第六話:依頼
(何も見えない……)
数日間の間の記憶を遡ろうとしてもイメージが沸いてこなかった。
(どうゆうことだ、いくら意識が失っていても混在する記憶ぐらいははあるはずだ)
それを何度も挑戦しても同じことだった。一瞬で記憶を読み取る能力もこれにはお手上げだった。
重く息を吐いて阿倍野は目を開けた。
「……何も見えません こんなことって」
人の記憶というものは魂に定着している。なのにまるでそれが何も感じられないことに不気味さを感じた。
加茂野は横に伏せっている彼に近づき、閉じている目蓋を開いた。突拍子のない行動に阿倍野は口を開きかけるが、何かに集中しているのを見て黙った。
「どうしたんですか?」
「見てみな」
彼が意図したことに阿倍野は聞き入れた。
「これは」
「ああ、まるでーー抜け殻のようだ」
魂と肉体が一緒になり始めて生命活動をするのだが、本来ある光が瞳の中にはなく、白く濁っていたのを見て阿倍野は息を呑む。
「っこんなこと、今までありましたか」
「いや……亡骸でもな夏に女子中学生が殺された事件のように、未練が残っていれば情念は残るものだ」
まゆにシワを寄せて、珍しく出す低い声音の加茂野に阿倍野は緊張感を募らせる。
「それにしても思った以上にまずいかもな」
「……?」
思った以上に記憶が読み取れないことにショックを受けていた阿倍野は頭が回らない。
「ゲームをしたのは彼だけじゃないはずだ、もっといてもおかしくない」
「ーー! それは」
阿倍野も立川から気づいたことなどの情報をもらっていたのでそれを示し合わせて整理し始める。
「確かゲームイベントで大多数の人がプレイをしている情報でしたね、そうなると西山さんと同じような人が各地で起きるかもしれないってことですね」
「ああ」
「まずはそのゲームの制作をしている会社からですね」
「まあ、とりあえず足立に連絡したら何か連絡が返ってくるだろう」
「そうですね」
加茂野の予想通り立川から夜に連絡があり、翌日は会議となった。
〇〇
刑事や陰陽局の者たちが集まる合同のものとなっているので人数が多い。立川と足立は加茂野と阿倍野に気づいて挨拶した。
「こんにちはご無沙汰しています」
「あ、はい お久しぶりです」
「1ヶ月ぶりでしょうか」
「そうですね」
「今回の事件、なかなか新しいですね」
「ええ」
そろそろ時間になるので阿倍野と加茂野は陰陽局の席へ、立川と足立は刑事のものたちが座る席に座った。
、その後予想外の人物が現れて一同は驚く。普段は会議に出ない人物が現れたのだ。その名は大谷千太郎警視その人だった。
警視庁のナンバー5が姿を表したことに皆に緊張と動揺が走る。
「集まっていただいてありがとうございます この度の事件に私、大谷千太郎も参加しますので、どうぞよろしくお願いします」
進行係のものが会議内容を読み上げる。
「それでは、陰陽局との合同会議を始めます」
「今回の会議内容は、各地で意識不明者、または昏睡状態に陥っているものが多発している事件です。すでに50人は超えており、今は情報が統制されて、ネットで少し噂されている程度ですが、公になるのも時間の問題でしょう」
(やはりか……)
阿倍野たちと立川達は確信を得た。
「問題のヘッドギアを作ったゲーム会社を見つけたのですが、もぬけの空となっておりゲームの機械しか残されていませんでしたーー警察からは以上です」
進行係が言うと、次は陰陽局代表の阿倍野が立ち上がり一礼する。
「陰陽局の阿倍野と申します 私も先日被害者の一人を見たところ、意識不明の理由がわかりました」
隣にいる加茂野を見て、阿倍野はうなづき前を見据えた。警察は聞き逃すまいとゴクリと緊張感を募らせる。
「体から魂が抜けていることが判明しました」
そのあまりの答えに知った警察一同は、何を言っているんだと言う嘲笑でもなく、その表情は皆、困惑と驚愕に覆われていた。
〇〇
「質問があれば受け付けます」
何人か挙手をして、阿倍野は対応する。
「体から魂が抜けると言うのは一体どう言うことでしょうか」
「今はそれを調査中です」
もう一人の警察も質問をする。
「体から魂を抜けた者は、今は生命活動を保っていますが、魂を失ったらどうなりますか?」
その言葉に阿倍野はわかっていたが、言わないわけにはいかずグッと堪え声を絞り出す。
「魂が抜ければ、そのままずっとです」
「ずっととは……」
警察の一人が、阿倍野の言葉の意味を推し量れず聞いた。
「はい、死ぬまでということです」
その言葉が困惑と不安から恐怖が生み出した。その中でもとりあえず冷静なのは数人だけである。
ひとまず会議が終わり、各々帰ろうとした時だった。立川と足立は上司の井原警部に呼び止められた。
「終わったようだね」
「はい、もう頭が混乱して」
「今そんなんじゃ、大変なのはこれからだぞ お前達に会わせたい人がいる」
「え、はい!」
立川と足立は警部に連れられてきたのは個室だった。中には先ほど会議にいた人物がいた。
「阿倍野さんと加茂野さん」
「よ」
「こんにちは」
阿倍野は軽く会釈をした。立川と足立は挨拶をした。
「どうして、ここに」
足立の疑問に阿倍野が答えた。
「あの方に呼ばれまして」
(一体誰に)
仕切りの向こうに誰かいるのだろうと、足立と立川は足を進めるとその人物と目があった。
(この人は……)
「来てくれてありがとう」
そこにいたのは先ほど同じ会議室にいた大谷警視だった。どうしてこの人が自分たちを呼んだのかわからなかった。早速、警視から説明が受けるためにそれぞれに座った。
「自己紹介をした方がいいかね 私は警視の大谷千太郎と申します」
細身の男性が立ち、立川と足立を迎えた。上司のものが挨拶をしたので、部下の足立と立川も慌てて返した。
「警部の井原とは、同期の知り合いでね 昨日は遅くまで話していたんだ そして少人数で取り組むことになった」
「上からの指示である人物の捜索を依頼してね」
(上からの……!)
警視が警視庁で階級は五番目に偉い。上には「警視正」「警視長」「警視監」そして「警視総監」がいる。
(一体誰の……)
「名前は菅原伊織 14歳の男子中学生」
「菅原…」
「この子の祖父が有名でね」
「菅原伊織」
「へえ〜、総理の名字と一緒ですね」
立川はただの感想を述べただけなのだが場が凍りつくには十分だった。その静寂は肯定を表すことを察して感の良い足立は気づく。
「……それは、本当ですか」
足立の狼狽する声に立川は動揺する。そんな二人に警視は厳しい現実を突きつける。
「残念ながら、本当です」
「!?」
ええっ!?と立川はまさか当たっていると思わず言葉を失う。
第121代内閣総理大臣。国民のほとんどが知っている行政府の長である。と言うよりも知らない方がおかしいほどの存在である。頭脳明晰で胆力があり、国を相手にも臆さず外交する手腕が長けている。
足立は大谷警視に質問を投げかける。
「お孫さんがいなくなってんですか?」
「いなくなったのではないな、先ほどの言い方が正しいのなら魂がどこかへといってしまったといえば正しいか」
「!」
その言葉をついさっき聞いた阿倍野、加茂野、立川、足立は凍りつく。
「彼は今、病院で意識不明の状態だ」
「まさか、お孫さんがゲームをして」
大谷は重々しくうなづいた。
「そうらしい。そしてこの数日ある情報を耳にしたーーゲームの世界に彼のアバターがいるらしいんだ」
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