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第十一話:見目麗しき生徒会長

花月視点に戻ります。

「4月25日の東京都の狭間区で夕方頃に何者かによって女子高生が襲われた事件がありました」


 そのニュースが流れたのは事件が起きた翌日の朝方のことだった。チャンネルを変えてもどのニュースでもこの報道は持ち切りである。


 今朝のテレビで流れたニュースや、スマホでもニュースを見ることが多い学生たちは情報収集する伝達の速さは恐ろしく秀逸である。


「女子高生ってうちの高校の生徒じゃないよね」


「それうちの学校らしいよ」


「えっ 嘘 マジで!!?」


「犯人はまだ捕まってないの?」


「まだ捕まってないらしいよ」


「ちょっと警察は何やっているのよ」


「だよね〜 早く捕まえて欲しいよね」


 学校の登校中もいつもとは違う異様な風景で、警察官が巡回している。危険人物はいないか通行人などに目を光らせている。


 その中を歩く生徒たちも然り、同じようにいつものように学校に行く道を歩く花月たちの表情からも不安と緊張が拭えなかった。


 学校の門前では先生達数人が立っており、私たちは挨拶をし学校の中に入ることができた。


 学校の授業が始まるホームルーム前でも、話しているクラスメートがちらほらいて、授業が終わった休み時間でもその話はされている。


 キーン、コーン、カーン、コーン


 ようやく楽しいお昼休みの時間がやってきた。チャイムと同時に先生が出て行く。この学校には購買があり、生徒たちや教師の間でも人気の総菜屋がある。


 低価格とは思えない育ち盛りの生徒にとっては有難いおかずがいっぱいなお弁当と、手の込まれた惣菜パンはどれも手作りである。


 我先にと足早に人気の惣菜パンを買いに来るひしめく男子生徒達もいれば、それに負けないぐらい勇ましい女子生徒もいる。


 そんな喧騒とは打って変わってここは静かに和んでいた。


「は〜、もう耳にタコができそうだったよ」


「他に話すことができないのかね」


「なんだか怖いね。 朝日ちゃん」


「そうですね」


 ニュースのことよりも、昨日は何を食べたとか、何のTVが面白かったとか他愛も無い話に花を咲かせるこの時間が自分に取って何よりも大切だと思っている。


 けれど、そんな束の間の休息は軽快な声によって一瞬で終わりを迎えた。


「ヤッホ〜」


 首元にプロの人が持っているような高そうなカメラを掲げている女の子に私たちは気づいた。その子はゆったりとした歩みで私たちの元に歩いてくる。


 黒髪のボブにメガネをかけていてメガネから覗く、二重のまつ毛ににくりっとした大きな瞳が愛くるしい。口元に笑みを浮かべる様が妙に様になっていて、合間から見える八重歯が可愛らしい。


「久しぶりだね。 友希子も元気だった?」


 その言葉に反応したのは呼ばれた当の本人の友希ちゃんだ。


 友希ちゃんと女子生徒はクラスは違ったが中学校が一緒だったらしい、すなわち同中だったということになる。私と朝日ちゃんも名前も知らなくて少し驚いている。


 不思議がっている二人の様子を見て察した女子生徒は気づいた。


「あっ、そういえば。 自己紹介して無かったね」


 ポケットに何かを出され、私と朝日ちゃんに手渡された。まるで営業のサラリーマンさながらに流れが上手い。そこには名前と部活名が記されていた。


 写真部 遠藤 麻里子


「遠藤さんっていうんですか?」


 気になった私は女の子に聞いた。


「うん。 麻里子でも別にいいよ」


 ニカッと気さくに笑う顔は人懐っこくて、人見知りがある私でも話しやすい雰囲気を持っていて好感がもてた。


「写真部に入っているんですね」


  友希ちゃんは彼女の首からかけているカメラを見て、懐かしそうに目を細めた。


「そのカメラも名刺も相変わらずだね 麻里子」


「まあね〜 プロのカメラマンを目指しているからね」


 何でも彼女の父親はプロの報道カメラマンらしく、海外で仕事をしていることが多いらしい。噂好きの彼女ならこの話題を振らないのは必然だった。


「そういえば女子高生が襲われたって話聞いた?」


「聞いたというか朝からそればっかりだね。あまりいい雰囲気ではないのは確かだよね」


 私はふと疑問を口にした。


「その女子高生は無事なの?」


 心配そうな言葉に私に対応したのは麻里子だ。


「怪我は少ししたみたいだけど、かすり傷程度で済んだって」


「そうなんだ」と私は安堵の息を漏らした。


「それもこれも 御影様のお陰だね」


「おかげさま?」


 あまり聞いたことのない単語に、私は首を傾げる。どうやら朝日と友希子も知っているらしい。

 

 何も知らない私を見かねた麻里子は、ポケットから年季があるメモ帳を手に取りページをパラリと捲る。


「あった、ここだ!」


「え〜と…この学校の敷地内には森があるらしいんだけど、そこには「鎮守の森」って言われている場所があって、それで困ったことや悩んでいることがあれば鎮守の森の中にある神社に御願い事をすれば「御影様」が助けてくれるって言い伝えがあるんだって」


 麻里子がいい終わったことを確認した友希ちゃんは、それに付け加える。


「漢字では御は御曹司とかに使われている「御」で、影は人の「影」だね」


「その漢字って…学校の?」


「そう! この御影高校の由来でもあるんだって」


「へ~ 、そうなんだ」


「その人は年齢不詳の謎の人物なんだけど、人の影のように寄り添う姿から、だから御影様って呼ばれているんだって」


「まあ…これは私のおばあちゃんの受け売りなんだけどね」


「私も友希子から聞いた」と麻里子から教えられた。友希子は自分の祖母から教えてもらっているらしい。


「へぇ〜、昔からいる人なんだね」


 私はふと頭の中にクエスチョンマークがかかる。


『?……友希ちゃんのおばあちゃんは確か60代だったはず…ということはその人より年齢が上じゃないと計算が』


『あれ? ということはその人一体何歳何だろう』


 考えにふけっていた私は闖入者が近づいていたことに気づかなかった。


「それは是非会って見たいですね」



〇〇



それは、突然のことだった。


 周りがやけに騒がしがったのはいつものことなので、気にしていなかった私達は急な展開に頭が追いつかなかった。


 近くに一人の男子生徒が忽然と現れたことに気づかなかった私達は硬直する。


一番切り替えが早かったのは麻里子で彼女も同じくびっくりした反動で彼の役職名を思わず叫んだ。


「……せ、生徒会長!?」


 大きな声で彼をそう呼んだ声に反応するかのように、近くで私達と同じように食べていた女子達は色めきだした。


「きゃあ、あれ桐原先輩よ」


「なんでこんな中庭に めずらしい」


「お昼はもう食べたのかな」


「一緒に食べたいね」


 私達が通う学校には桐原孝太郎というとても人気が高い生徒会長がいる。


 入学式の時に挨拶をしていて目立っていたから花月も記憶に残っている。


 人気が高いその理由はスポーツ万能で成績優秀、容姿端麗とまさに生徒会長になるべくして生まれたような存在だ。


 両親もお金持ちみたいで、玉の輿を狙う女子たちも多く、今でさえ彼に熱い目線を送っている女子たちが後を絶たない。


「どうされたんですか」と麻里子は尋ねた。


 小学校時代から友人である友希ちゃんは麻里子の目を見逃さなかった。その目は好奇心の塊で目が爛々としている。


友希ちゃんは、麻里子の変わらない好奇心にひそりと嘆息した。


「朝のニュースを皆は知っているかな?」


 生徒会長は麻里子だけだけではなく、彼女のそばにいる私達にも聞いている。


「はい、知っています」


 答えたのは朝日ちゃんだ。彼女の返事で周りが頷いたのを見た生徒会長は口を開けた。


「これ以上被害を大きくしないために、皆に呼びかけているんだ。 それとちょっと見回りをかねてね」


 片方をウィンクする生徒会長に周りは「きゃ〜」と女子達の喚声が上がった。


「そうなんですか。 一人だと大変ですね」


 私は一人頑張る生徒会長にねぎらいの言葉をかけた。


「ありがとう。 君は優しいね」


「えっ……」


生徒会長に眼差しを向けられた私はドキリとした。それは異性に対しての心の揺めきではない。


 そう、これはもっととても嫌な感じである。


 小さい頃から何度も経験しているこの感じだけはどうにもぬぐえない。


 ゾクゾクするような悪寒とピリッと張りつめるような緊張、そしてなにより一番強い感情は


 ーー「恐怖」ーー


 私のわずかな異変に誰も気づかないと思った。たった数秒間が長く感じてしまう。


 ひらり、はらり


 その時、髪の毛に何かが私の髪の毛に舞い落ちた気がしたが嫌な感情に囚われてしまい、上手く体を動かせない。。


 生徒会長は何かに気づき私の頭に手をかざそうとする。


「花びらが髪の毛にーーー」


 生徒会長が私の髪の毛に触れようとした瞬間に、横から入ってきた手にやんわりと制止される。


「私が取るので大丈夫です」


 彼の手を止めたのは、先ほどまで口数の少なかった朝日ちゃんだった。


「君は……」


 生徒会長は黒髪の女子生徒がいきなり入り目を見開いた気がした。その姿を見た彼は動きを止めた。


 朝日ちゃんに何かを話しかけようとしたその時、授業開始前の予鈴が鳴り響いた。


 キーン、コーン、カーン、コーン


「…おっと、もう昼休みの時間は終わりだね。 それじゃ授業に遅れないように」


 何かを言いたそうだったが、授業の開始時間が迫っている。生徒の鏡である生徒会長が授業に遅れさせたら本末転倒である。


 名残惜しそうに彼は女子達が作る道を歩きながら去っていった。


 女子達も目的の生徒会長がいなくなり、蜘蛛の子を散らすように跡形もなくいなくなった。


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