第一話:瓜ふたつの少女
目を開けるとそこは野原ではなく、生まれてから16年間住んでいるアパートの部屋の天井だった。
(今日も同じような夢を見たな)
花月は微睡む意識の中で考えた。先日は巫女服の着たような女性の時もあったが、今回は違った。
教科書でも大昔の人が着るような格好だった。
(あれって一体何時代だろう……それにしてもあの女性かっこよかったな〜)
勇ましく戦う姿に花月は桃華のことを思い出した。
先日の武闘大会もすごかったと記憶に新しく、花月はいつか思っていたことを口にする。
(私もあんな風に戦えたら……)
自分は霊感があるが、もちろん戦うことに無縁な女子高生である。今まで隠れたり逃げるだけで精一杯だったが、それだけでは誰も守れないのではかとどこかで不安に思っていた。
その意識を変えたきっかけはやはりと花月は思い浮かべる。
(やっぱり、御影様かな……?)
強くて優しくて人を守るために戦う姿に心焦がれた。
武闘大会の時も現れて桃華の危機を救ってくれてますます好感を持つようになった。
(そうだ 今度桃華ちゃんは会った時に何か学べないか聞いてみよう)
花月はふと時計を確認すると6時前だったが、一度寝過ごしたことがあるので、というよりも何だか目が覚めたので二度寝する眠気もなかったので起き上がることにした。
背伸びをした花月はカーテンを開けた朝の光を浴びた。
「よ〜し、今日も1日頑張るぞ!」
〇〇
目を開けるとそこは森の中だった。自分は夢の中にいるのかと目を瞑っても開けても同じ光景が広がるのみ。
(どうゆうことだ……?)
部屋の中で寝ていたはずの朝日は自分がなぜ室外にいるのか分からなかった。
(というか、ここはどこなんだ)
朝日はもう一度夢なら覚めてくれと頬をひっぱたが、駄目だった。というよりも思った以上に頬を強く引っ叩いて痛いぐらいである。
そしてふと気づいた。
自分の体が思った以上に大きくなっていることを。
「これは…」
そして恐る恐る自分の顔を触った。
(僕の顔じゃない……?! 誰なんだ一体っ?)
自分の体じゃない違和感に朝日は戸惑っていると、ザパンという水しぶきの音が聞こえた。
(水の音? 近くに川とかあるのかな? とりあえず言ってみよう)
朝日は覚束ない足元をふらつかせながら森の中を歩いて行った。歩いていくとそこは川ではなく、迫力のある水の飛沫の音に朝日は思いつく。
(この音は、滝か…?)
そして森を抜けると朝日の考えていた通りそこは高い崖から水が流れ落ちていた。
(やっぱり、そうだ)
癒されるのは滝のマイナスイオンのおかげなのか爽快な気分になるのは、もう少し近くで見たいと朝日は前に足を踏み出そうとした時だった。
急に水面から何か飛び出してきたのだ。あまりにも驚いた朝日は開いた口が塞がらない状態である。
(な……何だ一体?!)
水面から出てきたのは人間だった。
(どうしてこんなところから……っ)
驚いたものの朝日はまた他の所に興味を惹かれる。
(金髪……?)
その人物の体のラインを見て女性だと分かった途端、思わず視線を逸らした。
なぜかというとさっきまで水をかぶっていた女性の着物が透けて肌の色が見えていたからだ。
日が差し込み、濡れた金の髪がさらに輝きをましていた。その女性は水分を引き絞るかのように腰ぐらいある髪の毛を面倒くさそうに水気を払った。
振り払った水滴がキラキラと輝いていた。
その瞬間、朝日は見惚れた。彼女の少し粗い仕草などに視線が釘付けとなる。途端に胸が苦しくなった気がした。
いや実際に感じているのだ。
(なんで、こんな気持ちになるのだろう)
朝日は困惑していると彼女が何かを呟いた気がした。
(何を言ったんだ……?)
気になった朝日はつい足を踏み出してしまい、がさりと音を立ててしまった。
人がいる喧騒ならまだしも自然に響く音は限られている。閑静な空間では十分過ぎえうほどの音で、彼女は振り返った。
そこで朝日と彼女は目があった。そしてまたもや驚く。
(嘘だ……どうして、何で)
朝日は目を見開き、彼女の顔を凝視した。その顔は幼なじみと瓜ふたつだったのだ。
(どうして、はなちゃんと同じ顔なんだ……?!)
〇〇
見れば見るほど幼なじみにしか見えない。
(どういう……)
お互いに固まって数秒間、動き出したのは彼女の方だった。朝日に驚いた彼女はバタバタと動いていた。
(ええ〜!?)
何をそんなに焦っているのか困惑していると、やけに激しく水しぶきを上げているのを見てようやく気づく。
(もしかして、溺れている……!?)
そのことがわかった朝日は突っ立ってもいられず思い出した。
(待っていてーーすぐに助けるから)
後もう少しで、彼女に手が届くーー・・
「はなちゃん!」
〇〇
「ふぁい!?」
そこには金髪ではなく焦げ茶色の髪の少女がいた。
「えっと……はなちゃん」
「う、うん」
朝日は周りを見渡すとそこは森の中ではなく自分の部屋だった。
(森の中じゃない……帰ってこれたんだ あの女性の夢だったのか でも夢にしては……)
「朝日ちゃん……? どこか具合が悪い?」
心配そうに伺う花月の声に朝日は慌てた。
「え、あ……うん 大丈夫 ちょっと夢見が悪くて」
「そうなの?……夢ってそういう時もあるよね」
花月の笑いに朝日はようやく話せる余裕ができた。
「うん……何だかすごく鮮明で」
その時、何故かあの女性の着物姿を想像してしまった。瓜ふたつだった花月の顔を見たからか余計である。
何だか自分の体温が一気に上昇した気がした。
「朝日ちゃん、顔 赤いよ 熱があるんじゃ」
心配になった花月は朝日の熱を測ろうとおでこに手を当てようとするが花月の手を制止させた、その行為は今は逆効果である。
「だ、大丈夫だ……ちょっと顔を洗ってくるね」
朝日は駆け足で洗面所に向かった。
「朝日ちゃん……? 本当に大丈夫かな」
小さい頃から体が弱いと思っている朝日に花月は心配だった。今日もいつもと同じように幼なじみを迎えに来て朝日を起こそうとするまで一緒だった。
「朝日ちゃん、ご飯だよ〜」
いきなり布団から手首を握られた花月は声を上げた。
(びっくりした 今までこんなことなかったから)
花月にとって初めての経験だったので今でも心臓がドキドキとしていた。
(それもあるけど……)
花月は朝日に握られた手首を触った。
『はなちゃん!』
朝日の声はいつも穏やかで柔らかい声音、だからなのかそれしか知らないから、あんなにも荒い声を出せることに花月は動揺を隠せない。
そして、花月はあることを呟く。
『まるで、男の子みたいな声だったな』
言った後、我に帰った花月は何だか恥ずかしくなる。
「な、な訳ないよね」
(何を考えているんだ 私、早く準備を手伝わないと 後…朝日ちゃんの様子もおかしかったことを伝えたほうがいいかな)
花月は自分の考えを切り替えるように台所に向かった。朝日は洗面場で顔を洗い、火照った表面は冷たい水が気持ちよかった。
「ふ〜、スッキリした」
肌触りの良いタオルで、水滴を拭い去り、だいぶ気持ちが落ち着いた。
「よし!」
気持ちを切り替えて食事に向かうと良い匂いが立ち込めていた。今日の朝食にはご飯と味噌汁と鮭の塩焼きとだし巻き卵焼きと青菜のお浸しである。
朝食も準備を手伝うと台所に向かうと割烹着を着た真澄がいた。
「おはようございます、朝日さん」
「おはよう、真澄」
普段だったら挨拶だけだったが、真澄は心配そうな朝日を見つめていた。
美少女に心配そうに見つめられたら、年頃の男の子だったら頬を染めるかもしれないが、朝日にとっては日常茶飯事なので至って普通である。
「うん、大丈夫だよ」
朝日は笑って、真澄を元気づけようとしたがーー
「元気がないくらいが丁度いいじゃないんですか? 最近は絶好調ですし」
皮肉たっぷりに口を開いたのは志郎だった。その様子に頭を抱えていた。
(うゔ……まだ 機嫌が悪いな)
それは数日前、奉納の儀があった翌日は帰ってきた時からだった。花月は自宅のアパートに帰り、朝日と真澄も自宅に戻った。