第十三話:ククという女の子
自分たちよりも強かったお頭が桃華に勝てるはずがない。お頭の仲間達が逃げるのを察知した桃華は待ったをかける。
「これ、そのままにしていいの」
桃華の目下には気絶したお頭がいた。仲間達はそれを見て口早に話す。
「そ、それはもう煮るなり、焼くなり」
それを聞いた桃華は眉間にシワを寄せる。
「あんた達のリーダーじゃないの?」
「リーダーだけど」
「負けちまったし」
「なあ」
ヘラヘラと言い訳する様子に桃華は睥睨する。
(こいつらに仲間意識とかないのかしら)
普段は一匹狼でいることが多い桃華だが、め組一家で修行を始めた時、自分にとって仲間とは血は繋がっていないが大切なもののように思っていた。困っている時、助けて協力することは当然だった。
(これなら少し前にあったコンビニで喧嘩をした3人組の男子達の方がまだましね)
桃華はこんこんと説教したくなったが、そこまでお人好しではない。怒りを滲ませながら呟く。
「今、ここで全員倒されるか 倒れているリーダーを助けて逃げるどちらか選びなさい」
「はい!!」
仲間達は桃華の気迫に怯えながら、お頭を担ぎ足早に去っていった。不愉快になった桃華はため息をつこうとした瞬間、歓声に驚く。
「!」
桃華は何事だと周りを見ると埋め尽くすほどの大勢の者達が集まっていた。
(え……)
前にも似たような状況に桃華はしまったと思う。
(あまり目立たないようにしようと思ったのに、頭に血が上って)
頭を抱えそうになった桃華は一部始終を見ていた花月は近寄り、ねぎらいの言葉をかけた。
「お疲れ様 桃華ちゃん カッコ良かったよ」
「そう…?」
面と向かって褒められ慣れていない桃華は花月の褒め言葉に恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「あの………」
話しかけられた声に桃華と花月は耳を澄ませると、そこには先ほどの女の子が立っていた。
「先ほどは助けていただいてありがとうございました。おかげさまで命拾いしました」
彼女の打たれて赤くなった頬をみて花月は心配そうに話しかける。
「ほっぺ大丈夫ですか?」
「はい、これぐらい治癒薬を飲めば一発で治ります」
彼女は画面を出して、アイテム欄から薬を取り出してそれを塗り込んだ。
すると赤くなった患部がほんのりと輝き、元の健康的な肌色になった。その劇的な変わり様に桃華と花月は目を見開く。
「すごい」
「これは打ち身や擦り傷程度だったらすぐに治ります」
「そんな便利なものがあるんですね」
「はい、他にもいろんなアイテムがお店に売っていたり、対戦や依頼をこなしてアイテムや賞金をゲットしたりします ーーもしかしてこのゲームは初めてですか?」
この世界の常識を知らない花月にククは思い答えるとその通りだった。
「はい、まだ来て一時間くらいしか経ってなくて、右も左も分からない状態です。地図は手に入れられたんですけど、広すぎてどこからいけばいいか……」
「それなら私が道案内しましょうか?プロとはいえませんが、このゲーム歴長いので、ある程度は把握していますよ」
「本当ですか!? どうする桃華ちゃん?」
「そうね、土地勘がある人がいてくれると心強い」
「いえ、助けていただいたお礼に何かできないかと思っていたので、私で良ければ! 私はククと申します」
「ククちゃん?」
「はい、本当の名前ではなく呼び名ですね、最初に登録したと思いますが」
「あ」
そういえばそうだったと花月と桃華は思い出した。
「普通に名前で呼び合っていたね」
「そうだね」
「私はハナと言います」
「私は……モモよ」
恥ずかしそうに呼び名を答える桃華に、花月は萌えていた。桃華の「桃」を音読みしたら「トウ」だが、訓読みは「モモ」になる。華の方は「ハナ」と呼びやすいだろうが、桃華は花月のあだ名を知っていたのであえて避けてくれたのだろうが。
(モモちゃんって、可愛いんだけど)
「道中よろしくお願いします」
花月改めハナ、桃華改めモモはククと友好の握手を交わした。
〇〇
一方の朝日達は花月達より二時間遅れて舞台に降り立った。朝日はまずは一緒にきた真澄と志郎と待ち合わせすることになった。
(この姿を見たらびっくりするだろうな)
心の中で真澄と志郎の驚く表情を思い浮かべていると、
「朝日……様ですか?」
「!」
この声は真澄だと思い振り返るとそこには真澄に似た人物が立っていた。
「えっと、真澄でいいのかな?」
心許なく喋りかけると、「はい」とうなづいた。朝日は驚かせるはずが逆に驚かされた。
彼女もまた異なる姿になっていたからだ。真澄の長い黒髪は短髪になっており、黒から水色の髪になっていた。服装は狩衣の格好である。朝日はよく見ようと真澄に近寄った。いきなり朝日が顔を近づけて来たことに動揺が走る。
「な、なんでしょう!?」
「いや、真澄のそんな姿なんて見たことがないから」
朝日に見つめられることに慣れてない真澄は落ち着こうとするが無理な話だった。なんとか話題を変えようと口を開く。
「そ、そうでしょうか、それをいうなら朝日様もでは!?」
「え、うん! これ、似合っているかな?」
「は、はい とてもっ」
朝日は真澄の同意にご満悦である。
「そっか」
朝日の格好は袴と小袖という動きやすい武士スタイルである。そして長い黒髪も真澄と同じ様に短髪になっている。
いつもは訳ありで女装をしているので本来の姿は久しぶりで朝日は嬉しかった。朝日の笑顔に真澄も口元を綻ばせた。
「さてと、あとは志郎だけだね 一体どこに」
志郎を探していた時、女性の歓声が聞こえなんだと振り向くとそこには美男子が立っていた。
物珍しそうに朝日は見ていると彼はキョロキョロと周囲を窺っていた。誰を探しているんだと見ていると、その彼とバチりと目があった。
(え……?)
朝日が驚くまもなく彼の方から手を振りながら近寄ってきた。
(だ、誰!?)
朝日と真澄は警戒心を強めると彼の方から話しかけてきた。
「朝日様、真澄さん」
「その声は……志郎なの!?」
「はい」
銀髪に青い瞳、そして容姿端麗な青年はコクリとうなづいた。
「ええ!? 全然分からなかった」
「ふふ、そうでしょうね かつての中国(唐)と呼ばれていた頃の容姿でしたからね、真澄さんも知らないと思います」
それには真澄も驚いた表情でうなづいた。それと朝日は心の中で思った。
(唐って何時代……)
【正解:唐時代は618年から907年】
「分かるわけないだろ」
朝日の突っ込みに志郎はクスリと笑った。
「それにしてもその容姿だと目立ちすぎじゃないか そんな時代に髪が銀なんて」
「そうですか? その当時は夜型でしたし、あまり人前には出ませんでしたし」
何から突っ込めばいいのかと朝日は面倒になった。
「それより、早く情報を集めないとね まずはこの世界のことに詳しい人に案内してくれる人を探さないと」
「そうですね」
朝日達が案内所がないかと向かおうとした時だった。どこからか下品な笑い声が聞こえた。
「おい、ちょっと俺らと遊んでくれねえか」
「一人だと寂しいだろ」
「一緒に行こうぜ」
誰が聞いても一緒に行きたくないだろうと朝日はため息をついた。
「全く、ああいうやつってどこにもいるんだね」
「私が行きましょうか」
真澄は朝日に問いかけると首を振った。
「いや、僕が行くよ」