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第七話:生きる死体



(アバターとは)


 ゲームのことは詳しくない阿倍野達は警視に聞こうとした時だった。ドアをノックされる音を耳にする。


「来ましたね」


 来訪者を呼んだのは警視のようで警部がドアを開けた。室内に一人が入ってきて、顔見知りだったので立川は思わず声をかける。


「あ、野原さん、ですよね? お久しぶりです」


「うん? 誰だっけ?」


 野原は立川の顔を見て首を傾げた。


「立川、立川慶吾です! 捜査一課の刑事の、一度お会いしました」


「う〜む」


 野原は思い出そうと立川を凝視する。


「すまない、覚えてない」


 その言葉に言われ慣れていない立川はショックを受けた。


「諦めろ、立川 こいつは興味がないものにはとことん無関心だ」


「え〜、そうなんですか せっかく甘いものが好きな同志だと思ったのに」


「うん? 甘いもの」


 立川のアイドル顔負けの容姿にぴくりとも興味を示さなかったのに、甘いものに目がないのだろうか。


「もしかしてこの前あった紅茶にガムシロップを三つ入れるのが常識と言っていた新米刑事か」


「はい! まさにそれです! やっぱり覚えてくれたんですね」


「うむ、忘れるはずがないだろう」


「おい、今さっきお前がいったことを思い出せ」


 足立の苦言に野原は我関せずである。と言うより聞いていないのか。怒るのも余計な体力なので足立は早々に諦める。


「ふ〜、こんな時に補佐は来てないのか」


「来てないと言うよりも、しばらくは無理だろう 二人目の子供が生まれて今は育児休暇中だ」


「そうなんですか」


 それを聞いた足立は明からさまに嫌な表情をする。


「おいおい、冗談じゃないぞ、と言うことはお前がゲームの説明をするのか?」


「私は人間の体(死体)にしか興味がないのだ」


 他意はないのだが、野原のことをよく知らない阿倍野は野原の濃いキャラに面をくらって、加茂野は面白そうな笑みを浮かべていた。


「えっと、それじゃ誰が……」


「うん? ああ、外で待たせていたのを忘れていた」


 マイペースな野原をドアを開けて声をかける。


「待たせてすまない、入ってきてくれ」


「はい」


 まだ声しか聞いていないのに、美麗な声は心地いい。入ってきたのは、声にも負けない容姿の整った男性が入ってきた。


「始めまして 数日前に科捜研に配属された宮野雅人と申します」


「は〜、すごい美形ですね」


 アイドル顔負けのお前が言うと嫌味にしか聞こえないのだがと、足立は突っ込みたくなったが、野原の存在で疲れていたので早々にやめた。


「彼は大学のゲーム研究会に入っていた」


「へ〜、それってサークルみたいなものですか」


「はい、まずはVRゲームのことを説明しますね。現実ではない世界、仮想空間でゲームをすることを言います。そしてアバターとはもう一人の自分と考えてください。仮想空間にダイブして、視覚、聴覚、嗅覚、味覚といった感覚が全てそのままフィードバックされます」


「フィードバック?」


「簡単に言うとそのまま自身に反映されることです」


「なるほど」


「そして問題となっているのが、ゲームの世界に彼らがいるとなるとヘッドギアを装着し、意識不明なのですが、一つ考えられるのはその魂が取り込まれているのかもしれません


 加茂野と阿倍野は顔色が悪くなる様子に立川は訝しむ。


「どうしたんですか」


「体から魂が分離なんて……寝ている間に幽体離脱などは聞いたことがありますが。閉じ込められているとなると、生きた死体になりかねないでしょう」


「そんな……何か方法はないんですか」


「一つだけあります」


「え」


 希望を見出す宮野だったが、それはあまりにも危険だった。


「それは私たちも仮想空間に潜入するしかありません」






〇〇





(本気で言っているのか)


 宮野と野原以外にそう思っただろう。先ほどゲームをしたものが廃人となったと直後ということに足立たちは動揺を隠せない。


「でもゲームをしたら危ないんですよね」


「ええ、ですが他に手がかりはありません。彼らがどこに囚われて抜け出せなくなっているのか、なので誰か潜入して確かめなければなりません」


「それは、でも……帰ってくる保証はないってことですよね」


 その言葉の意味を分かっている宮野は重々しくうなづいた。


「はい、命の保証はできません。ですがこのゲームの中に何か手掛かりがあるかも知れないのもまた事実です」


 危険だが現状では手のないことに皆、二の句を継げない。それは誰もが分かっていたからだ。


「……その方法でいきましょう」


 ポツリと呟く一言は静かな室内でよく響いた。それを発したのは阿倍野だった。


「……そうだな それしか方法がねえんだったら行くしかねえな。そして潜入するのは」


 阿倍野と加茂野、それから他にもメンバーを集めることになり、日取りを決めてから会議は終わった。


 その後、メンバーを集めるためにある人物に連絡した。電話に出たのは少年の声だった。


「ゆう兄、どうされました」


 愛称で言われたことに気持ちが緩みかけるが気を引き締める。


「仕事のことで話があります 少しお時間よろしいですか」


「…! はい!」


 いつもの優しい声でないことに、緊張が走り返事をする。


「最近、意識不明の重体者が続出しているのは知っていますか?」


「はい、今日も何軒か対応に追われていました それに関することですか?」


「話が早くて助かります その原因を確かめるために潜入をしなければなりません」


「了解しました」


「そして命の保証はありません」


「! それほど危険なのですね」


「はい、どうするかは明日までに」


「ゆう兄、私は行きます」


 即答だった。気持ちのいいほど潔く、少しは自分の命を大切にしてほしいと思いながら阿倍野は心の中で嘆息する。


「あ、光秀も行くとのことで」


 近くにいる相棒の賀茂光秀も同じように賛同する。


「分かりました では9月10日の朝8時に警視庁まで」


「はい、分かりました」


 そう言って阿倍野は電源を切った。スマホの画面を見ていると、後頭部をポンと撫でられた感触があった。


「お疲れ」


「ええ、でもまだ何も始まっていません これから予想できないことが山のように起きるでしょう」


「そうだな」


 いつもの加茂野だったらここで冗談の一つも言っているだろうが、軽口を叩くほどの余裕もない。


「行く前に思い残すことがないようにしないといけませんね」


 何気なく呟やいていたのだが、その言葉に加茂野は口元が引きつる。


「おい、今の死亡フラグっぽいぜ」


「そうですか 漫画の見過ぎでは さあて明日からもっと忙しくなりますね」


「ああ」


 阿倍野たちは明日の活力のために早めに眠りについた。そして立川たちもその後、意識不明者の対応に追われる。


 魂のなくなった体に大いに興味をもち研究に勤しみ、宮野もまたヘッドギアなどを準備したりと、時間は経過していった。



〇〇



 そして、ことの大きさに気づいた少女もまた烏丸桃華は目の前の光景に愕然としていた。



明日は予定があるので、0時過ぎに第八話を投稿しておきます( ^∀^)

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