第十一話:あの人のように、強く
※この話を見る前に第五部(上巻)の「序章:戦いの記憶」をぜひご覧ください。
今度は敵のチームが襲いかかってきて、一人の男が声をあげた。
「あの女の後ろを狙え」
その声を聞いた桃華は花月のことだと察する。桃華は身構えるが、男が何かを投げてきた。反射でそれを居合の一撃でなぎ払った瞬間、それが飛散する。
「な!?」
それはネバついた粘液のようなもので桃華に直撃する。
「これは一体!?」
驚く桃華に敵チームはまんまと罠にハマったと嘲笑する。
「それは強力なとりもちだ! 数分たたないと効果が消えない」
笑ってくる男に桃華は歯がみする。
「く」
足を引こうとするが、足元が固まり、動けそうになかった。刀もとりもちがついていて鉛のようである。
(ここで負けるわけにはーー)
「終わりだ!」
男の構える刀が桃華を襲い掛かろうとした時だった。その瞬間、それを制したのはーー
「桃華ちゃん!!」
久しぶりに聞く名前を呼ばれた気がした。ずっと桃華の動きを見ていた花月だった。
〇〇
花月は桃華の一連の動きを見てふと思い出した。
(私もあんな風に戦えたら……もっと 強く……ううん 夢の中でみたあの人のように)
そう強く念じた時だった。何かが飛び散り、桃華に襲いかかる。そして彼女の動きを封じられてしまった。桃華から動くなと言われたけど、今動かないと彼女はーー
(私もなりたい 桃華ちゃんのように あの人のように)
その瞬間体が熱くなってるような気がした。そして無我夢中で駆け出していた。私は矛を持ち、相手の武器を受け止めた。実況のアナウンスは白熱する。
「おおっと、仲間の危機を救った!」
花月が出たことに朝日たちは驚愕する。
(はなちゃん!)
全身が沸騰しそうな感じだった。
『私、一体』
それは前にもあの奉納の儀でも感じていたものだった。
【私に任せて……】
頭の中に響く声音に花月はなぜか承諾していた。その瞬間、花月の意識はなくなり、目の前が見えなくなった。敵チームは花月の行動に何ができるんだと鼻で笑う。
「お前に何ができる 可愛いから俺の彼女にしてもいいぞ」
下品な笑う声に聞いていた朝日、真澄、志郎は凍りつくような目でみた。デスノートのように抹殺リストに心に刻んだ。アイはあまり花月と面識がないのであまり思うところはなかったが、次の花月の行動に驚く。男は花月を襲い掛かろうとするが、目と目があった瞬間立ち止まる。
(なんだ この女 さっきまでの目つきが…!?)
先ほどの弱々しい感じではなく、今は悠然と立っている姿に立ちすくむ。リーダーが止まったことに仲間の一人が声をかけてハッとする。
(何をしているんだ 俺は 相手はただの女だ!)
気持ちを切り替えた男は再び攻撃を再開する。
「はあああ!」
花月は矛を構え、彼の一撃を受け流して、彼の体を突いた。その攻撃は彼にダメージを与えた。花月の一連の動きを見ていた桃華は驚く。
(あれは、花月なの…?)
「お前……よくも」
口惜しげに仲間を傷つけられたものは衝動的になる。桃華は動けず、花月も近くにいるので動けなかった。その時ーー
『動かないでーー』
その時ククの声が聞こえた。花月と桃華は動かなかった。彼女は木の上から狙いを定めていた。何度も打とうとしながら、タイミングを測っていた。
(今、打つときではない 落ち着いて……)
ククはかつての自分を思い出し、そして向き合う。
〇〇
二人が前線に出ているときに近くにある木陰でククは身を潜めていた。少し前に言われたことをククは思い出す。
『無闇矢鱈に打たないこと、打てば警戒して敵チームは動かなくなる。長期戦は慣れていないからやるなら相手が油断している最初の瞬間が必ず訪れる』
『その時を狙えばいいんですね』
『タイミングはククに任せる』
任せると言う言葉はその人を信頼していないと出てこない。プレッシャーももちろんあったが、今のところなんの役にも立っていない。ククは花月と桃華の重荷にはなりたくなかった。
もうあの時のように誰かの邪魔になんてなりたくないと。けどそれだけじゃ何も変わらない。
桃華のように武術が優れているわけではない。花月のように気配りができるわけではない。
「だけど私は だからこそ、私は二人に格好悪い姿を見せたくない」
他の人たちからどんなに悪く言われても貶されても、傷ついたけどあまりどうも思わなかった。
(私って薄情なのかな)
そんなことを今、考えている自分が少しおかしくなって笑いそうになったがなんとか堪えた。
気持ちを切り替えて、深呼吸をして息を整えた。タイミングを見計らい、そして合図を出した。
『動かないで!』
二人の動きがピタリと止まり、敵チームは動かなくなった。花月と桃華を不自然に思った次の瞬間、衝撃が襲った。
「なっ!?」
予想もしていなかった攻撃に敵は開いた口が塞がらない。それには実況も興奮していた。
「おおっと、これはとんだ伏兵 絶体絶命かと思いきや、スナイパーはここぞと言う時を狙っていたのか!!」
朝日たちは彼女がーーククを打ったタイミングを称賛する。
「今のタイミングは良かったですね」
「はい、敵チームはククさんのことを忘れていましたし、そのおかげで緊張せずに動けたのでしょ」
そのシーンは憲暁たちも見ていた。
「あんな小さな女の子が射撃の腕がうまかったね」
秀光の称賛に憲暁はふんと鼻息を出す。
「別に俺たちの世界では珍しいことではないだろう」
憲暁の言葉に秀光は苦笑する。
(はあ〜、それはそうなんだけど)
陰陽寮に入れば武器の適性を検査するなどがある。憲暁は刀、秀光はお札などだった。
憲暁は言い分もあるようだったが、少し口調がきつすぎるところもあった。コミュニケーションが高い秀光が仲介に入ることで、話が円滑になるぐらいである。憲暁の癇癪に何人の女の子が泣いたことか。
(そう言えばと)
秀光は一度チームを組んでやたら射撃が上手だったことを女の子のことを思い出した。姿を見なくなってからどれくらいかと思い出そうとしたが思い出せなかった。
〇〇
ククの射撃はそれにとどまらなかった。一撃、また一撃と連射して、それは見事に命中した。
「てめえ!?」
他のものは倒されてしまう。そのことに頭に血が上ったリーダーはククに狙いを定める。ククは矢を構え、弦を引こうとしたが声がかかる。
『クク、ストップ』
ピタリと動きを止めた。リーダーは狙いを定めようとした時、衝撃がリーダーを襲った。何が起きたんだと思い後ろを振り返るとそこには桃華が立っていた。
すでに切られたことに気づいた時はもうすでに遅い。自分の体が音を立てて消滅していった。その時点で負けが確定となった。
「モモ選手のチームの勝利です」
花月はそのアナウンスを聞いてククと桃華に駆け寄る。
「やったね。モモちゃん、ククちゃん」
「ほ、本当に終わったんでしょうか」
アナウンスを聞いても今では信じられずなぜか呆然としていた。
「本当に勝ったんですか?」
花月は満面の笑みで答えると、ククは腰を抜かした。
「ククちゃん 大丈夫!?」
どうしたのかと思ったが、
「良かった……うう」
緊張がとけたククは号泣した。その姿に桃華はふっと吹き出したのだった。
第五部の「序章:戦いの記憶」からどういう風に花月に描写していくか、繋げることを考えながら書きました(^ ^)
花月の戦闘シーン、もっと描きたかったですけど設定上無理があるので、たった一撃だけですけど色んな意味を込めました!