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第八話:受け入れがたい事実



 時は少し遡る。いつもの穏やかな日曜日を迎え桃華は学校に向かった。


 それから昼に誰かがいないことに気づいた。いつもは口数は多い子なので、いないと分かるものである。そのことをなんとなく指摘した。


「麻里子はどうしたの?」


「う〜ん? 何か今日もは休みみたいで風邪とかひいたのかな」


「麻里子が風邪を引くなんて、明日は雪でも降るかもね」


 何気にひどい言葉を呟いた友希子と一様に笑った。1日目はそれでよかった。けれど2日目も姿を見ないとなると流石に心配になる。


「今日も休みなんだね」


「うん…学校の先生に聞いたら風邪みたいだからしょうがないね」


「そうだね」


 他愛もない会話だが、桃華は何故か嫌な予感がした。友達を心配するのは別におかしいことではない。でもどこか違和感を感じた。


(何だろう、胸騒ぎがする)


 その胸騒ぎの正体を探るべく桃華は放課後、先生に麻里子の住所を聞いてマンションに向かった。麻里子が住んでいるのは10階立てのマンションだった。父親と母親も同じ専属カメラマンをしていると聞いたことがある。


(ここかな……?)


 プレートには麻里子の苗字である遠藤が記されいる。桃華はインタホーンを鳴らした。少ししてインターホンから声が返ってきた。


「はい、どちら様でしょうか」


 声は麻里子ではなく、高齢の女性の声だった。


「あの、私 麻里子の友達の烏丸桃華と申します。麻里子の体調はどうですか」


「まあ、お見舞いに来てくださったんですね。せっかくきて頂いたのですが ……体調が悪くしばらくはお休みいたします」


「そんなに悪いんですか? 分かりました。あのひとつ聞きたいのですが」


「はい?なんでしょう」


「あなたは麻里子のお母さんですか?」


「…いえ、私はお手伝いをしている家政婦のものです 麻里子さんの両親はお二人とも海外にいらっしゃいますので」


「そうですか、麻里子さんにお大事にとお伝えください」


「はい…必ず伝えます」


 一瞬、沈黙があり、上擦った声を耳の良い桃華は聞き逃さなかった。


(何かがおかしい)


 最後の一言がやけに頭の中に残っていた。その何かを考えた時だった。その瞬間、桃華は足を止める。


(何だろう、誰か見られている)


 警戒しながらマンションを降りていくと意外にもそちらの方から近寄ってきた。その人物はどこにでもいそうなスーツを着た女性だった。


「申し訳ありません、少しお話しよろしいですか」


「はい」


(この人、普通じゃない)


 場所を移動するときに桃華は小声で話しかける。


「もしかして陰陽局と関係していますか?」


 桃華の言っている言葉に振り向かなかったが振り向かないまま小さくうなづいた。少し移動して止めていた車の中で会話することになった。


「私は陰陽師の田中と申します。身分証をお持ちですか」


「はい」


 桃華は木簡を渡して、中身を確認した。


「確かに確認しました 見習いの烏丸桃華さんで間違いないでしょうか」


 勾玉には名義が刻まれている。


「はい」


 桃華が何かを聞きたそうなのを感じ取ったのか田中は説明を始める。


「まずは意識不明者の家族が危険が及んでいないか監視を任されました」


「意識不明者?」


「はい、つい先日から意識不明者は続出しているみたいで」


(嫌な予感が……)


「あなたがこのマンションに入られているのを見ていました。遠藤さんのお宅ですか?」


 その時、重い鉛のようなものが心中を侵食し、頭がガンガンと鳴り響いた。





〇〇





「はい」


 動揺する桃華の様子に田中は慎重に答える。


「その様子だとまだ知らないようですね」


「……何があったんですか」


「ここ最近あるゲームをしたものが意識不明の重体となっているのが発見されているらしく、その対処に追われています」


「あるゲーム」


 そういえばつい先日麻里子がゲームにハマっていると聞いて、その体験をしたばかりではないかと思い出す。


「心当たりがあるようですね」


「それじゃあ、麻里子は」


「現在は大学病院に隔離されています」


「何が原因か判明しているんですか」


「はい、今わかっているのはそのヘッドギアにより何らかの作用があり、魂と体が分離して、ゲームの世界に囚われたのという仮定です」


「……ゲームの世界に魂が」


「はい、にわかには非現実的ですが」


「なるほど」


 信じがたいがそれが原因なら確かめてみるしかない。


「どうして急に続出したのですか?」


「それはそのゲーム内で大きなイベントが行われたらしく、そのゲームをクリアすればと対策本部は考えています」


(大きなイベント……それも麻里子が言っていたような)


 ゲームとかあまり興味がなかった桃華はすっかりと忘れていた。



「対策本部は誰が?」


「阿倍野裕司さんと加茂野照良さん。そして賀茂憲暁くんと賀茂光秀くんです」


「その4人だけですか?」


「他にもメンバーは募ると思いますが、少人数の方が動きやすいのだと」


 田中との話を終え、車から降りてその場から去った。急に積み重なった大きな壁に桃華はめまいがしそうになる。足取りは重く、思うように動けなかった。



 麻里子の家にいるお手伝いさんはきっとこの事が言いたかったに違いない、だけどいえなかった。


(きっと口止めされていたんだろう)


 これが公になればマスコミが騒ぎ出し、ニュースに取り上げられ、それをみる国民たちは不安や恐怖に駆られ暴走することは目に見えている。


(このことを花月達はまだ知らない、でも時間は止まってくれない)


 胸が締め付けられる思いを感じながら帰路についた。翌日桃華はいつものように学校に向かった。


 そして麻里子が当然来れないことも分かっていた。


「今日もお休みなんだね 麻里子」


 残念がる花月に朝日も同意する。


「そうですね 何日も会えないのは」


「花月……」


「うん?」


 どこか真剣な表情をしている桃華に花月は不思議がる。


「どうしたの、桃華ちゃん」


「今日花月に話したい事がある」


「え、話したい事? うん、いいよ」


 朝日と真澄は桃華の張り詰めた面持ちに一瞬、訝しむ表情をした。


 そして放課後になり、友希子は部活に向かった。花月は教室で桃華に言われたことを朝日と真澄にも話す。



「実は代永さんと広瀬さんにも話があるの」


「朝日ちゃんと真澄さんにも? 二人はどうかな」


「はい、構いませんよ」


 花月が住むアパートに向かい、テーブルの席に4人座った。


「実はね、私、昨日麻里子に会いに行ったの」


「え、そうなの? 麻里子は元気だった?」


 期待を抱く花月に桃華は言いにくかったが絞り出すように口を開いた。


「麻里子には会えなかった」


「そうなんだ」


 しょんぼりする花月に、慌てる桃華は話を進める。


「っ…会えなかったけど、それは風邪で休んでいるんじゃなかったんだ」


「え…?」


 桃華は昨日あった経緯を花月たちに話す。


「風邪じゃなかったって、一体?」


「まず最初にそこで陰陽局の人と会ったんだ」


「陰陽局って確か陰陽寮と違う機関だったかな」


 いきなりの予想外の言葉に花月は動揺する。桃華はそれにうなづいた。


「そう、私はその人と話を交わしたの。そこであることを知らされた」


 桃華は重い雰囲気に呑まれそうになりながら、麻里子の魂がゲームの世界に閉じ込められ、ゲームの世界にいることを伝えた。


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