第九話:大王の出現
各々が自分の欲望を満たす中、この男ーー傀もまた自分の願いをかなえるために大詰めへと準備していた。
「さてと私も行くとするか」
おもむろに腰を上げてベッドに向かった。そこにあるのはベットとVRゴーグルと端末だった。
あまりの人数の多さに陰陽局も後手に回っている。明るみに出るのも時間の問題だろう。嘲笑いながら傀は仲間に声をかけた。
「それでは私は行く その間に私の体を頼んだ」
「ああ、わかった そう言う契約だからな」
それを最後に傀はゲームの世界へとダイブした。そして楽しい非日常は急転する。危険と恐怖が入り混じった混沌へーー。
〇〇
町全体に鐘の様な音が鳴り響いた。この世界に訪れたものたちは聞いたことがない大きな音に何事だと驚く。
そして空を埋め尽くす様な大きな人影が現れて言葉を発した。
「この世界をプレイしているものたちよ 楽しくしてしているだろうか」
プレーヤーはその姿に驚いて声も出ないしそれどころではなかった。人影は一方的に喋り始める。
「まずは自己紹介からしよう、私はこの世界の大王であり、君たちが倒すべき最大の敵だ」
「君たちの戦いを見てきたが、なかなかの粒揃い。それで私も対戦して見たくなってきた」
「それで私はあるゲームを考えた。全プレーヤーが強制的に参加すること」
それを聞いたプレーヤーの反応は様々だった。ゲームをするのは遊び感覚で来ていたものもいる。
『ちょっと冗談でしょ』
『本気なの?』
みな疑心暗鬼の中、不安を吐き出す。
「不参加はできないのか!?」
「ふむ、先ほど不参加という声を耳にしたが、それも大丈夫ーー」
ほっと安心したのも束の間だった。大王が次に話す言葉に耳を疑う。
「その者は戦うことを放棄したとみなし、永遠の眠りについてもらう」
物騒なワードに不安よりも恐怖の感情が強まる。
「眠りにつくなんて……まるで死ぬみたいに」
動揺するがこれがゲームだと言うことは邪魔をする。
「早めに言っておく。眠りとは死を意味する……そして現実でログアウトをすることができなくした」
「! なんだって」
それぞれが自分のステータス画面を開けて確認すると、ログアウトの項目がきれいになくなっていた。ログアウトできなければ現実の世界に帰ることができない。
「いくらなんでも酷すぎるだろう!? 責任者を出せ!」
「訴えてやるぞ!」
声だかに叫ぶもののどうすることもできない鬱憤に歯がみするしかない。
「あなた方がこの世界を抜け出す方法があります。それは全プレーヤーの合戦で勝ち抜き、優勝したものが私の挑戦権を得られるということです」
「でもそれって、ランキングが下の者は不利よね」
「なおランキングの上位プレーヤーのみはいきなり対戦することはない。第20位から第1位までは特別な枠にしよう」
「各々の経験値に個人差があるので合戦は見合ったものと対戦することにする」
不満を抱くものが多いが、そのことに関しては溜飲を下げる。
「それでは各々の準備に取り掛かってくれたまえ。合戦の日程はそれぞれログに配布しておく。それでは健闘を祈る」
その瞬間大きな人影は姿を消した。まるで狐につままれたとうな気分だろう。みんなでゲームの中であってもこれが現実なのである。
この世界が最初から仕組まれていたことを知る者はわずか数人のみ。花月、朝日、桃華、真澄、志郎、憲暁、秀光、裕司、照良ーーこれから起きるであろう事態が、そして全員の命を救うことに覚悟を決める。
〇〇
花月たちは空に浮かぶ巨大な人影に恐怖を抱きながらも気持ちを奮い立たせる。
「あれがこの世界の大ボスってわけね。倒せばこの世界から……」
「うん」
花月と桃華が慌ていない様子に、大王の出現やログアウトができないことの恐怖は消えないがそれだけの理性はあった。
「もしかして……こうなることわかっていましたか」
ククの何気ない一言に桃華と花月は目を合わせてコクリとうなづいた。そして現実世界で起きていることを教えた。
「そんなゲームをしている人たちが全員仮死状態なんて……」
あまりの予想外の言葉にククは腰が抜けてしまう。
「ククちゃんっ」
花月はショックを受けるククに寄り添った。
「ハナさん、私は」
なんて言えばいいのかわからずククは言葉にできなかった。自分の知らぬまに現実の世界では仮にでも死んでいるのだ。精神的なダメージも大きかった。
けれど今、打ちひしがれている場合ではなかった。残酷にも明日には花月たちのチームが合戦のリストに入っていたのだ。桃華は気持ちを切り替えて、落ち込むククに話しかける。
「それでも戦わないと行けない」
桃華はあえて現実の言葉を突きつける。
「今は辛くて苦しいかもしれない……けどまだ完全には死んではいない 死んだら何もできない……」
桃華の瞳に陰りが出来たのを花月は気づいた。
(桃華ちゃん……)
何を思い誰を思っているのかなんとなく分かった。
「泣くのは全てが終わった後、その時にいっぱい泣けばいい」
桃華の思いがあふれた叱咤激励にククは目頭が熱くなったがなんとかグッと堪えた。
「モモさん……私、頑張ります」
「よし、その意気よ!」
花月たちはより一層仲を深めていく。
〇〇
そして朝日たちは同じく大王の出現とログアウトができない状態を驚いていないことにアイは訝しむ。
「あまり驚いていない様だね」
いきなり話しかけられた朝日はどうしたものかと声が吃る様子に志郎は口を開く。
「本当のことを話してもいいんじゃないんですか? こんな状態ですし」
「うん……そうだな」
朝日は気持ちを切り替えて、愛に視線をむけた。
「実は……」
今、現実世界で起きていることを説明した。ゲームプレイしたものが仮死状態になっている事、そして自分たちが根元を断つために任務できたことを。
「それでか……」
「え……?」
「なんか他の人たちと違うって言うか、初心者にしてはやけに動きがいいといいなって思っていたんだ」
朝日たちはアイの観察眼に舌を巻く。
「何か隠していることがあるって分かっていたけど、まさかこんなこととはね〜」
「すみません、隠していて……」
「いや、いいよ 混乱を招かねないためでしょ 向こうの世界はどうなっているの?」
「向こうの世界は大人たちが頑張っています けれどいつかは」
「そう、一つだけ聞きたいんだけど」
「はい…?」
アイの神妙な面持ちで口を開く。
「もしかして警察に関係するものじゃないよね」
「……え」
朝日は思わず驚く。
「違いますけど?」
「そっか……ごめんね 変なこと聞いて 忘れて」
忘れてと言われてもと、朝日と真澄と志郎はどうしてそんなことを聞いたのか、聞きたいがアイの笑顔に聞くことができなかった。
〇〇
そして憲暁たちは別のところで大王の出現を目撃していた。
「大ボスのご登場ですね」
「ああ、やっとだね」
恐怖よりも張り詰める緊張感が気になった麻里子もといメリーじゃ好奇心がくすぐられる。
「なんかお兄さんたちって普通の感じがしないね 何者なの」
ド直球に聞かれた憲暁は警察関係であることを話した。そして今、現実世界で起きていることを話すとメリーは驚いた表情をする。
SAO的な展開です。コナンの「ベイカー街の亡霊」でもそうでしたが。一度書いてみたかった描写でした。
どちらとも10年も前になりますが、アニメのSAOの第一話をみた時のあの高揚感とこれからどうなっていくのかというワクワク感は中々味わうことができないものでした(^ ^)
仮想世界に閉じ込められるプレーヤーと花月と朝日たちが大王にどう立ち向かっていくかお楽しみください。