「私が少しお手伝いしましょうか」
その素敵な笑みに朝日はなんだか悪寒が走る。
「うん、いいですよ 一人でも大丈夫ですか?」
「はい、どこまでできるか分かりませんが」
自信なさそうに言っているが、志郎は口元はニヤついていた。
「それじゃセイさん、お願いします」
「はい」
風魔の影のリーダーであるキツネは二つのチームと連携を取り合いながら紅姫のチームを追い詰めようとしていたが、これは一体どう言うことだ。
数分前で二つのチームの居場所が確認できなくなっていた。もうすでになくなっていた。なくなっていることはリタイアを意味している。
(どう言うことだ こんなに早くいなくなるなんて)
いい知れない恐怖感がチームに伝染する。そして止めを刺すように別のチームから連絡がきた。
『あんなのがいるなんて聞いてねえぞ!?』
『紅姫以外にあんな強いのがいるなんて 【おや……誰と連絡しているんですか】』
低く通る声音は優しそうなほど不気味であった。
(ああ、あとひとチームいましたか)
キツネは何が起こっているのかと言う恐怖に硬直してしまった。そしてそんなことをしている間にその男は忽然と現れる。
〇〇
現れたものの容姿は先ほど聞こえた低く通る声とあっていた。容姿の整ったこの細身の男性が2チーム倒してしまったのかと、キツネの仲間達も恐怖する。
(紅姫よりは強くないと思っていたが、……いやもしかしたらそれ以上かもしれない)
キツネはあまりの恐怖にリーダーに逃げることを提案した。リーダーがその提案にうなづくと思っていたが、返ってきたのは思わぬ言葉だった。
「は、何言っているんだ」
「何って……このままでは負けてしまいますよ」
「それじゃあお前だけ逃げればいい」
思い通りにいかないことにキツネは苛立つ。
「逃げればって……本当に言っているんですか?」
「ああ」
その言葉に激しそうになったが、言葉の端が震えていることに気づいた。
「あの……ひとつお伺いしたいのですが」
「なんだ」
「震えていませんか」
リーダーはこの時、自分の体が震えていることに気づいた。そのことに今更気づいたのか自分で驚く声が聞こえた。
「おおっと、なんだこりゃ……いやこれは断じて武者震いではないぞ これはだな ーー戦う前の準備運動だ」
『いや武者震いだろ』
『いや武者震いでしょ』
『いや武者震いしか見えない』
言わないが心の中でチーム全員が一斉に突っ込んだだろう。そう考えるとなんだかおかしくてキツネは吹き出してしまった。
「ふっふふふ」
キツネの笑い声に仲間達は驚いたように見ていた。
「なんですか?」
「いや……笑うの初めて見たので」
不躾な物言いにキツネはイラッとする。
「私をなんだと思っているんですか」
問い詰めようとするが視線をそらすのでどうしようかと思っているとーー
「そろそろよろしいですか」
志郎の方から声がかかってきた。
「ああ、お待たせしてすみません」
「いえ、私の戦いの前に戦意を喪失していないかと安心しました」
にっこりと微笑む志郎にキツネは営業で培ったスマイルで答えた。
「それはそれは、お心遣い感謝します」
言葉少なだが全く心がこもっていないやりとりに仲間達はなんだが悪寒が走った。
「ひとつだけ聞きたいことがあるんです」
キツネは特に断る理由もないので志郎の言葉を聞き入れた。
「貴方はどうして逃げなかったのですか?」
「!」
思わぬ言葉にキツネはどうしたものかと思ったが、本当のことを告げた。
「ええ、私も逃げた方がいいかと思いましたが、貴方の圧倒的な強さを目の前にしたらーーだけどそれじゃ何も変わらない 現実の世界の俺とーー」
自分は安全なところに逃げればいい、そう思っていたけど今は違う。今は一人ではない。
「打算的でしたか?」
「いえ、そうゆうの嫌いじゃありませんよ」
志郎は身構え、リーダーは仲間に指示を出した。
『お前ら、あいつを一瞬でもいい 動きを止めろ!』
「おう!」
仲間達は威勢の良い声を上げる。
志郎に何か仕掛けるかと思いきや、仲間達はアイテムのようなものを出してそれを被せて彼の動きを止めた。
「これは……?」
「それは捕縛アイテムでどんな敵でも数分間動けない」
「なるほど」
しかし捕縛されても動くことはできた。仲間達は志郎に襲いかかるが攻撃を与えようとしても身のこなしが素早く当てられない。
「この!?」
「はあ はあ どんだけ早いのよっ」
そして数分間はあっという間に終わり、仲間達は倒され、リーダーも倒されていく。
「さて、貴方一人だけになりましたね」
志郎はキツネに攻撃を与えたが、その攻撃はヒットしなかった。
「……これは分身」
キツネは彼の死角を狙い、そして飛びかかる。その攻撃を志郎は避けたーーと思っていたが、わずかに頬をかすめていたらしく赤い血がたらりと落ちていく。