第九話:無謀だと分かっていても
「麻里子が意識不明……?」
ゲームの世界に閉じ込められた……?あまりの突拍子のない言葉に花月は呆然とした面持ちで呟いた。それをそばで聞いていた朝日と真澄も同様である。その言葉が衝撃が強すぎてにわかには信じがたかった。
最初に理性を取りを戻したのは真澄である。
「意識不明とは……何か病気なんですか?」
それに桃華は首を横に振った。
「直接にいえば、魂が抜き取られているって表現が正しいわね」
「!?」
「魂が……」
「それじゃあ、麻里子は」
「今は仮死状態って言ったところね」
花月はその言葉に血の気が引いた気がした。
(そんな……また会おうねって言ってたのに)
花月は別れ際に彼女の笑顔が忘れられない。真澄は何か希望はないかと考え口を開いた。
「そのゲームをクリアすれば遠藤さんが戻ってくる可能性が高いということですか?」
真澄の疑問にややぎこちなく桃華はうなづいた。
「……ええ、それもそうなんだけど……他の人は同じ事件で意識が無くなっているらしいから」
「他の人たちって何人くらいですか?」
「昨日の意識不明者が100人を超えたわ」
「100……!」
多くても10人くらいかと思っていた花月達は予想以上の人数に驚愕する。
「そんなにですか?」
「ええ、警察と陰陽局も原因を突き止めようとしているんだけどわからずじまい。そして唯一の手がかりがそのゲームの中にあるかもしれないということ」
「ゲームの中にですか、どうやって」
「それは同じようにゲームをするしかなわいわ」
桃華がなんでもないようにいうが、花月はそれを聞いて黙っていられない。
「でも、ゲームをしたら魂が取り込まれるって!?」
「そう、中にある問題ごとを解決しない限り、意識が無くなった人たちはいずれーー」
「そんな……」
「だから一刻も早く解決しなければならない。だから私も参加しようと思って」
「桃華ちゃんもゲームの中に?」
「うん、人数は多い方がいいからね 陰陽局にもそのセットがあるから可能みたいだし」
「他には誰が」
朝日はその事が気になり、桃華に質問する。
「陰陽局からは阿倍野裕司さん、加茂野照良さん、賀茂憲暁と、賀茂光秀の4名行くみたい」
「その人たちって確か……」
「花月達は面識があるわよね この前あったばかりでしょ」
「うん」
花月は思案して桃華に話しかける。
「桃華ちゃん……」
「うん?」
「私も行きたい」
「……え」
「はなちゃん、何をいって!!?」
花月の思わぬ言葉に一同は驚愕する。桃華は驚いたが花月の真剣な眼差しを見て答えた。
「……自分が何を言っているのか分かっている? 成功するかわからない、もし失敗したら……そんなところに行かせるわけには」
「なら、私も桃華ちゃんと同じ理由だよ。そんなところ行かせたくない」
「花月…」
花月のはっきりとした物言いに桃華は口を閉じる。じっと桃華を見つめた後、沈黙を破ったのは桃華だった。
「分かった……」
「烏丸さん!」
桃華は絶対に反対すると思っていた朝日と真澄は驚く。
「ごめん、でももし私が行くことを許さなくても、この子絶対に一人でいると何かしそうじゃない。無謀だと分かっていても、前回、危険な目にあったばかりだし
桃華のトゲトゲとした物言いに、心当たりがありすぎる花月はさっきまでの勢いはどこへやら目線をそらした。わかりやすい反応に桃華はため息つく。
「だったら近くで見ていた方がいいんじゃないかなって……、今回花月たちに話すこと事態どうしようかと思ったんだけど、隠せそうにないぐらい大事になっていたからね……」
「桃華ちゃん……」
その言葉に一理あると思っていたので朝日と真澄も言い出す事ができなかった。
「っ……分かりました、いつ行かれるのですか?」
「そうね、明後日の金曜日の放課後かしら」
「明後日…」
数日後に永遠の別れをしなくてはいけないと思うと、朝日は言葉が詰まる。
「はなちゃん、……気をつけてね」
朝日が一瞬口が止まったのは真澄は見逃さなかった。朝日の心のうちを花月は知る由もなかった。
「……うん、行ってくる 麻里子を見つけて、絶対にゲームをクリアするね」
そして、ここで一旦話が終わり、ひとまず解散した。
〇〇
話が終わり、朝日と真澄は重い足取りで帰宅した。
「ただいま」
少しして奥から志郎が迎えてきた。
「お帰りさない」
「うん、ただいま」
「お風呂が沸いていますのでどうぞ」
「うん、ありがとう」
朝日はそう言って玄関を上がり、衣服を取りに行くために自室に戻った。志郎はこの時朝日の様子がおかしいことに気がついていた。そのことを知るために物言いたげな視線を送っている真澄と目があった。
「何かあったんですね、帰りが少し遅くなると言っていましたが」
「はい……思った以上に事が深刻でどこから話せばいいやら」
緊張する声音に志郎はシワを寄せる。
「なかなかの厄介ごとですね あなたも風呂に入ってきてください 話はそれからですね」
「……はい」
真澄はそう言って、自室に向かった。志郎は二人の重い表情を思いながら、夕食の準備に取り掛かる。
それから風呂から上がった二人は準備を手伝い、夕食を食べて話となった。
「それで、何があったんですか」
志郎にそう言われて、口を開いたのは朝日だ。
「どこから話せばいいのか、そうだね、まずはこの前友達から誘われたVRゲームの体験をしたって覚えている」
「ええ、覚えていますよ VRゲームなんて珍しいので」
「そのVRゲームが原因なんだ」
「原因とは……?」
そのゲームが原因で意識を失った人たちがいるという言葉に志郎は瞠目する。
「いるというのは、どれくらいですか?」
「桃華ちゃんの話からだと100人ぐらいいるみたいだけど」
「100……!?」
思わぬ数字に志郎も驚いた。志郎は情報収集に長けているがそれはあくまで朝日の近辺を守るのが主意なので、敵意が無ければ志郎の琴線に引っかかることはない。
「それで警察や陰陽局の人も動き出してチームを組んでゲームの中にいるみたいなんだ。その中に手がかりがあるかもしれない」
「なるほど…」
「それで、それに烏丸さんが参加するって」
その次の言葉が詰まるのはそれだけ朝日が口に出したくなかったからだ。
「それを聞いたはなちゃんは私も行くって」
志郎は花月を幼い頃から見ているので考えなしに口に出すことはないとすぐに改めた。それに朝日はすぐに答えた。
「実はその友達が意識を失っているんだ」
「そうでしたか、それで花月さんも無茶なことを言ったんですね」
「うん、そうなんだ……僕も止めようとしたんだけど、ダメって言ったらどんな無茶するか分からないし」
(それはあなたもなんだが……)
志郎は心の中で突っ込んだ。
「それで金曜日の放課後に陰陽局に行くみたいで、セットがあって参加する事ができるみたいなんだ」
「……なるほど、でも花月さんは参加したくても、経験がないので参加できるかどうか」
「そこだよね、許可されなかったらできないと思うし、」
朝日の思い悩む姿に志郎はとことん弱い。
「ふ〜分かりました……陰陽局の人に掛け合って見ましょう」
「え、知り合いがいるの?」
「ええ」
「前から思ってるけど、歌舞伎町の時といい色んなところに知り合いがいるんだね」
「そうですね、何かと便利ですよ」
「どうやって知り合いとか増えるの?」
何気ない朝日の質問だったのだが。
「知りたいですか?」
不気味な微笑みをした志郎に朝日は必死で首をふった。
「ちょっとお手洗い行こうかな……」
足早に朝日は退室した。
「志郎さん……」
意味ありげな真澄の視線に志郎はクスリと笑った。
「さてと、私はちょっと陰陽局に電話してきます」
「はい、助かりました」
ひとまず話が終わり、志郎は自室に向かった。徐にスマホを取り出し慣れた手つきで操作する。
(あまり時間外には電話したくなかったが、今は時間が惜しい)
何回か鳴らした後、その人物が電話に出た。