第十話:嘘だろ
「えっ、って言うことは私……じゃなくて僕死んでいるの?」
「はい」
裕司はどう説明しようかと思い考えたが無駄に終わる。
「そんな困るよ、やってみたいことがまだまだあるし!」
照良はメリーが何をやってみたいなのか気になった。
「やりたいことって?」
「写真を撮ることなんだけど、可愛い女の子の写真とか女の子とか」
「同じこと二回言ってますけど」
「大事なことなので」
キリッとする表情に裕司は頭が痛くなった。
「あなた絶対に現実世界では男ですね」
断言する物言いにメリーはバッサリと告げる。
「いや〜、これでも現実では女子高生なんだよね」
「………」
あまりの予想外の言葉に一同は固まる。憲暁はメリーの言葉に拒絶する。
「嘘だろ」
「本当だよ、ピチピチの女子高生だよ」
「だったもう少し女性らしくしろ」
「この格好で?」
メリーのアバターは細身の男性である。急に女性らしくと言われたメリーはしなを作った。
「え〜、こんな感じ」
「今はやめろ!」
憲暁の必死な形相に笑いそうになったがメリーはグッと堪える。
「は〜い」
中身が女子高生のメリーにおちょくられている憲暁を見ていた秀光は笑いを堪えきれず、憲暁に怒られる。
「何がおかしい…」
「いや、最近も同じ光景を見たな〜って思い出して」
興味深いことに照良は食いついた。
「なんだ同じことって?」
「いや〜、それがですね」
二人の悪ノリに裕司は嗜める。
「二人とも無駄話をしている場合じゃないですよ」
ごごごと背後に黒いオーラを纏った般若がいてピタリと止まった。
「そう言えば探している人って見つかりました?」
唐突なメリーの質問に裕司は首を振る。
「いえ、全くですね」
「それって警察関係者とか……もしかして犯罪者とか?」
不安そうな裕司はそれに首を振った。
「いえ、犯罪者ではありません」
「そうなんだ」
〇〇
一方、花月たちはやれるだけのことをやり、準備を整えていた。その後アキミツ(朝日)から声をかけられた。
「あ、こんにちは アキミツさん」
「うん、こんにちは なんかすごいことになったね」
「そうですね、でもやれるだけのことをやりたいので……この世界のどこかに友達がいて、もう二度と会えなくなるなんて……なんとしてもそれを止めないと」
「危険な目に遭っても……?」
「はい」
アキミツは花月の表情を見てそっと息をつく。
「そうですか……お互い頑張りましょう」
「はい」
その後アナウンスが流れて花月たちは向かい合戦場に転送された。花月は転送された瞬間アキミツが幼なじみの面影を感じた。
(朝日ちゃん…絶対に戻ってくるね)
そして花月たちを含めた4チームは転送された。着いた瞬間にカウントが現れてゲームが開始した。
それぞれのチームは離れたところから始まる。情報収集のためばらける者もいるが特攻で襲撃してくるものもいる。けれどどこのチームと合戦するのかわかれば短時間で情報を共有することができる。そして一つのチームは花月たちに狙いを定めた。
「たった三人の集まりだ、しかも女」
「そこを狙おう」
「よし、行くぞ」
桃華は合戦する前に花月とククと会議をした。
「きっと最初は私たちを狙ってくるでしょうね」
〇〇
桃華の直球な言葉に花月とククはゴクリと生唾を飲み込む。
「でもそれで一つの作戦に絞れる。襲ってくるなら向かい撃てばいいのよ」
潔い言葉に花月とククはかっこいいと褒め称えるがそれを誰がするのかと我に返る。
「えっと迎え撃つって、どうすれば」
「そうね……最初に遠距離でククが攻撃するのも考えたんだけど」
ちらりと桃華はククの腕前を思い出した。
「やめた方がいいわね」
ざっくりと容赦のない言葉にグサリと矢が刺さったが落ち込んでいる暇はない。
「他のチームが間近まで迫ってきた時に私が居合いで相手を牽制するのはどうかな?」
桃華の作戦にククは驚いて口を開く。
「居合ができるんですか?」
「ええ、修行をし始める前の基本中の基本よ」
なんでもないことのように言っている桃華に対して、
「へえ〜剣道とかやっているんですか?」
「これはーーー」
花月は話の方向性がまずいと思い、横入りする。
「それでモモちゃんがそれをしてから私たちはどうすればいいの?」
「え、あ……うん そうね、ククは近くで集中して狙いを定めること、ハナはそうね、あまり私から離れない方がいいかもね」
「うん、分かった」
そこで会議は終わった。
〇〇
合戦が始まり、桃華の読み通りに花月たちも狙われた。
そして敵チームのものたちは警戒をしながら、花月たちに近づいていくとひらけた草原で二人がポツリと立っていた。あまりにも堂々としているので、敵チームに警戒心を強める。
「あいつら馬鹿なのか」
「あんな所にいて、攻撃してくださいって言っているようなものじゃないか」
一人出ようとしたがリーダーがそれを止める。
「いや、何か罠かもしれない」
どうするかと話しあい、一斉に攻撃するか遠距離で攻撃するかと話し合い、一人が攻撃して花月たちの出方を見ることにした。
一人が前に出たのを見て桃華は目を細めた。
(馬鹿じゃないわよね)
(モモちゃん)
心配そうな声音に桃華は返事をする。
(ええ、分かっているわ 動かないで)
(うん)
その場にアナウンスする女性は実況しながら興奮していた。
「さて、彼女たちはどう対戦していくのか!?」
その映像を見ながら、アキ=朝日はハラハラとした気持ちで見つめていた。
(はなちゃん、烏丸さん!)
「二人のことが心配?」
「え」
いつの間にか隣にいた愛に朝日は本音で驚く。
「わ」
「っと、驚かすつもりはなかったんだけど ごめんね」
「え、あ いえ 僕の方こそ」
心ここにあらずの状態の朝日にアイは優しく語りかける。
「きっと大丈夫じゃないかな、なんだか あの二人なら」
「どうして、そうだと」
「う〜ん、何となくかな?」
そんなことを話ししていると次の展開で歓声が湧き上がる。桃華が居合で一人のプレーヤーをなぎ払ったからだ。
即退場となり失格となった。敵チームはその攻撃に戦慄が走る。
(なんだあれは、あの女 あんなことができるのか?!)
(どうする!?)
「お〜とこれは彼女が放ったのは居合という抜刀術、鞘から抜き放つ動作で一撃を加えるのですが、どうなっているんでしょうか! 吹っ飛んでいきましたよ」
桃華の剣術を面白おかしく言うが称賛していた。それを見ていた上位プレーヤーも目を見張るものがあった。
(あんな攻撃をしてくるなんて)
(このままじゃまずいぞ)
どうにか打開策はないかと探していると一人の少女が目に入った。それは全く動かない花月だった。
(どうして動かないんだ いや、動かないんじゃない 動けないのか)
そのことに少し余裕が出てきたリーダーはある作戦を立てる。
(よし、あの子を狙うぞ)
(あの子って彼女の後ろにいるのですか?)
(ああ、前に出ないと言うは非戦闘員かもしれない)
(確かに)
(あの女の対抗策にあれを使おう)
桃華も実践は豊富だが、あることを忘れていた。それは彼らが一般人ではないことを、ゲームの経験での場数を踏んでいることに。
次回、花月がいよいよ……