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第十二話:お泊まりと知らない一面

「なんか嵐が過ぎ去ったあとみたいだね…」


「はは、そうだね」 


 さっきの一連の騒ぎのことを友希子は可笑しそうに笑い、花月はそれに同意した。私達はさっきの女子達と同じように各々の教室に戻っていく。


「いや〜、また二人のいちゃいちゃっぷりが見れて眼福だね」


 前方にいる花月達に目線をやる麻里子は顔は美少女顔負けなのに、ぐふぐふと口元に浮かぶ笑みを隠しもしない様子に友希子は力が抜ける。


「そこも変わっていないね」


 まだ16歳になのに残業があるサラリーマンのような哀愁あるため息を漏らした友希子であった。


〇〇〇〇


【花月・視点】


 授業中に私は悩んでいた。他のことを考えないようにしようとしても全然集中できそうにない。悩んだ結果、私は朝日ちゃんにお願いをすることにした。


 放課後になり彼女に声をかけることにした。


 どうして悩んでいたのかと言うと、お泊まりの誘いを一回断っていたので言いにくかったが、最近の不眠に今後の生活の支障をきたす恐れがあると思ったからである。


「朝日ちゃん、今日…お家に泊まりにいっていいかな?」



「…うん!、 花月ちゃんならいつでも大歓迎だよ」


 普段は表情を出さない朝日ちゃんの嬉しそうな顔に私はホッとして、学校が終わり、彼女の家にお泊まりするために一度家に帰った。


 お泊まりセットをバックに詰め、玄関にある家族の写真に「行ってきます」の挨拶をした後の一瞬が無性に孤独感に襲われてしまう。


「行ってきます、お父さん、お母さん」


 私は数分後、朝日ちゃんの家の玄関の前に到着した。彼女の家は立派な日本家屋で門構えがあり玄関までが少し遠い。


 普通は玄関のチャイムを鳴らして入るのが常識だが幼なじみの特権である。私は玄関を少し開けて中の住人に呼びかける。


「御免ください、誰かいませんか?」


 ガラス張りの玄関の扉の奥に小柄な人影が見えて、玄関をガチャリと解錠する音がして、扉が引かれる。


「花月さん、ようこそいらっしゃいませ」


「こんにちは、真澄さん。 今日はお世話になります」


 玄関を開けたのは真澄さんだった。今朝のいつも着ている和服とは違い、朝顔の柄が入った着物を着ている。


「真澄さんの着物とても可愛いですね」


「ふふ、ありがとうございます。 花月さんにも用意しているので是非着てみてください」


「えっ 私のものまで!?」


 私がサプライズに嬉し半分に驚いていると、廊下の方からドタドタと足音が近づいてくるのを耳にする。


「はなちゃ…!?」


 私が来たことに走り寄ってきたことになんだかこちらまで嬉しくなる。けれど、名前を呼ぼうと口を開いている瞬間に私の隣にいるを見てピタリと足を止める。


 横を見ると、真澄さんは渋い表情をしていて口を開く。


「朝日さん、廊下はお静かに」


 その言葉にしゅんと「はい」いう姿に、なんか主人に叱られるわんちゃんみたいだなと、私が思ったことは内緒です。


「ごめんなさい。 はなちゃんの声が聞こえて、つい嬉しくなって」


 気がついたら小走りになっていたと、朝日ちゃんは頰を赤らめていった。彼女の髪の毛が濡れていることに私と真澄さんは気づいた。


「朝日さん、まだ髪が濡れていますよ」


真澄さんは風邪を引かないように朝日ちゃんに注意する。


「お風呂に入っていたの?」


「うん。 お風呂っていうか温泉みたいに広いから」


「そうだったね、温泉みたいだった。 あっ、そういえば昔一緒に入っていたよね」


昔というかもう幼稚園の頃だが確か一緒に入っていたと私は思い出す。


「ふへ…う、うん そうだね」


 幼なじみと背中の流しっことかやってみたかった私は残念がりため息をつきながら、思っていたことを朝日ちゃんに告げた。


「そっか〜、お風呂にもう入っちゃったんだ。一緒に入りたかったな〜」


「……」


 急に黙り込んだ朝日ちゃんに私はどうしたのかと彼女に目線を向ける。


「…朝日ちゃーー!? どうしたの? 顔真っ赤だよ」


「へ?」


 私の言う通り朝日ちゃんの顔はトマトのように顔が真っ赤でそう指摘されて、余計に顔を赤らめる。


「!!?」


 朝日ちゃんは頭に手をかざし、私は体調が悪いのかと心配し顔を近づけるがさらに、苦しみ出したように見える。


「どこか具合でも悪いの?」


「…ゔん、え〜とっ」


「どうやら湯あたりをしたみたいですね。 夕ご飯まで縁側でゆっくりと涼んでいてください」


 自然な動作で真澄さんは朝日ちゃんを縁側に座らせた。ほお〜さすがだな〜ひと目見ただけで症状が分かるなんてと私は感心する。


「それじゃお風呂に行ってきます」


「うん、行ってらっしゃい はなちゃん」


 私は行ってらっしゃいという言葉が好きで、『行ってらっしゃい』と言う言葉をくれる朝日ちゃんやこの家の人たちにいつも心が暖かくなる。


「真澄さんはお風呂にまだ入っていないんですか?」


「はい。 私もまだお風呂に入っていないので」


「僭越ながら私がお背中を流しましょうか?」


「ではお言葉に甘えてよろしくお願いします」



〇〇



両親と何回か公共の施設にある温泉や銭湯には行ったことがあるが朝日ちゃんの家の温泉は格別である。


 入り口には暖簾があって男と女の掛札がある。今は当然女の札が掛けられている。


 昔懐かしい暖簾をくぐると脱衣所も広々としていて、洗面所の鏡も綺麗に磨かれているのが分かる。


 棚の中には服を入れるカゴがあり、私ははやる気持ちを押さえいそいそと自分の着ている服を脱いだ。


 ガラッと引き戸を開く音が鳴る。


「うわあ〜」


「すごい」


 私の目の前に広がるのは岩風呂で奥には、小さめのお風呂がいくつかある。


「そこに体を洗う場所があります」


「あっ はい」


 真澄さんに鏡とシャワーがあるところに案内された。


 大きめの鏡の前に座り、髪の毛からシャンプーとボディソープで洗っていき、体の前を洗い終わった。


 私の様子を見ていた真澄さんに声をかけられる。


「そろそろ背中を洗ってもよろしいですか?」


「はい、よろしくお願いします」


 私の背中が無防備にさらされる。


「痛くはありませんか?」


「丁度いいです」


 私はそう言うと、真澄さんはふふふと微笑んだ。


「それは良かったです」


「それじゃ私も」


「え?」


「私も真澄さんの背中流したいです。 ダメじゃなければですが…」


 私はお返しにと真澄さんにお願いをした。


「いいえ、それではお願いします」


 真澄さんは腰ぐらいまである髪の毛をサラリと前に流した。


 普段は着物とか多いため、初めて見た私は真澄さんのうなじの美しさに思わず見とれた。


 濡れて白く光る珠のような肌と匂い立つ色香にゾッとする。


「花月さん? どうかしました?」


『……ハッ?』


 いつまでたっても背中を洗われないため、真澄さんは鏡に映る私を心配そうに見ていた。


「い、今 流しますっ」


 私はようやく自分の世界に戻り、慌てて作業を始めた。そしてようやくお風呂タイムの始まりだ。


 最近は家ではなるべく節約するためにシャワーだけのことが多い私は無性に嬉しかった。


「すごいですね〜 こんなに大きいお風呂に」


 足のつま先を湯船に入れる花月に真澄はお湯の温度を聞いた。


「お湯加減はどうですか?」


「少し熱めですけど外だからこれぐらいがいいですね」


 私の返事に肯定し、真澄さんもようやく風呂に入った。


「この温泉もすごいですけど、景色も最高ですね」


 温泉の中には季節らしい桜の木が生えていた。


「ありがとうございます。 そんなに喜んでいただけてとても嬉しいです」


 真澄さんは私の賞賛に頰を染めた。その時、ふわっと春風が吹き、風呂の中に桜の花びらが落ちてきた。


 黒髪が二房と風に揺れ、しなやかな曲線美が水面に揺れる。その光景に思わず見惚れ、私は口が滑る。


「真澄さんって美人ですね。 おまけに家事や掃除やいろんなことが出来て」


「え…とあの、そんなことは…」


 私からの唐突なベタ褒めに真澄さんは照れ臭そうに困った表情をする。


 真澄さんは言葉に詰まりかけるが、持ち前の冷静さで何とか持ち応えコホンと咳払いをする。


「…花月さん、そんなことはありません。 それに私も最初は家事が下手だったんですよ」


 私は真澄さんの意外な過去に目を見開いた。


「最初から何でもできる人なんていません」


「けれど、それはある人のためなんです。 ……ある人の役に立ちたくて」


「それってーー」


 言いかけるようとする私だったが


「!」


「や、やっぱり何でもないです」


 私は慌てて言い直した。


 わずかな間だけど、真澄さんの表情に言葉を失ったからである。真澄さんのどこか遠くを見る切ない面差しにーー


 次に見た彼女の困った笑みに私は口を噤む。言い出すことが出来なかった。


『なぜか聞けなかった』


『聞いちゃいけないと思った』


『ある人って…真澄さんの好きな人ですか?』


 たった一言なのに。

 

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