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第十八話:戦々恐々



 朝日達は絡まれていた少女を助けてくれたお礼に何かできないかと言われ、案内をしてもらうことになったまではいいのだが、街中を普通に歩いているのになぜか道ゆく人に見られている視線に居心地が悪かった。


 視線に耐えきれなくなった朝日は志郎と真澄に念話する。


『聞こえている 真澄、志郎』


『はい』


『聞こえています』


『さっきからなんだろうね、この視線は』


『ええ、私たちというか彼女の方かもしれませんね』


『彼女……?』


 朝日達は先導して歩く彼女を見つめた。


『え、彼女ってもしかして有名人!?』


『ーーの可能性がありますねというか、そう見たいですね』


 志郎の断言に朝日はショックを受けた。隠密行動をするためにあまり目立たない行動を避けていたというのに初っ端から動きづらくなったことに朝日は二人に謝った。


『ごめん……二人とも』


 朝日の落ち込む声に真澄は慌ててフォローする。


『朝日様のせいではありません!』


 志郎はいつもの冷静な言葉で朝日を落ち着かせる。


『数百年も生きた私たちでさえ初めての世界ですし、ここは臨機応変に行くしかありません』


『うん!』


 二人の頼もしい言葉に朝日はやる気が湧いてきた。そしてアイに連れられてどんどんと森の中に入っていくことに気づいた。


「この森の中に何かあるんですか?」


「はい、もう少しで着きますよ」


 歩いて行くと、現代風の建物が現れて朝日達は目を見開く。


「ここが合戦場(かっせんば)です」


「合戦」


 敵味方が出会って戦う場所なので人が入り乱れており、朝日は目をまんまると見開く。現代では洋服が見慣れているためプレーヤーが和服を着ているのが新鮮だった。


「ここはこのゲームの世界のメインとなっている場所です」


「だからこんなに人がいるんですね」


「はい」


 アイと朝日達が合戦場に一歩近づくと周囲から視線を引き寄せた。そして彼らの言葉が聞こえた。


「あれって紅姫(べにひめ)じゃないか」


「え……本当だ! まさか見れるなんてラッキー」


「紅姫様って確か単独プレーヤーだった様な」


(紅姫……彼女の名前はアイだったはず……ってあれ、その名前どこかで聞いたような)


 以前麻里子から教えてもらっていた情報なのだが、ここまで来るのに色々なことがありすぎて、なかなか思い出せない朝日は首を傾げて声に出して思い出そうとする。


「紅姫……紅姫……?」


 朝日の不思議がる言葉が聞こえたのかアイがにっこりと答えた。


「ふふ、紅姫というのは私の通り名です」


「通り名ですか……?」


「はい、アイという名前もこの世界の名前ですし」


「……え」


 朝日のリアクションにアイは驚く。


「どうしたんですか?」


「えっと、朝日って僕の本当の名前というか……」



 アイは朝日の様子に何がまずいのか察して、小声で話す。


『もしかして本名だったりします』


 朝日はわずかに沈黙してコクリとうなづいた。それにアイは確信してまた小声で話した。


「ここでは本名を言わないのは、プレーヤーの基本です」


 アイはそこで朝日達の盲点に気づいた。


「…そういえば普段はゲームをしないんですね 最初からあまりに強かったので」


「あはは…まるっきり初めてで」


 そりゃ何十年も実戦経験をしているなどと口も裂けても言えない朝日はアイ苦笑することに留める。


「ふふ、初めてなら仕方ありません このゲームを始める時は名前を登録したと思いますが」


「はい、確かアキミツって」


 その名前に真澄と志郎は目を開く。


「アキミツ様ですね、いい名前です」


 アイの褒め言葉に朝日は素直に嬉しかった。真澄はスイと志郎はセイと名乗った。


「私たちも気をつけないといけませんね」


「はい」


 真澄もといスイは心にしっかり留めた。


「それでは参りましょうか、アキミツ様」


「うん、アイさんはここでは有名人なんですか?」


「はい、少し有名ってだけです。お恥ずかしい」


 きゃと恥ずかしがる姿は可憐なびしょうじょなのだが、朝日は違和感を感じた。


(……これが少し)


 どう見ても、多少というかほとんどの人に注目されている光景は俄かには信じ難かった。


「そうですか……」


「はい、参りましょう アキミツ様」


 ギュッと腕に抱きつかれて朝日は仕方なくついていくことにした。後ろから朝日の腕を絡めたアイに真澄は凝視する。


(スイさん、殺気は抑えてください)


(すみません…っ、ですがあんなに近寄らなくても!)


 真澄の珍しく荒れた口調に志郎は苦笑した。









〇〇





 モニターがあるところに案内されるといろんな人たちが戦っている映像だった。


「これが」


「今、戦っている人たちですね」


「は〜、白熱していますね 何か勝ったらもらえたりするんですか」


「賞金がもらえたり、あとは順位が上がったりします」


「順位があるんですか」


「はい、勝ち抜き順位で一位になれば この世界のボスーー大王と戦うことができるらしいので」


(この世界のボス!)


 朝日達はその単語に引っかかりながら話を進めた。


「大王と戦った人とかいないんですか?」


「さあ、どうだろう」


 ここでアイの腑に落ちない答えに朝日達は不思議がる。


(どうだろう?)


「私も何度か戦った様な記憶があるんだけど、いつもあやふやになるっていうか……」


「それって倒したかもどうかも分からないってことですか」


「多分、記憶がないのは負けたからリセットされているかもな〜って」


(そんなアバウトでいいのか)


 内心それを聞いた朝日は唖然としていた。


(でもなんとなくだけど、少しずつ分かってきた)


 ここで負けることは危険ではない。けれど現実に起きていることは違う。刻一刻と彼らの命は刈り取られる手前だということをまだ気づいていない。


 目の前の彼女に話してもまず信じてくれるかどうか。


「どうされました?」


 考え込んでいた朝日にアイは不思議そうに見られれていたことに気づき気持ちを切り替える。


「いや、ボスっているんだな〜って 僕も一度戦ってみたいですね」


 朝日は社交辞令のつもりでいたのだが、それは悪手だった。


「それなら一緒に組みませんか?」


 いきなりアイに手を握られ、びっくりする朝日。


「組むって僕もこの中で戦えと!?」


「はい、あなたの戦闘センスは光るものがあります。ただ見ているだけなんてもったいないですわ」


「そうですねかね……はは」


 朝日はアイからの熱い眼差しからそらしながら、真澄と志郎に助けを求めた。


(誰か助けてーー!!)


 真澄が口を開く前に志郎が提案することにした。


「そうですね……ここで見ているよりも体験した方が色々といいかもしれませんね」


 志郎の決定打の一言は朝日は胸中で叫んだ。


(そんな……!?)


「では受付に行って登録しましょうか」


「はい」


 アイの喜びと対比して朝日は諦め顔でトボトボと歩いて行った。アキミツと登録を済ませた。


「それでは初めてなのでまずはランクの低い方から少しずつ合戦していくのはどうですか?」


「そうですね……」


 諦めた朝日は乾いた笑みで返事をした。朝日と真澄、志郎はアイに連れられてある空間に入ると説明された。


「ここでお待ちください。カウントが始まると合戦場に転送されます」


 するとカウントのアナウンスが流れた。


『カウントを開始します。 5・4・3・2・1 合戦場に転送します 御武運を』


 その瞬間に朝日達は光に包まれた。


「皆さん、つきましたよ」


 アイの言葉にそれぞれ目を開けるとそこにはさっきまでの場所ではなく森林の中だった。


「ここは?」


 キョロキョロと周囲を見回してもさっきまでの建物はどこかに消えていた。


「ここが合戦場となります」


 そこは辺り一面に緑あふれる森林に囲まれていた。


「本当に別のところにいるんですね」


 朝日が興味深く周りを見る仕草にアイはクスリと笑った。


「ふふ、ゆっくりと歩きたいところですが、転送されるともうすでに開始されています」


 朝日達はうなづくと同時に、アイの雰囲気ががガラリと変わった。先ほどまで可憐に愛らしく笑っていたというのに今の表情は獰猛さが全面に出ており、獲物を狩る瞳は目を細めており、その変わりように朝日は戦々恐々とした。


『現実では一体どんな人間なんだ……』


 そんな朝日のたじろぐのをを他所にアイは周りに警戒を強めた。


「早速近づいていますね」


「はい」


 朝日はうなづき、それに真澄と志郎も体勢を構える。そして木陰から数人のプレーヤーが現れて朝日達に襲いかかる。


「はああ!!」


 朝日は気合を入れて叫びながら刃を振るった。


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