第三話:麻里子の誘い
「ふふふ、こんなにも朝から美少女達を拝めるなんてありがとうございます」
「麻里子も元気だった??」
最初に出会った頃の花月は麻里子の独特な雰囲気になれなかったが今では慣れたものである。
「ふふ、元気でしたとも、そして久しぶりのワンショットを」
おなじみのカメラを持って鼻息荒い様子に、花月はたじろいでいると麻里子の幼なじみの友希子はため息混じりに口を開いた。
「そろそろ学校に行くよ」
いささか麻里子の声がいささか大きかったのか、注目を浴びた。
(ねえ、あの子たち可愛くない)
(うん、そうだね)
(何年生だろう)
花月達は容姿が整っているので集団でいると注目されやすい。そしてその中にいる朝日もまた例外ではなかった。
(俺、あの黒髪の子タイプかも)
(お〜、お前そうゆう子がいいんだ)
聞こえなかればよかったのだが、聴覚の優れた朝日にとってはそれは地獄に過ぎなかった。
(なにがいいねだ……っ! なにがタイプだよーー!せいぜい帰り道に気をつけるんだな)
睨み殺してやりたい気持ちを抑えている朝日に真澄は念話で話しかける。
(朝日様、落ち着いてください)
(ウヴ、ごめん 分かってるけど…)
真澄の制止に朝日は気持ちを切り替えた。そして教室で桃華と再会して昼食になり馴染みの場所となったいつもの中庭に向かった。
そして、志郎達が作ったお弁当を食べて一服した後、麻里子がおもむろに口を開いた。
「みんなにちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「うん? どうしたの……?」
花月達は何だろうと麻里子に注目した。
「VRゲーム知っている?」
(うん? VRゲームって)
花月はニュースやテレビとかで見た覚えがあるが大して知らず、朝日、真澄、桃華、友希子も反応は似たようなものである。
「それってどうゆうものなの?」
「それは、体験したほうが早いかな。 放課後パソコン室にきてほしいんだけどどうかな?」
麻里子の誘いに部活がある友希子を除いて花月は主に用事がないので、それにうなづいたら朝日、真澄、桃華も参加することになった。
放課後になり、パソコン室に4人に赴くとゲーム同好会の部長、長谷川美琴が待ち構えていた。
「ようこそ、パソコン室へ」
「こんにちは」
長谷川だけかと思いきや他にも男子生徒がいたので花月は驚いた。
「彼らは同じチームを組んでいる仲間みたいなものだ。後一人はくる予定なんだが……」
長谷川が説明しようとした時外から足音がパタパタと聞こえてドアが開いた。
「すみません、ちょっと遅れました」
「ギリギリセーフだよ 彼も部員の一人だよ」
長谷川は普通に紹介したのだが、花月達は見覚えのあ理すぎる少年に驚愕する。
「えっと、……上条悟くん?」
「うん、あれ? 平野さん、どうしてここに」
困惑している花月に麻里子がフォローする。
「やっほ〜、悟っち」
「おわ、遠藤!? どうしてお前がここに」
「あれ、話してなかったけ? 今日パソコン室に行くって」
「聞いてねえよ、聞いていたのはVRに興味がある女の子達が来るから手伝いに来てくれってーー女の子達って平野さん達のことだったんだ」
「うん、私もまさか上条君と会えるとは思わなかったから驚いた。
「はは、そうだね」
この時和気藹々と話していた二人を見て部員男子の芹沢、織田、豊満は上条にジェラシーにまみれた視線で見つめていた。
そして我慢しきれなくなった芹沢は上条の首に腕を回した。上条はいきなりの不意な行動に首が締まる。
「ぐわ、ちょっと何する」
上条は抗議しようとするが、気迫ある目つきに反論は止められる。
(おいおい、上条くん あの子達は知り合いなの?)
(えっと……まあ、知り合いですが)
後輩の何気ない言葉に先輩のプライドは大いに傷ついた。
(お前……っ!?、俺なんてこんな可愛い女の子達と知り合ったこともないのに……っ)
(そんなの知りませんよ!?)
早口でまくし立てる先輩に被害妄想だと上条は同じく小声で反論する。その時、拍手する音が聞こえ、芹沢と上条は意識を削がれる。
「はいはい、じゃれつくのはそこまでにして」
長谷川の言葉に少し冷静さを取り戻したが、芹沢は気が済んだのか元に戻った。
(どうせだったら、もっと早く言って欲しかった)
上条は無言の視線を投げかけたが、気づいていた長谷川にスルーされた。桃華は上条と面識がないので初めての出会いだった。
「知り合いなのか?」
「ええ」
朝日はどこか遠い視線をしたのに桃華は首を傾げた。
〇〇
それぞれの簡単な自己紹介が終わり、ようやくゲームの内容についての説明となった。
「VRMMOとはアバターとして、仮想空間にダイブしてアバターを通して、視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚といった全てがそのままフィードバックされるようになっているものよ」
長谷川は用意していたヘルメットのようなものを掲げた。
「これはヘッドギアと言ってこれを被ることで仮想空間をダイブする」
「まあ、まずはやって見ないことには始まらないよね。1ヶ月は無料で入れる体験版があるから、それでダイブしてみようか」
花月、朝日、真澄、桃華、麻里子はヘッドギアを装着した。
「それじゃ、スタートするね」
「はい」
花月達はうなづいた後何かの映像が頭の中に流れ込んできた。目を開けるとそこは学校ではなく、不思議な空間だった。
(ここは、一体)
すると一人の女性が出現した。
「ようこそ、初めてのお客さまですか」
「はい!
「初めてのお客様または、体験版の方はアバターに用意されているもので選択してください」
するといきなり画面のようなものが出てきて、花月は驚いたが恐る恐るそれをスクロールした。
「色々とあるんですね」
「はい、老若男女のアバターを取り揃えています」
いっぱいあると迷ってしまう。時間をかけて待たせてしまうのも申し訳ないので自分と似た外見の女の子のアバターを選んだ。
「了解しました コンバートを開始します」
その瞬間、花月の体は光り輝き別の世界へと転送された。目を開けるとそこは学校やさっきの空間ではなく、また違った所だった。
「ここは、一体」
周りを見渡して花月は唖然する。そこはまるで本やドラマで見るような城下町が広がっていたからだ。
花月は目の前の光景に驚きながら、立ち尽くすばかりである。
「これ、現実なの……」
情報量が多過ぎて頭が回らなくなりそうになった時だった。
「平野さん」
「はい!」
声をかけられて振り向くとそこは知らない男性が立っていた。初めて見た男性に花月は首を傾げる。
「私だよ、部長の長谷川真琴」
「え、先輩ですか?」
でもそこにいるのはどう見ても体格のいいお兄さんにしか見えなかった。
パソコン室であった細身の女の子の面影はなく、頭の中の先入観がありこんがらがってしまう。
「まあ、最初はそんな反応だよね」
「この姿に慣れるのもやっぱり時間がかかったし」
「そうなんですか」
「うん、まあ、男っぽい口調にすればそれなりに見えるぜ」
いきなり声と口調が変わったことに花月は思わず拍手する。
「すごいですね、そういえば朝日ちゃん達は?」
「もうついてきて他の部員達が案内しているよ、私たちも行こっか」
「はい、よろしくお願いします」
長谷川と共に花月は向かうと、軒下に人だかりがいた。
「お待たせ」
「部長! 平野さんを連れてきましたか」
何だか見覚えのない男性に首を傾げた。
「彼は豊満だよ」
「え、豊満先輩ですか」
「ええ、外見が変わるから分かんないわよね」
豊満はいかにもポッチャリとした男の子だったが細身の男の子になっていた。
「これはアバターの特権だね」
「ヤッホ〜、無事についたようだね」
「えっと……芹沢先輩ですか?」
「まだ何も言っていないのによく分かったね」
芹沢は嬉しそうに声を上げた。
「雰囲気で分かったんじゃない」
落ち着いた声の話し方に何となく花月は推察した。
「もしかして織田先輩ですか」
「ああ、よく分かったな」
おおっと次々と当たったことに花月は嬉しくなっていると今度は別の人が声をかけられた。
「今度は誰でしょうか?」
「えっと?」
目の前にいるのは茶髪の男の子だった。
作者はVRゲームをしたことがないので想像で書いています。
最近になってソードアート・オンライン(ユナイタル・リング編)を読みました。戦いの描写や設定作りなど勉強になります。アニメでユージオ好きになってから、エオラインの存在が気になる( ゜д゜)27巻早く発売しないかな……。