表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/198

第二話:夏休みが終わって


 玄関を開けるとそこには長身の男性が立っており、朝日は驚いた。


「お帰り、朝日」


「わ、糀?!」


 身長180センチを超える糀に抱きつかれそうというより、覆いかぶされそうになった。


「…えっと、ただいま」


 嬉しそうに帰りを出迎えてくれる糀はまるで犬が尻尾を全力で振っているようにも思った。


 そんなに喜んでくれるのは嬉しいことなのだが、如何せん筋肉質な彼に加減なく抱きしめられると肋骨を圧迫され呼吸もままならなくなる。


「糀……もう」


 まるでボクシングや柔道で技を受けて戦意を喪失した時意思表示法のようにタップアウトする。


 審判員はいないが、糀の後ろにいた同じくらい長身の女性が朝日の危機を止めるため糀の襟元を無造作に掴んだ。


「ぐえ」


「朝日の首が閉まっているよ」


 聖子の言葉に糀は力加減を忘れていたことに気づく。


「うえ!? 大丈夫 朝日」


「うん、ゴホ 大丈夫だよ」


 悪気はないので、申し訳なさそうに謝る糀に朝日は笑いかけた。


 そして自分を助けてくれた聖子にも、


「ありがとう、聖子さん 助かりました」


「帰ってきても早々気を失ってもらったら敵わないからね」


 聖子の冗談か分からない言葉に朝日は口元が引きつった。そのまま聖子が助けていなければ、頸動脈を圧迫して、脳に酸素が行き届かなく失神していたか、喉仏を押され、気管をを塞いで、肺に空気が届かず失神していたかもしれないのである。


「あはは、そうだね ……今日は二人とも仕事は大丈夫なの?」


「ああ、前もって常連客には休みということを伝えているからね」


「俺も夏目に言ってきた」


「そう保育園の皆は元気?」


「うん、元気にしているよ あ、でもたくやくんはちょっと元気なかったかも」


「たくやくんが」


 朝日がすこやかに行くと懐いてくる5歳の男の子である。


「そうか、それじゃまた近いうちに遊びに行かないとね」


「うん、たくや君喜ぶと思うよ」



「……玄関先で楽しそうですね」


 低く通る声音に朝日と糀は身についてしまった恐怖感から一緒に肩をびくつかせてしまう。朝日はなるべく声を明るく、志郎に返事をした。


「ただいま、志郎」


「おかえりなさいませ、朝日様 積もる話もあるでしょうからまずは着替えてきたほうがよろしいですね」


「う…うん」


 会話は滞りないのだが、志郎の笑みが怖いのは気のせいではないだろうと朝日は考えないようにしていたが、逃げられるわけないと早々に諦め、重い足取りで家着に着替えて志郎達がいる居間に向かった。


「志郎、お待たせ」


「はい、では何があったか洗いざらい吐いてください」


 単刀直入、口調は丁寧だが言っている言葉の端々に毒があり、座漏斗しながら朝日はもうすでに自室に戻りたくなった。黙っていてもしょうがないので少しずつ話した。


 「武術大会に行ったら、生徒の一人が妖怪に取り憑かれていてそれを取り除くためにオカゲ様になり退治した」


「その取り憑かれた男の容態は」


「すぐに病院に運ばれたから大丈夫だとう思う」


「そうですか」


 医者の仕事に携わっていた志郎は患者のことになるととことん心配症になる。


「それで……?」


 次の言葉を促された朝日は尻すぼみになりながら話した。


「えっと、妖怪達を退治した後あの人たちと遭遇してしまって」


「あの人たち?」


 それに答えたのは真澄である。


「前に会ったと話していた賀茂家の次期当主の彼らです」


「……本当に縁があるんですね」


「……僕もそう思う」


 呆れる志郎に朝日は同意する。


「それと他に会った人たちはいませんでしたか」


「あっと……他は四神っていう人たちだったかな……?」


 朝日の何気ない一言に志郎の表情は一変する。



〇〇





「! 四神に会ったのですか……」


 志郎の言葉に真澄はうなづいた。


「はい、それも当主に会いました」


 よほどのことがない限り会うことはないと高を括っていた志郎はただ驚く。


「それはなぜ……」


「北方院の葵様という少女と、花月さんが親しくなり、それに気になったのかも知れません」


「なるほど」


 当人だけではなく次期の方にも目を光らせるべきだったと志郎は後悔した。


「他には」


 笑顔なのにどす黒い覇気を纏っている志郎に朝日は自首するように手をあげた。


「い、いえ、もうありません」


 朝日の涙声で震える様子に糀は声を上げる。


「志郎! 朝日をいじめるな」


「は〜、いじめてませんよ これは主人のためを思って叱っているのです 邪魔をするなら糀……容赦しませんよ」


 凍りつくような志郎の声音に糀はブンブンと首を降ったのだった。



〇〇


 それが昨日のことである。


(しばらくこの状態が続きそうだなっ〜……て僕のせいなんだけど)


 朝日は自分なりに考えて反省している、つもりである。ふと考えていると花月に声をかけられる。


「それじゃ、行こうか朝日ちゃん」


「うん」


 朝ごはんを食べ終わり、忘れ物がないか確認しているとあることを思い出した。


(そういえば、奉納の儀ではなちゃんが踊っていた時、別の人が踊っているような気がした……あの時に夢に見ていた女性と似ているような気がしたけどきっと夢のせいだよな)



「朝日ちゃん、そろそろ行こっか 久しぶりだね 学校」


 何らかの錯覚だと朝日は気持ちを切り替える。


「うん」


「行ってきます 志郎さん」


「はい、お気をつけて 3人とも」


 花月、朝日、真澄に志郎は見送られながら学校に向かった。




〇〇〇



 今日は九月一日、長かった夏休みが終わり新しい二学期を迎える。多くの学生たちが自分たちのように学校に向かっていく姿が見える。道なりを歩いていると花屋さんに会った花月は挨拶をした。モデルのようにすらっとしていて朝日はその長身を分けてくれないかと羨ましそうに見た。


「りんさん、おはようございます」


「あら、花月ちゃん おはよう」


 りんは花月達の制服を見て察した。


「そうか、今日から学校なのね」


「はい今日から二学期です」


「そうなのね、あっという間ね」


 いつもは明るい口調のりんがとても悲しそうな声に花月は心配する。


「どうかしましたか?」


「……え」


 花月の言葉にりんは少し驚いた表情をして慌てて説明した。


「えっと、何だか元気がないなって 私の気のせいだと思いますけど」


 何故かテンパっていると、笑い声が聞こえて動きが止まった。


「ふふ」


 普段は大人っぽいのに、子供らしい笑みに花月は驚いた。


(こんな笑い方もするんだ ……りんさんって)


「ありがとう 心配してくれて もう大丈夫だよ」


「そう……ですか?」


 じっと花月はりんを見つめていると、彼は先程感じ取った視線に逡巡する。


「それよりも早く学校に行かないと」


「あ、そうですね」


 朝日は精一杯の笑顔を作り、真澄が会釈していくのをりんは見送った。


「さてと、水やりを済ませたら剪定しないと」


 他にもやらなきゃ行けないことはあるのにどうにも手が動かすことができなかった。



(何で……あれだけで分かってしまうんだろう 久しく感じてなかった この気持ちは……)



〇〇〇



「ずいぶん仲が良くなったんだね」


「え、うん この前ね 葵ちゃん達と一緒にプレゼントを探しに行って」


(な……なにそれ そんな話 知らないんだけど)


 朝日は思わぬ精神的なダメージを受けた。登校する道を歩いていくと見覚えのある友人の後ろ姿に声をかけた。


「ゆきちゃん、麻里子」


 花月の声に反応した二人は振り返り返事をした。


「お! 花月 久しぶり 元気にしてた」


「うん、元気だったよ ゆきちゃんは」


「私も元気っていうかまだ夏休み気分が抜けないんだよね」


「そうだね」


 花月は1ヶ月ぶりに会う友人に嬉しい気持ちになっていると不気味な笑い声が聞こえてきた。



5月1日の最後の投稿から、半年以上ぶりの投稿です( ̄◇ ̄;)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ