第二話:………え
また誰か乱入した来たと男たちはその者を睨み付けるとその容姿を見てギョッとする。
「お前は……紅姫」
震えながら名前をいう声に紅姫は艶然と微笑んだ。
「あら、私の呼び名を知っているなんて嬉しいわ、お礼にお相手をしてくれるかしら」
「ひい!?」
男たちはアイのーー紅姫の恐ろしさを知っているので悲鳴をあげて、蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。
その様子に事情を知らない花月たちは呆気に取られた。さっきまでの威勢はどこへ行ったのだと思った。
「あら〜、私ちょっと遣り合いたかったのに、残念だわ」
冗談なのか、本気なのか分からない言葉に真澄は嗜めた。
「残念ではありません、必要以上の戦闘は控えてください」
「は〜い」
叱られているのだが、アイはそっぽを向きながら口元をにやつかせた。
「あ、あの」
「うん?」
近くにいたアイが返事をする。花月は助けてもらったことに感謝を述べる。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
「いいえ、困っていたらお互い様よ、といより一番先に助けたのは私じゃなくてーー」
アイは視界の隅にいるのを逃さまいと彼にーー朝日に視線を移した。
「彼なんだけど」
朝日はその瞬間、ぎくりと肩を揺らしそうになった。
(ま、まずいぞ、まさかここではなちゃんたちと会うことになるとは、何も考えずにっ)
いつの間にか勝手に体が動いていて助けていた。ーーのはいいのだが、その後のことを考えていなかった。
(どうしよう、真澄!?)
朝日の動揺が手に取るようにわかる真澄は落ち着いた声で話しかける。
(落ち着いてください、朝日様 花月様はあなたのことに気付いていません)
(え…?)
見ると花月と目を合わせても自分を朝日だと気付いていない。
(今のお姿から普段の格好から想像できないのでしょう)
(あ、そっか 今の様な女装をしていなんだった)
(はい、なので、知らないふりをしていれば問題ないかと)
(う、うん、わかった)
朝日と真澄の相談会は終わった。ぐるぐると考える様子にアイは訝しむ。
「どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「彼女がお礼を言いたいそうよ」
「あ、うん」
目の前まできた花月は自分の本当の姿を知らないので変な気分である。
「あの助けていただいてありがとうございました」
「いえ、僕は何もしていませんよ」
「ですがあなたが助けてくれなければククちゃんが殴られていたかもしれないので」
「え、」
ククと呼ばれた彼女は目を見開いた。その時、自分が助けられたことに気付いて慌ててお辞儀をする。
「あ、あの助けていただいてありがとうございます」
「いえいえ、お怪我がなくてよかったです」
「は、はい」
「私も油断していたわ、ごめん」
「え、モモさんのせいではありません」
彼女を見て朝日は既知感を感じた。あれ、どこかで見た様なーーモモー桃、ハナちゃんの友人となり、このゲームをするきっかけとなった桃がつく名前の烏丸桃華だということに気付いた。
彼女が桃華であることに真澄と志郎に教えた。
(真澄、志郎 彼女は烏丸さんだ)
(え)
桃華とは違う容姿に目を見開く。そして彼女の雰囲気を見て合点が言った。3人は改めてお礼を言って朝日たちと別れた。朝日たちは武器屋にようやく入ると愛に話しかけられる。
「ねえ、あの子みたいなのがタイプなの?」
「へ……タイプ?」
なんのことを言っているのか分からない朝日は首を傾げる。そんな様子に朝日は口元がにやける。
「あの、ハナって子 可愛かったわね」
その名前に内心ドキリとするが悟られない様に虚勢を張る。
「そうですね、他の女の子たちも可愛かったですよ」
朝日の様子をじっと見つめながら笑っていた。
「どうかしました……」
(なるほど、あ〜いう子がタイプなのか)
朝日の問いにアイはなんでもないように首をふった。
(本当に彼は面白いわね)
〇〇
武器屋からでた花月たちは修行をする部屋に向かいながら歩き出した。
「凄かったね、あの人たち」
「うん、あの人たち何か他の人たちと違ったわね」
洞察力の鋭い桃華の言葉にククは感心して思わず拍手する。
「さすがです、モモさん」
「え、何が?」
あまり面と向かって褒められ慣れていないので恥ずかしそうに視線を逸らしながら頬が赤くなったのに隠せていない。
「そ、そうかしら」
「はい」
その光景を微笑ましそうに花月が見ていることに桃華は気付くと、
「な、何を笑っているのよ」
頬をつねられたが絶妙な力加減で痛みはなかった。そのことが嬉しくて、余計に笑ってしまうのはついである。花月は桃華から手を離されてようやく口を開く。
「それで何かすごいんですか?」
話しかけられたククは説明をした。
「はい、あの紅姫と呼ばれていた女の子はこのゲームの中で第二位の実力を持っているんです」
そのことに花月と桃華は驚く。
「え、あの可愛い女の子が第二位!?」
「はい、あんなに可愛い外見ですけど、初見だとまず分からないと思います。知らない人は餌食にされることも」
「え、餌食?」
思わぬ物騒な言葉に花月は驚愕する。
「はい、外見とは裏腹に彼女はものすごい戦闘狂なんです。なので気に入ったプレーヤーを見ると戦いを挑んでくることもあるソロプレーヤーなんです」
「ソロって確か…」
「あ、ソロは単独ってことです」
そのことに花月は思い出す。
「でも一人じゃなかったね?」
「私も情報では知っていましたが、あの紅姫が誰かと一緒にいるなんて初めて見たかもしれません」
「へ〜」
「となるとあの人たちは紅姫が認めるほどの実力を持っているかもしれません」
「なるほど、覚えていた方がいいかもしれませんね」
「情報は時と場合により左右するからね」
桃華の含蓄ある言葉に花月とククはうなづいた。
「それじゃ、修行を始めるわよ」
「はい!」
自分たちも負けていられないと修行に励んだのだった。
〇〇
昼過ぎになり、現在の人気のプレーヤーを紹介されるということで花月たちも見ることにした。
「それでは、第十位から第一位までのプレーヤーを紹介いたします」
第10位から第6位までに紹介されて次は第5位の紹介である。
「プレーヤー名はアツシ。性別は男性。チームワークもすごいけど、戦闘スタイルは拳などの体術の使い手」
その時、動画で動く少年が現れて次々と対戦の相手を倒していく。その様子に花月は驚く。
「すごいですね」
「まだまだすごい人たちいますよ」
「そして次は第4位のプレーヤー名はタマモ、性別は女性。戦闘スタイルは毒を使う。その美貌と色香で相手を翻弄して、いつの間にか倒されてしまう」
「続けて三位のプレーヤーはキツネ、チーム名は「風魔」。性別は男性だが中性的な顔立ちで女性プレーヤーを虜にする。戦闘スタイルは索敵や相手を鋭い洞察力で撹乱したりする策略タイプ」
「そして第二位のプレーヤー名は紅姫、一見愛くるしい外見だが、かなりの戦闘狂なのでご注意」
その言葉を聞いていたアイこと紅姫は文句をいう。
「ちょっと注意なんかしたらみんな怖がっちゃうじゃない」
プンスカと怒る様子に朝日は苦笑する。
「ソロプレーヤーとの情報ですが、最近はチームを組んでいるらしく、映像があります」
(………え)
そこにはデカデカと朝日が活躍する姿が流されていた。
(う、嘘だろう 目立たないように動くつもりが……)
「アキミツ様、カッコよく映っているね」
ハートが語尾に付くようなアイの言葉に朝日は乾いた笑い声しか返せなかった。
「そ、………そうだね」