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第四話:バトルロイヤルゲームVRMMO『合戦・百花繚乱』の世界


(誰だろう、朝日ちゃんとか、真澄ちゃんじゃない 桃華ちゃんじゃなさそうだし)


 花月は考えて、消去法として残った麻里子を選んだ。すると彼女はーーー彼は嬉しそうに喜んだ。


「正解〜当たった花月ちゃんには抱きついてあげる」


「!?」


 いくら中身が女性と分かっていても外見は男性なので心臓がドキリとする。驚きで体が硬直していると、


「遠藤さん、はなちゃんが困っているので」


 花月をはなと呼ぶのは友希子か朝日しかいない。友希子は今頃、部活に勤しんでいるのでこの場にいるはずがない。


 ならば一人しかいないーーはずなのにそこにいるのは女の子ではなく、男の子だった。


「……朝日ちゃん?」


 何回も読んできた名前のはずなのに心許なく問いかけたのは、幼なじみの姿があまりにも変貌を遂げていたからだ。


 目の前には自分と同じくらいの少年がいた。そしてもう一度名前を呼んだ。


「朝日ちゃんなの……?」


「うん、そうだよ」


「お、男の子のアバターにしたんだね」


「……うん なかなかできない体験だし折角だから」


「そうなんだ」


 何だか新鮮な幼なじみに目が離せない。残るは真澄と桃華しかいない。花月は何となく雰囲気で当てた。


「ショートの女の子が真澄さんで、女性の方が桃華ちゃん?」


「正解です」


「ええ、そうよ」


 いつもの長い黒髪が短くなっただけなので分かりやすかったが、残りは一人だけだったのですぐに分かった。


「それにしてもすごいわね こんなことができるなんて」


 桃華は自分の手を見ながら呟くのに花月は同意した。みんなが集まったことで長谷川は説明を始めた。


「このバトルロイヤルゲームVRMMOは合戦・百花繚乱っていうゲームの名前で、江戸時代の日本を背景にしているのよ」


 時代劇のドラマとかでよく見たりするものだと麻里子がフォローして、花月達も思っていたので納得する。


「バトルロイヤルってサバイバルゲームをして、最後の一人になれば勝者ってことだよ。まあでもここで戦うのも自由だし、リラックスしたい人は城下町にいる人ももちろんいるけど」


 そして、その後移動して長谷川達に連れてこられたのはやけに人が集まっていたところだった。



 イベントをクリアしたり、出現した妖怪を倒せばその分の収入になるけどそれじゃあ他のゲームと変わらないし味気がない。


 運営側が多人数のプレーヤーが戦闘できる場を設けた。


 その名は合戦場(かっせんじょう)


 そこには大きな囲いみたいなものが作られており、現在合戦場でいるのだろう人々の戦う姿が大きな画面に映し出されるのに朝日は声を上げる。


「ここにいるみんなが戦っているってことですか?」


「そう! その中でも人気のプレーヤーが五大勢力があって」


 まず一番強いのだ獅子王って言って、チート級に強いキャラで、大柄でムキムキな男。


 二番目は紅姫(べにひめ)っていう女の子で、見た目は和風美少女だけどかなりの戦闘狂で強いものが好き。


 三番目は忍者「風魔」。リーダーはキツネっていう男で、まあ暗殺とか、索敵、情報取集などが得意ね。


 四番目は玉藻(たまも)っ言って、自分の美貌を武器にして相手を戦闘不能にしたり幻術とかを使って相手を翻弄させたりする。


 五番目はアツシっていう男の子で武器というよりもチームワークを武器にしているわね。


「そんなすごい人たちがいるんですね」


「うん、私たちパソコン部も夏休み中に嵌っているんだけど、この五大勢力に何度も負けたよ」


 うんうんと周りのものがうなづく。


「でもまた、今度の休みにイベントがあるからそこでリベンジするんだ」


「ふふ、少しでも雪辱を晴らしてやるわ」


「あはは」


 花月はふと気になった。


「このゲームって体験版は無料だけど、本体はいくらするの?」


「1万円だよ、専用のヘッドギアを購入すればすぐにできるよ」


「こんなに完成度が高いのにそんなに安いの?」


「うん、でもできる人とできない人がいるみたいで、それがよく分からないんだよね……制作側も調査中みたいなんだけど」


 できる人とできない人、一体どういうことだろう……?


 花月は違和感を感じたが特にそれ以上は考えなかった。それからひと通り見終わり、そろそろ18時になるだろうと、ログアウトして現実世界に戻った。ヘッドギアを外すと締め付けられた爽快感があった。


「ふう〜、凄かった」


「またやりたかったら、パソコン部だったらいつでもきていいからね」


「はい今日はありがとうございました」


 長谷川達にお礼を言って、花月、朝日、真澄、桃華、麻里子は帰路でこんな話をした。


「そういえば、麻里子も今度のイベントに出るの?」


「もちろん また月曜日にどんな結果だったか期待しておいて」


「うん!」




「それじゃあ、私帰りはこっちだから またね」


「うん、またね」


 何気ない、いつもの会話。


 まさかこの会話を最後に麻里子の姿を見なくなるなんて思いもしなかった。何が動き出しているのかも気づかず、ただ時は過ぎ去っていった。


 月曜日、お昼に麻里子が休みと聞いて、花月達は心配したが、友希子はゲームをしすぎて風邪でも引いたのだろうと茶化した。


 その翌日の火曜日も麻里子は学校に姿を表さなかった。


(どうしてだろう。麻里子 そんなに具合が悪いのかな)


 普段はムードメーカーの彼女が場を和ませため、今いるメンバーで大人しすぎた。


 表面では友希子は明るくしているが、やはり心配しているのだろう。花月は嫌な胸騒ぎを感じた。



(何も起きてないといいけど)


 だが、花月の予想をはるかに上回る事態が各所で起きていた。






〇〇




 事の八反はある男性がゲーム好きの友人に会いに行ったことから始まった。


 最寄駅か降りて徒歩十分のところにアパートがある。季節は9月となったが、残夏の暑さはまだ続いている。涼しい地下鉄から降りれば、生暖かく重い風が体力を奪っていく。


 気温は三十度。雲一つない快晴のした男性の体から汗がにじみ出してくる。セミの鳴き声を聞きながら、住宅街を歩いていく。


(アイスでも奢ってもらおう)


 男性はそんなことを考えながら、アパートの玄関に辿り着きインターホンを押した。

ピンポーンという呼び出しの音が聞こえたが、中から人の気配はなかった。


(あいつ、寝ているのか……?)


 今日きたのは友人からの誘いがあったからだ。


『面白いゲームを見つけたんだよ、今度イベントがあるからうちにこいよ』


 特にあまりゲームに興味ないのだが、小学生の時に嵌っていた時はあったが、三十も前になるとスマホでアプリゲームなどをすれば事足りるぐらいである。


 しかし幼なじみの友人はゲーム好きの趣味は一向に変わらなかった。


 悪い性格ではなく、気心の知れた仲なので断ることができず何回も催促してくるのでこちらの方が音を上げたのだ。


 もう一度インターホンを鳴らすが一向に住人はやってこなかった。


 ただでさえ暑い中やってきたというのに、少しイライラしていた友人は持ちきれなくなり鞄の中に入っていた合鍵で開けることにした。


 もちろん本人に了承ずみというよりも、何かあったときのために本人から渡されていたのだ。


 他人が持つべきものなのか迷ったが、友人の許可があるならいいかと思った。ドアノブに差し込みがチャリと開く音が聞こえた。


 一応他人の部屋なので無断に入るのも気が引けるのでちゃんと声をかける。


「お〜い、入るぞ……お邪魔します」


 少し声を出して言ったのだが、返ってくる返事はなくやはり寝ているのかと仕方なく靴を脱いで上がることにした。


 何回かこの部屋に来ているので友人がどこにいるのかはあらかた見当がついていた。というよりも独身の男の部屋はそんなに広くはない。なぜか妙に静かなのが不気味だったが、友人は気づかないふりをした。


 慣れた足取りで扉を開けるとそこにはヘッドギアをつけた男性がいた。


(何だいるんじゃねえかよ……)


 イラついていたので、少し驚かしてやろうと忍び足で近づく。パソコンの画面はつけっぱなしでカーテンは閉め切っていた。


(なんでカーテンを閉めておくんだ?)


 何かのホラー映画を見ているようだと思った。


(ったく、もう昼前だぞ)


 男はカーテンを開けて、部屋の中に日の光を入れた。部屋の中が明るくなり、友人を見た瞬間に男性は違和感を感じた。


 ピクリとも動かない、彼の様子に、ゲームをしているだけでこんなにも生気が無くなるのかと。


 自分の疑問に葛藤しながら、考えていても仕方ないと首を振り彼の肩を揺することにした。


「おい、ゲーム中に悪いが中断しろ」


 耳元で話しかけるがうんともすんともない。業を煮やした男性は先ほどよりも強めに肩を揺すった。


「おい、いい加減に」


 その瞬間、体がぐらりと傾きまるで人形が倒れるように椅子から転げ落ちる。


「おい!? 大丈夫か」


 男性は慌てて友人の肩を支えて、緊急事態だとヘッドギアを外した。そしてその違和感が恐怖の感情へと急転する。


 友人は目を開けたまま気を失っていたからだ。気を失っているのも怪しくなるくらいである。


(もしかして……)


「おい、嘘だろ……おい!」


 いつもの様子じゃないことに男性はスマホを取り出し、119番を押した。


「火災ですか? 救急ですか?」


「救急です! 友人が倒れていてーー」


 住所と友人の状態を話し、その後アパートの管理人に事情を話し、友人が倒れていたことを伝えた。


 そして救急車が来て友人は運ばれる時も意識不明のまま運ばれていく。


 救急隊員からもっと詳しく話が聞きたいと言われ、男性はうなづいて救急車に乗り込み、日本医科大学付属病院に運ばれた。



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