序章:佐吉
新年明けましておめでとうございます!
予定より遅くなってしまい申し訳ありません!今日中にあと一話投稿します!
とある建物の一角で一人の男がいくつものディスプレイの前でキーボードを淡々と打ちながら作業をしていた。
彼は明るいところが苦手で部屋の中を真っ暗にしながら仕事をするのが好きだった。
暗い部屋に明るいディスプレイで作業するのは目に良くないのだが彼には問題はなかった。
彼は人間の姿かたちをしているが、中身は人間ではない。彼は鬼という妖怪の種族だった。人間達からは鬼族とも言われている。
妖怪にはいろんな種族がいる。有名なのは天狗や河童、妖狐などがおり単体で動くものもいれば、集団で動くものもいる。そして人が妖怪になるケースがあれば妖怪が人に化けるものもいる。
彼の場合は前者である。名は傀という痩せ型の男性である。傀が人から鬼になったのは100数年前のこと。
その頃はまだ東京が江戸と呼ばれていた頃だった。人間の頃の名前は佐吉。商家の三男坊として生まれ、何不自由なく過ごしていた。けれど何をしても満たされないことに気づいたのはいつごろだったか。
安心して住むところはあっても、美味しいものを食べても、女性から言い寄られてもである。
ある日、偶然酒屋の帰り道で佐吉は辻斬りの現場を目撃した。
通行人の男のギャアアアという断末魔の叫び声と、ピシャッと何かが弾ける音が聞こえた。
その日は満月だったので何が行われているかよく見えていた。月明かりの下で弾け飛ぶ鮮血は赤く煌めいた。
ただ一瞬、その瞬間に囚われる。
ただただ綺麗だとしか思えなかった。怖さよりも美しいと。
襲われた哀れな通行人は叫び声を上げて以降、ぴくりとも動かなかった。佐吉はどんな人物が殺害したのかと見つめてハッとした。
その殺戮者は赤い髪の女性だった。日本人の女性は黒かもしくは黒寄りの茶色が多いだろう。なのに女性の髪の色は見事なまでに先ほどの血の様に赤かった。
(異国人か?)
けれど彼女が着ているものは佐吉と同じ着物だった。じっと見ていると、その女性と目が合った気がした。
(ヒィ……!)
佐吉はおっかなくなり、その場で腰が抜けて硬直してしまい目を瞑った。次に目を開けた瞬間彼女は佐吉の目の前まで来ていた。
佐吉は恐怖よりもその美貌に見惚れていた。思わず佐吉は呟いていた。
「美しい………」
女性は佐吉の言ったことに口を開いた。
「あら、私が美しいのは当然よ」
鈴の様な可憐な声に、佐吉は心を乱される。
「だけど、そう言ってくれるのは悪くないわね ーーあなた名前は?」
「わ、私は佐吉と申します」
「そう、佐吉……覚えておくわ」
女性は立ち去ろうとすると、佐吉はハッとする。
「あの! 貴方様のお名前は!」
「私はーー」
そう言い残して風の様に消えていった。佐吉は女性を忘れることができなくていても経ってもいられなかった。
そして数ヶ月後、また彼女に会えないかと夜の散歩をしているとまた同じ様な場面に遭遇した。
そして引き込まれる様に向かうとそこには彼女がいた。佐吉は今度は隠れることなく、彼女に近寄った。
「あら、貴方は」
彼女は血に塗れていたが、二度目は全然怖くなかった。それよりも自分のことを忘れられてないのか不安だった。
「私のこと覚えていますか?」
「ええ、覚えているわ とっても素敵な目をしていたもの」
「目…ですか?」
「ええ、貴方 私のものにならない?」
手を差し伸べて断る理由もなかった佐吉は手に取る。
「私を貴方のものにしてください」
そうして彼女から血をもらい、鬼へと転化した。そして彼女がどれだけの存在なのか、佐吉の予想をはるかに超えていた。
彼女のそばにいるのは佐吉だけではなく、他にもたくさんいた。そしてはるかに優れているものも。
(彼女の役に立ちたい たとえ、どんな非人道でもあの方のために)
人の心を喪った佐吉はーー傀はあることを閃く。
(これで私のことを見てくれるかもしれない)