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第十二話:PK


 花月が閉じていた目を開けるとそこはこの前見た光景があった。教科書や時代劇のドラマでみた城下町の中に降り立った。また来たんだな〜とひしひしと感じていると声が聞こえた。


「いなり……」



 その声には合言葉のことを思い出して花月は咄嗟に返事をする。



「こんこん!」



 振り向くとそこには和服姿の桃華が立っていた。


「……と……桃華ちゃんなの?」


「うん、合っていてよかった、その格好似合っているね」



「ありがとう、桃華ちゃんも似合っているよ」


 桃華は藍色の袴に白の道着を着ている様になっていた。花月は自分の服を見下ろしていてその言葉にようやく気づく。


「本当にすごいね」


 見下ろすと緋袴と上半身は白衣になっていた。初詣の時など神社で巫女さんの服を見たりするが、まさか自分が着ることになるとは思わなかった。


「ふふ、今、気づいたの?」


 花月の様子におかしそうに笑った。


「えへへ」


 笑いでごまかしながら花月は恥ずかしそうに俯く。


「職業は巫女にしたの?」


「うん、桃華ちゃんは何にしたの?」


「私は武士、刀を持つ職業にしたの、使い慣れている武器だし」


 桃華が手をかざすと刀剣が出てきた。


「あっ、刀が出てきた!?」


「何か一つは持ちたい武器はイメージしたらこの世界に持っていけるみたい」


「へ〜、便利だね」


「ところでこの前の様子で何かおかしいところありそう?」


「うん? う〜ん、そうだね」


 花月は周囲をぐるりと見回しながら声を潜めがら答える。


「この前とは同じだね、みんなの魂が抜かれているなんて気づいてないのかも」


 みんなが〜というところから少し小声で話した。桃華もなるべく声を抑えて話す。


「そうね、もし気づいたらこの街にいる人たちがパニックになっているはずだし、情報収集ね」


 まずは地図の確保と麻里子の情報を集めるために花月達は足を踏み出そうとした時だった。


「キャっ!?」


 女の子の叫び声に花月と桃華は耳にする。


「今、女の子の声が聞こえなかった!?」


「っ、ああ 向こうのほうから聞こえたな?」


 角を曲がると、目線の先にはチンピラのような連中がいた。そして集団の頭のようなものと対面するように女の子が蹲っていた。


(今のって、あの女の子からかな?)


 花月は状況を見極めるためにじっと凝視していると、桃華はすでに駆け出していた。


「全く何も役に立たないな、お前は……」


 その女の子の頬は赤くなっていた。それはこの男に頬を打たれたからである。


「す、すみません 私、何も役に立てなくて」


 女の子は打たれたのに申し訳なさそうに平伏している姿に花月は胸が痛くなった。


「ふん、役に立つのは弾除けくらいか」


 集団は女の子を嘲笑うかのように罵った。


「でも、今さっき 腕のいい射手を見つけてよ……だからお前もういらないわ」


 男が腰に下げている刀を振り下ろそうとした時、固唾を呑んでていた者達や花月は目を見開く。



(やめーー)



 その瞬間、女の子が無残に切り捨てられそうになった時だった。キンとした金属音が周囲に鳴り響く。


 女の子が目を瞑り、その時を待っていたけれど一向に衝撃が来ないのでどうしたものかと不思議がる。


(……なんで)


「いつまで寝ているつもりなの?」


「え……」


 恐る恐る目を開けるとそこには女の子に降りかかる刃を受け止める桃華がいた。


「まだ寝るには早すぎるわよ」


 桃華は女の子に声をかけると彼女は慌てて返事をした。



「は、はいっ」









〇〇






 ゲームの世界の廃人となって早2年、彼は現実の世界では30代前半、就職したもののの上手く人間関係が作れず、ネットサーフィンをしていたときに「新しい世界へ」という広告の見出しを見てクリックをしたのが始まりだった。


 このゲームに出会った仲間との出会いは悪いものではなかった。ゲームの世界は自由で面白い。何者にも縛られない。人間の社会に鬱憤がたまっていた男は空想の世界にのめり込んだ。


 みんなからは「お(かしら)」と呼ばれ、悪い気はしなかった。今までが自分の思い通りになって夢心地であった。自分の仲間にいらなくなった者を消しても誰も咎める者はいない。


 プレイヤーキラー略してPK。


 意味は何らかの目的で攻撃を行うこと。けれどこの世界の殺生は当然のようにあり、それを捌く法律はないに等しく悪質なことをするチームも少なくなかった。まさにやりたい放題なのである。


 しかしそれは、自分の秩序を壊してくる者と共に崩壊する。


「てめえ、何者だ!?」


「ねえ、大丈夫だった?」


 頭に話しかけているのは彼女ーー桃華は一向にこちらを向うとしなかった。というよりも力一杯振り下ろしているはずなのに、自分よりも華奢な体なのにも関わらず微動だにしなかった。


(この女、どうして動かねえ)


「て、てめえ」


「お頭、そんな奴早くやっちゃってくださいよ」


「ーーっ ああ そうだな」


 周りの仲間達は頭の焦りに気付いていなかった。焦っている自分を見られたくない頭としてのプライドが焦りを募らせる。早く始末してやろうとぐっと力を入れ、声を上げる。


「俺を無視するんじゃねえ!」


 お頭が声を上げた瞬間、ブワッと周囲に風が舞い上がった。足を踏ん張っているがそれでも結果は同じだった。しまいにはーー


「ちょっとうるさいんだけど、静かにしてくれる」


 不愉快そうにシワを寄せる桃華に頭はプライドを傷つけられ歯を軋ませながら口元を歪ませた。


「貴様っ!」


「私はこの子と話をしているの、少し黙っていてくれない ーー他に怪我はない」


「え、あ はい!」


 話しかけられた女の子は赤くなった頬を押さえながらうなづいた。


「ーー無視するんじゃねえ」


「は〜、言ったでしょ……うるさいって」


 桃華はため息をつきながらいうと、頭は理性が切れた。


「殺す」


 その瞬間、お頭からオーラが発現し、桃華に襲いかかる。


「死ねえ!!」



「!」


 周囲は粉塵になり辺りは砕け散った。お頭は目の前を見て不快にした女子は見当たらなかった。そして一応仲間であった役ただずも消し去った。


「ふ………はは」


 木っ端微塵に消し飛んでいったかと高笑いをしようと顔をあげた瞬間だった。


「今のって……何なの?」


「あ、あれは彼のスキルです」


「スキル……そんなものがあるのね」


 またもや自分そっちのけでの話し声が聞こえ、振り向くとそこには消し去ったはずの2人がいた。


「お前ら、いつの間に!?」


「なるほど、あまりまだ分からないけど、それじゃあこっちも本気で相手をしないといけないわね、下がっていて」


 桃華は刀をとり構えた。女の子は桃華のいうことを素直に聞き入れた。


「は、はい」


 頭は雄叫びを上げて、襲いかかる。


(勢いはすごいけど、これぐらいの風なら)


 桃華は地面に足をのめり込ませて、足を踏み出した。刹那、荒れ狂っていた風が止まり、そして静寂となった。そして武器の刀がパキンと音を立てて砕け散った。そしてお頭は驚きの声をあげる。


「て!? てめえ、絶対に」


 そう悔しそうに呻きながら、意識を失った。


「お……お頭」


「おい、やられちまったぜ」


 仲間達はリーダーがやられたことに激しく動揺する。


「まだ何か用があるのかしら やるなら相手になるわよ」


 桃華の言葉に仲間達は先ほどまで勢いはなく先ほどとは女の子と立場が逆転し竦み上がっていた。


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