第一話:面白そうだし
桃華は花月が矛を手にとっている様子を見て少し目を見開いた。武器を使いこなせる経験も必要なのだが、相性も大切である。
桃華もまだまだ熟練の武芸者としては未熟だが、武器の訓練は受けている。桃華の戦闘スタイルは体術を交えた刀剣を主に使用する。
そしてある程度の武器は使いこなせる自信があり、先ほどのククを観察したりなどで銃が合っているなどその人物がどんな武器が合っているのか見極める洞察力もあった。
(なんていうか……様になっているわね)
桃華は考えるようにおもむろに口を開いた。
「ハナってそれを使うのは初めて?」
「え、うん そうだよ」
「そう……」
歯切れの悪い桃華に花月は首を傾げる。
「どうしたの、モモちゃん?」
「いや、なんか使い慣れている気がして」
その言葉に驚きブンブンと花月は首を振る。
「初めてだよ こんなもの使ったことないし」
「そう……、どうしてこの武器がいいって思ったの?」
「う〜ん、なんかよく分かんないんだけどいいなって思ったの」
桃華はそれに黙りこむ様子に花月は心配になる。
「何かおかしかった?」
「……うん? いや、そういう直感みたいなものは大切よ ハナがそれがいいて思ったのならね」
桃華の説得力ある言葉に花月は安心した様にうなづいた。
「うん!」
こうして、花月たちは武器を選び終わり武器屋を出て行った。武器は合戦や対戦、訓練以外に解除することができない様になっている。
花月は初めての武器を持ったことに浮かれながら歩いていると、丁度曲がり角のところですれ違うプレーヤーの集団の一人にぶつかってしまう。
「あ、すみません」
花月と目があったプレーヤーの男は目が合った瞬間、花月をじっと見ていきなり悲鳴をあげた。
「あてててて!」
仲間の悲鳴に気付いて男たちはどうしたんだと集まる。
「肩をぶつけられたって、その女の子に」
男は花月のことを指差して告げる。花月は慌てて謝罪を述べる。
「すみません、痛かったですか!?」
「あ〜、肩がちょっと痛いな〜」
そのセリフを聞いた花月は焦っている様に見えて、デジャブを感じていた。
(あれ、このセリフ前にも聞いた様なーー)
思い出していると、後ろから声をかけられた。
「どうしたの、ハナ?」
「モモちゃん」
誰が来たのかと思い男たちは一瞬身構えるが、桃華の容姿を見て一蹴する。
「あんた、彼女のお仲間かい?ちょっと肩をぶつけられてよ〜古傷が痛くなってさ」
「それで」
毅然とする桃華の物言いに動じず、男は一瞬呑まれそうになるがニタリとほくそ笑む。
「だから介抱してほしんだよね」
桃華はそれを聞いてため息をついた。
「ふ〜、どの世界にも三バカの様に似た様なものがいるのね」
(あ〜、あの時の子達か)
花月はようやくそれを思い出した。桃華の物言いに男たちは訳がわからず苛立つ。
「何言っているんだ、お前」
「バカって言ってんのよ、それにちょっと打つかったぐらいで痛む様なら鍛え方が足らないんじゃない」
火に油を注ぐ言い方に男たちは殺気立つ。
「てめえ、ちょっと可愛いからって調子に乗るんじゃねえぞ」
ブチ切れた男たちは桃華に殴りかかるが軽やかに避ける。男はまさか避けられると思ってなかったのでいきなり転んでしまう。
「おわ!?」
桃華は滑稽な様に冷たい視線を投げた。
「それで古傷はどうしたの?」
「うぐ……!」
男が平然と振り上げる動きを指摘するとしまったという表情をした。仲間の前で恥をかかされた男は赤い顔になりどうにかできないかとあることを閃いた。
(お前ら、俺はこの女を相手にしている間 あの子たちを)
(いいぜ 貸し一つな)
念話を使い、策略を巡らした。男の顔つきが変わったことに桃華は訝しむ。
(なにかを企んでいるな 何を……)
桃華は警戒心を募らせるが、相手の考えていることがわからない。事態が動き出したのはほんの数秒後だった。
〇〇
男の一人が桃華を相手にして、別の者たちが花月たちを人質にしようとしたとき、動き出したのはじっとおとなしくしていたククだった。
「ハナさん、私から離れないでください」
「ククちゃん、うん!」
花月は二人の邪魔にならない様に強くうなづいた。男たちはククの華奢な容姿を見て口を開く。
「お前もなかなか可愛いじゃないか 俺たちの相手をしてくれよ」
それにククは嫌そうな声をあげる。
「け、結構です……」
ククのすっぱりと断ると男たちは逆上する。
「そうかよ、ならお前はいらねえ」
投げやりに叫ぶ男が言った言葉にククは体ではなく心が切り裂かれる。
(いらない……私は)
その時、かつてある少年から言われたことを思い出した。
『邪魔だ、やる気がないなら来るな』
たった一言、その一言で彼女の心に大きな穴を開けるのは十分だった。
「わ、私は……」
とたん、ククの威勢がなくなったことに男たちは拍子が抜ける。
(私はーーっ)
「クク!!」
焦る桃華の声にハッとした瞬間もうすでに目の前まで男が迫っていた。
(しまっ!)
「手間をかけさせるんじゃねえよ」
ククを掴み取ろうとしたその時だった。その手は制止された。
「何をしているんですか?」
男たちは驚き見るとそこには少年がいた。
〇〇
朝日たちは1試合が終わり、アイが武器屋に一緒に行ってみないかと誘われ快くうなづいた。そこに向かっていたときに人々が少しざわついていたのが気になった。
(何かあったのか?)
アイはそのことが気になり、話している通りすがりのプレーヤーに話しかける。
「ねえ、貴方」
「うん? え、貴方は!?」
「ふふ、何かあったのかしら」
にこりと微笑むアイに男は鼻の下を伸ばす。
「え、ええ なんでも武器屋の前で何やら揉めているみたいで」
「そうなの、ありがとう」
「い、いえ」
男にお礼を言うと、朝日たちにどうするか答える。
「どうしようか?」
「何か揉め事があるなら避けたほうがいいのでは」
朝日の問いに真澄はそう助言する。
「私が一言言えば済むから大丈夫よ、それと」
「それと?」
「面白そうだし」
前者はまともに聞こえるが、後者の理由が本音ではなかろうかと思った。そして武器屋の前に行くと少し人だかりができていた。
その者たちを見つけて朝日は口を開く。小柄な少女と巫女服を来た少女の顔に覚えがあったのだ。その瞬間、体が勝手に前へと進んでいた。
「ア、アキミツ様!?」
真澄はとっさに止めるが、彼には聞こえていなかった。まさか自分も朝日の方が先に動くとは思わなかったので驚いた。彼女がこの世界に来ていることは知っている。
というよりもそれが理由だったのだが、こんな形で再開するとは思ってなかった。
(ハナちゃん!!)
朝日は人々をかき分けて声をあげた。
「何をしているんですか」
男たちと彼女たちっは驚いた顔をして突然の乱入者の朝日を見つめた。
〇〇
花月が驚いている表情に朝日は何だか新鮮な気持ちになっていたが、野郎の無粋な声に邪魔をされる。
「まだ何もしてねえよ、俺たちの邪魔をするんじゃねえ」
凄んでくる男に朝日は動じない。
「なら彼女たちの邪魔をするべきではないのでは」
「うるせえ、俺らの邪魔をするならお前から」
その言葉に周りがピリッとした緊張感になったときだった。
「それなら私も混ぜてくれないかしら?」
面白そうに涼やかな笑みと共にアイは艶然と笑った。