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第十七話:強くなれるかじゃない、強くなるの


 花月達は自己紹介が終わった後、ククは躊躇いながら口を開いた。ククの容姿はショートの茶髪にクリッとした瞳をしていて可愛らしいのだが、どこか頼りなさげな眉が気弱な印象を受ける。


 服装は上半身が小袖で下がズボンのようなのを着ているのは動きやすいことを銃しているのかと桃華さククを観察する。



「あの助けていただいたばかりで、差し出がましいのですが……」


 ククのいうことに花月達はキョトンとして、不思議がる。どうしたのかと花月はククに聞いた。


「どうしたんですか?」


「あの、モモさん」


「……うん?」


 考え事をしており、いきなり名前を呼ばれたことにモモ=桃華は驚きながら返事をする。意を決した面持ちのククは花月達に緊張感を募らせる。


 何を言ってくるんだと桃華は固唾をのんだ。


「あの、私を弟子にしていただけないでしょうか!?」


「……え、今なんて」


 桃華はククの言ったことが意味が分からなくて、思わず聞き返す。ククは胸に手を当て同じことを述べた。


「はい!、私をあなたの弟子にしてもらえませんか!?」


 弟子という単語が聞き違えではなかったことに、桃華は困惑する。


「えっと、私は弟子を持つほどじゃーー」


 桃華は確かに武術を心得ているが、自分の容量を弁えており、誰かに指導できるほど卓越しているとは思っていない。


 だがそんなこと、ククには関係なかった。そんな桃華にククは勢いよく首を振り彼女のことを称賛する。


「いえ、素晴らしい身のこなしはアスリート顔負けで、何か特別なことをしているのですか?」


 ずいっと詰め寄るククに桃華はたじろく。さっきまでの気弱な印象はどこへやらである。


「いや、特に……特別なことはしてないが」


 一瞬言い淀んだのは心当たりがあるすぎるからである。桃華は人間ではなく、半分妖怪の血を引いているので身体能力が優れている。プロのボクシング選手でも桃華には勝てないだろう。


 桃華はやんわりと断ろうするが、ククは頑として譲ろうとしない。桃華はどうしてここまで頑なのか逆に気になりククに聞いてみると。彼女は絞り出すような声で語ってくれた。



「……私いつもドジを踏んでしまって……組んでくれたみんなの足を引っ張ってしまってーーだから、強くなりたいんです」



 桃華はその言葉に共感した。それはかつての自分を思い出したからだ。



(この子、昔の私に似ている)



 桃華は何だか放って置けなくなり、おもむろに花月に視線を移した。


「ハナ……」


 桃華が何を話そうとしているのか分かっていた花月は微笑んだ。


「モモちゃんのやりたい様にやればいいと思うよ」


「! ありがとう ……クク」


 花月の心意気と自分への信頼に桃華は胸が熱くなる。


「は、はい!」


「私の鍛錬は甘くないわよ」


「え、……ということは弟子になってもいいってことですか!?」


 恐る恐るククに問いかけると桃華ではなく、花月に問う。ククの不安げな眼差しに花月は安心させる様に笑みを向ける。


(ふふ、素直じゃないんだから)


「ハナ、今笑った」


「ふへ?」


 いつの間にか桃華にじっと見つめられていた。


「そ、そんなことないよ」


「本当に」


 疑わしげな目で見る桃華に花月は慌てて釈明する。


「ほ、本当に!」


 ククは桃華と花月の様子を見て笑った。


「お二人は仲がいいんですね」


「まあ、知り合ってからまだ数ヶ月で短いけど、色々とあってね」


 花月と桃華の最初の出会いは衝撃的で、今でも忘れられない。 


「確かに色々とあったね」


「だいたいはハナが問題に突っ込んでいたけどね」


 そのことを桃華はため息を出しながら思い出す。それには花月は何も言えない。


「うゔ、あ!そうだ ククちゃん、今から町の案内をしてもらっていいかな」


「はい、もちろん」


 花月のわかりやすい話の逸らし方に桃華は苦笑した。







〇〇






 花月達は街の中を一通り案内してもらった。そして森の中に入ると、一際大きな建物と人々がひしめき合っていた。


「ここは一体……」


「ここは合戦場って言って、相手のプレーヤーと戦う場所です」


「すごい人の数ですね」


「だいたいこんなものですよ、そうえいばこのゲームを初めてばかりででしたね」


 ククの言葉に桃華はうなづいた。


「それならこんな話を知っていますか? ランキングで一位になったものはこの世界のボスと戦う権利を得られるってこと」


「!」


「この世界にボスなんているんですか」


「はい、どんな姿なのか分からないのですが、とても強いらしくて」


「へ〜」


「だからランキング競争が激しいんですよね」


「何か勝ったらもらえたりするの?」


「ボスに勝てば一つだけ願いを叶えることができるみたいで」


「願いって何でも?」


「そうですね、でも本当に叶うか分からないですけど、他のプレーヤー達も何か叶えたいものがあるのでしょう」


「それってククちゃんも」


「はい、と言えたなら良かったのですが、ここにいたら現実世界の嫌なことが忘れることもできるのかなって」



 花月は聞こうか聞くまいか迷ったが、ここでわざと話をそらしても気まずくなると思ったので話を変えなかった。


「嫌なことがあったの……?」


「はい、私ちょっと特殊な学校に通ってまして、それで数年前にある仕事でミスをしてしまって、そのせいで一緒に組んでいたチームの人から注意されて」





『邪魔だ、やる気がないなら来るな』





「ーーそう言われてそれからその人見る度に、トラウマになっちゃって……学校に行けなくなりました」


 プライバシーだから聞けないが学校という単語と話し方から、そんなに年齢が離れてない様に花月は感じた。


「今は家で個別で授業を受けながら勉強をしている感じです」


 暗い過去のことを思い出して、どんどんと声が小さくなりククに花月に優しく声をかけて話題を逸らす。


「そういえばこのゲームのことってどう知ったの?」


「あ、えっと……このゲームのことはネットサーフィンをしているときにゲームの広告を見て面白そうだなって思って」


「そうなんだ」


 ありきたりな答えに桃華や花月は逡巡する。


(ここに来て、もう数日はいるはずなのに、向こうは一体どのくらいに 友希ちゃん 麻里子………)


「それで現実のことを忘れられたの?」


 桃華の言葉にククは軽く首を横にふった。


「……いいえ、変わりませんでした、というより逆に悪くなったと思います」


「当たり前でしょ、ゲームの世界だろうと本当の自分は変わらないんだから」


「はい」


 泣くように笑うククは桃華の言葉を静かに聞いた。


「変われないのなら、そのやり方じゃダメってこと。自分が諦めたら何も変わらない」


(桃華ちゃん……)


 花月は桃華が不器用で厳しいが優しい女の子だと知っている。その言葉に聞いていた花月も感慨深く見る。


「モモ……さん」


 ククは涙を流して嗚咽混じりに答えた。


「強く……なれま…すか」


「強くなれるかじゃない、強くなるの」


「……うぐ」


 ククは流れていた涙を拭った。


「モモさん」


「何?」


「師匠と呼んでいいですか?」


「し……師匠」


「はい!」


 いきなり言われた尊称に悪い気がしない桃華は恥ずかしまじりに了承した。


「べ、べつにいいけど」


(あ、これは喜んでいるな)


 花月は桃華の高揚に気づいて微かに笑った。


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