第七話:城田淳
今日、淳は十三歳になる少年だ。中学一年生になり、少し大きめの学ランを着るのが億劫だった。
クラスの中に一人はいそうな平凡な顔立ちの少年が彼だった。そして成績優秀でもなく運動神経がいいということもなかった。そんな彼が唯一自慢ができることはゲームだった。
小さい頃から手先が器用で数日間で攻略してしまったり徹夜してしまうことは何度もあった。そして、ネットである広告を見て面白そうなものを見つけた。
それが「合戦・百花繚乱」との出会いの始まりだった。値段を見ると子供だと厳しい値段だったが、親に相談してみた。
「そうね、父さんに聞いてみないと」
買えない時ははっきりというので、父の帰りを楽しみに待っていた。そして父からは誕生日に買ってもいいと言われ、1ヶ月後の誕生日がより待ち遠しかった。
学校に行っても、授業やつまらない。たまに勉強になることもあるが、学校の中で楽しみといえば給食と体を動かすのは嫌いではなかったので体育の時間ぐらいだった。
ホームルームが終わるとクラスメートと校庭で遊ぶことなく、通り道で寄り道することなく真っ直ぐに家に帰るのみである。
淳は今日の家に帰るのが楽しみだった。それは注文していたゲームが届く日だったからである。
玄関を開けるとそこには大きな箱が置かれていた。それをみて淳はキラキラと目を輝かせた。
「これ!?」
がばりとてに持ち上げると、人影が奥からやってきた。
「お帰りなさい 早くなったけど誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「お父さんにもお礼を言うのよ」
「うん!」
淳の嬉しそうな声に母は嬉しそうに笑った。
父が帰ってきたら早速お礼を言った。
「大事にするんだぞ」
「うん、大事にするね」
夕食を済ませて、早速ゲームをすることにした。箱を開けると、VRゴーグルと端末と説明書が入っていた。一通り読み込んでいくと早速寝転がり、VRゴーグルをつけた。
(さてと どんな感じなのか楽しみだな)
淳は色んなゲームをしてきたが、こんな映像度が綺麗なものは初めてで驚いた。
(これは本物なのか)
女性のような人物が現れて、自分のアバターを設定していく。
(アバターって自分の分身なんだよな なりたいものか……アニメに出てくるような主人公 強くてかっこいいヒーローみたいな)
戦闘スタイルは近接タイプの拳闘士にした。
「それではコードネームをお願いします」
「アツシでお願いします」
「アツシ様ですね。 登録しました それではゲームを開始します 御武運を」
淳は次に目を開けた瞬間、社会科の教科書で見るような街並みに、コスプレのような人たちで溢れかえっていた。
(こんなに人がいるのか……って服装が変わっている)
自分を見下ろすと自分の格好にも驚いた。
「すげえ」
自分の格好に嬉しくなりながら、アツシはまだ見ぬ冒険に心躍らせる。
(まずは情報収集しないと)
初めてきたばかりなので右も左もわからない。どこかで情報収集できないかと捜索することにした。そして歩いていくと掲示板のようなものが見えた。それはこのゲームをしようと思ったきっかけでもある。
掲示板を見ると、森の中にあることがわかった。
(合戦場ってどんなところだろう)
少し歩いていくとそこには一際大きい建物があった。
「ここでいいのか?」
キョロキョロとしながら歩く様子は初心者であることが丸見えで、アツシをじっと見つめていた。アツシの後ろを気づかれないように後ろを追っていった。
〇〇
まずは武器の使い方を覚えないと思ったが、ピンとするものがなく無難な短剣を選ぶことにした。修練する部屋があることを武器屋の人に聞いてそこに向かった。
一通りの武器の使い方を取得して部屋をでた。
(さてとこれで一応準備万端かな)
合戦場に参加するために受付に向かい登録すると、数分後に呼ばれた。その時の集団の一人から呼ばれた気がした。
「お前も今から合戦か?」
「……? ああ」
この世界に知り合いはもちろん、現実世界に自分がゲームをしていることをしているなんて教えていないはずだ。
その男は笑みを隠しきれない様子だったが、特に気にすることなく合戦場に転送された。合戦場は山というか森の中だった。アツシのゲームプレイでも森の中での対戦は不便だった。
その中で有利になる戦闘スタイルは遠距離攻撃だ。弓矢、銃などで狙われたら防御する手立てがないものは致命的である。そんなことを考えていると実況の声が全体に広がる。
「さて、今回合戦場に登録されたのは36チーム、その中で勝利を手にするのは誰か 、合戦開始です」
静かに戦いの火蓋は切って落とされる。
(さてと、まずは敵がどこにいるか探索しないとな)
アツシは準備を整えるために行動をした。各々のチームは積極的に攻撃するもの達や罠などを作り敵を攻略するものもいた。
正々堂々と戦うものもいれば、弱みを付け狙うのは常套手段であった。まだ戦い慣れていない初心者を狙われることも少なくなかった。リアルタイムでプレーヤーチームがマイナス12へと減っていった。
(あと24チームか)
アツシは冷静にソロなので敵のチームと遭遇しないように探索しながらいると一人の青年プレーヤーが集団に追われているのが見えた。その集団の一人に見覚えがあり、気になったアツシはそのもの達を追うことにした。追い詰められた青年は崖の下まで追い詰められてしまい、まさに絶対絶命である。
「くそっ お前ら よってたかって卑怯だぞ こんなの人殺しじゃないか」
青年の口惜しそうな言葉に、集団は宣う。
「人殺しってここはゲームの中だ、それに負けるのが悪いんだよ 俺たちがPKしても、俺たちを取締るものはいなしな」
反論できない青年に男達は言いたい放題である。
「まあ、一つだけ忠告して置いてやろう、次に復活する時は初心者丸出しでくるんじゃねえぞ」
「……な」
どうして初心者であることを知っているのか驚いた青年の表情に嘲笑する。
「だってあんなにキョロキョロとしていれば、分かるよな」
「!!」
青年は自分の無意識にしていた行動に見られていたことに今更気づいた。そして気づいたものの今更遅い。口惜しげに歯噛みしながら集団を睨みつけた。
「じゃあ、殺そうか」
振りかぶる衝撃に呆然としていたその時だった。
「やめろ!!」
一人の少年の声が聞こえた。男達は少年に気づき驚いていたが元の表情に戻った。少年が一人だけの様子に集団は余裕であることを隠さなかった。
「やめろだってよ、はは、お前に何ができる」
「こいつ見たことあるぜ、お前もこいつと同じように初心者だということは分かっている。こいつを済ませたら探しに行こって思ってたんだよ」
(やっぱりそういうことか)
男は一瞬アツシから目を離したスキだった。その間に男達が一瞬で吹っ飛ばされていく。
あっという間に一人だけとなってしまった男は泡を食う。
「どういうことだ……お前初心者じゃ」
「初心者でも慣れていれば強いってことあるでしょ」
アツシはなんでもないように男を拳で吹っ飛ばし、そして青年からお礼を言われた。この合戦はアツシが勝利して、その後人脈を集め第5位までの上り詰めるのはそう時間はかからなかった。