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第九話:お祓い屋さん

三人称です。

「あの?……あなた達は一体?」


 いきなり現れた二人組の男に、ベットの上にいる女の子は首を傾げた。


「私の名前は、阿倍野裕司と申します」


 阿部野という男性から女の子は名刺を受け取った。


 阿倍野あべの 裕司ゆうじ


 その男はサラサラの黒髪に、穏やかな眼差しがより爽やかさを演出させる。服装はボタンを上まできっちりと留めていて、ネクタイをしっかり締めていて優等生な雰囲気を醸し出していた。


 女の子は名刺に記載されている職業を見た。


「お祓い屋さんなんですか」


「はい。 警察から事情は聞きました」


「それと、さっきあなたが刑事に話していたことを実は聞いていたのです」


 しっかりしてそうで意外とちゃめっ気たっぷりに言う彼に、思わず女の子は微笑んだ。


「黒いもやみたいなものに追いかけられたと言っていましたね」


 怖いことを思い出した女の子は身をすくめた。


「それがさっき言っていた「妖怪」なんですか?」


「はい」


「妖怪は邪気が集まったもので、その近くにいると生命力を奪われるんです」


「えっ!? それって死んじゃうってことですか?」


 女の子は怖いことを聞いて思わず悲鳴を上げそうになった。


「その妖怪に追われて邪気を当てられたからあなたは弱っていたんです」


「ですが、まだその邪気がまだ完全に祓われていないので」


「私は一体どうなるんですか?」


「安心してください。 ここに来たのは残りの邪気を払いに来たのです」


 女の子はベッドの横に腰を下ろした。


「では少しの間お手を拝借してもよろしいですか?」


「はい…?」


 いきなり手を貸してと言われて、女の子はどうゆうことだと首を傾げる。これが医者だったらあまり躊躇いがないと思うが初対面の相手であるため彼女は訝しむ。


 阿倍野は女の子をリラックスさせるために優しく話しかける。


「あなたの体に異常が無いかを見たいので、その間に目を瞑っていて下さい」


「それで分かるんですか? すごいですね」


 女の子は理由が分かったことで今度は頷き、阿部野の手の平の上に乗せた。


 阿部野は瞬間で人の記憶を読み取ることができる。しかし、それには対象に触れないのといけないのが難点だ。


 嘘も方便ということわざがある。いくつか阿部野はこの女の子に嘘をついた。まずは阿倍野たちは「お祓い屋」ではなく「陰陽師」だ。


 今回の事件で警察の上層部から依頼が届き、それを陰陽局が受理した。阿倍野たち二人は被害者となった女の子を調査または介抱すべくやって来た。


 刹那、阿部野は女の子の記憶を遡っていた。この数日の間に起きた濃密な出来事を念入りに……そして見つけた。


 その時に感じた痛みや恐怖を女の子から感じ取った。それから、女の子が妖怪に襲われるとこまでははっきりと見えていたのだ。


 けれど、不思議なことが起こった。


 ザザとまるで昔のテレビの砂嵐のような感覚に襲われた。この先の映像を見ることができない。


 この記憶だけがどうしても遡ることができない。何でも見ることができることに、ついさっきまで阿部野は自分の能力を自負していた。


 まるで頭の中に靄がかかっているような、無音の世界が頭の中に広がる。


 このまま時間が経過するだけ無駄か。己を律し、目を瞑ったままの彼女に阿部野はいくつか質問をすることにした。


 側でそれを聞いたもう一人の男はわずかに目を見開いた。大抵は数秒で記憶を遡ることができる後輩が手こずっている。


この男も阿倍野と同じ陰陽師で名は加茂野かもの照良てるよし。


 セミロングより長めの明るめの茶髪を一つに束ねている。フランスと日本のハーフである彼の肌は雪のように色白で二重のまつ毛も生まれつきである。


 幼い頃はさぞフランス人形のような美少女のような少年だっただろうが、口元と発する言葉で折角の美貌も台無しになる。軽薄で横柄さが目立つが、腕は一流だ。


『これは一癖ありそうだな』


 加茂野は阿部野の様子を見ながら顎をさすった。


「この部屋に入ってお医者さんとナースさんさっきの刑事さん以外は誰も来ていませんか」


「はい。 来ていません」


 阿部野は他の質問をしようとした時、女の子の声が上がる。女の子が何かを思い出したらしい。


「あっ……そういえば」


「いや…でも。 やっぱり何でも無いです」


 そう言われると余計に気になるのは人の性なのか、何かの手掛かりになると思った阿倍野は聞いてみた。


「どんなことでもいいですよ」


 優しく話しかけられた阿部野に、女の子は恥ずかしそうに話し出した。


「本当に大したことじゃ無いんですけど……」



〇〇



「一人だけかっこいいお医者さんがいたんです」


「いたってことはもういないんですか?」


「そうみたいなんです」


 ガックリした女の子はそう言うや否や、身を乗り出し思いの丈をぶつけるように喋り出した。


「だからナースさんに若いお医者さんのことを聞いてみたんです」


『あのお医者さんってカッコいいですね』


「そう言ったら、なぜかびっくりされていたんです」


「その日は若い先生はお休みだったそうで…」


「ナースの人からここにいる若い先生の写真を見せてもらったんですけど、そのお医者さんがどこにもいませんでした」


 女の子は殊更残念そうに首を振った。年頃の女の子はイケメン好きなんだな〜と「そういえば…」自分の妹もそんなことを言っていたなと思い出した。


「かなりのイケメンさんだったんですね」


「はいっ うちの学校の生徒会長の桐原君と張り合えるぐらいに」


「そんなにですか?」


女の子が聞いて欲しそうだったので阿倍野は聞いてみた。


「あっ、スマホの中に生徒会の人たちと一緒にとった写真があったはずなので」


女の子は嬉しそうに手元にあったスマホを操作して写真を見せた。


「本当に美形さんですね。 というよりもどの子も綺麗ですね」


「生徒会長も人気があるんですが、生徒会長の隣にいる副会長の新橋君って言ってその男の子も人気が高いんです」


「ほう〜 これはなかなか」と加茂野は採点した。


『どの目線から言っているんだ』と阿倍野は思ったが口にしなかった。


『…こっちの生徒会長の方はどっかで見たことがあるんだけど、どこでだろう』


一瞬考えたが阿倍野は思い出せなかった。


 「他には何かありませんか?」と女の子に質問したが、変わらずで何もビジョンを見ることができない。阿部野はここが潮時かと感じた。


「もう目を開けても大丈夫ですよ」


 目を開けた女の子に阿部野はお祓いは終わったことを告げた。数日休めば、学校に復帰できることを言われた彼女は喜んでいた。女の子からお礼を言われ、二人は退室した。


「さらに謎が増えただけのような……」


 あまり収穫がないことにはあ〜と阿倍野は思わずため息をこぼす。


「一体何者なんでしょうか?」


「このわずかな期間に日にちも経っていないのに」


「彼女がこの病院に運ばれていることを知っていなければ……」


『どう思いますか? 先輩』


 自分なりに考えを詰めて、隣にいる先輩に助言を貰おうとした矢先だった。


「って…あれ先輩?」


 先ほどまで隣にいた先輩がいないことに阿部野は驚いて辺りを見回す。


「さっきまでここに……!」


 その当人はすぐに見つかった。阿部野の視線の先に先輩がいた。


 それは別にいいのだが、その迷惑な先輩のその傍らには仕事中の白衣のナースがいて、言い寄られているナースの人は困り顔をしている。


 白い目でヅカヅカと歩き阿部野は傍迷惑な先輩の腰を遠慮なくど突いた。


「いてっ!?」


「何をしているんですか…行きますよ、先輩」


「あ? 俺はまだ用があるからお前だけかえ…いててて」


 子供のような駄々をこねる大人の男の耳たぶを阿部野は引っ張りながら歩いた。その様子を見たナースはくすくすと笑い足早に仕事場に戻っていく。


 地味に痛いのとぞんざいな扱いに憤慨した加茂野は阿部野の手を払いのける。


「いてーな。 耳が取れるだろっ」


「あなたはナースを目当てに来たんじゃありませんよね」


「はあ? 病院に来たら白衣の天使だろ」


 『この男は』本当にそんなことを言っているのが正気を疑いたくなる。だが言っていることは如何せん、本当のなのが余計に癇に障り始末に負えない。


 どうしようか考えあぐねていると、今度は先輩が生意気な態度をとる後輩にいちゃもんをつけてきた。


「昔はあんなに可愛げがあったのにな〜」


「……いつのことを言っているんですか」


 すぐに阿倍野は反論した。なにせ彼とはもう20年以上の長年の腐れ縁で年も近い。そして彼のことをよ〜く熟知しているつもりである。


 当時は憧れていたが、ある事がきっかけで跡形もなく消え去った遠い過去を無性に放り投げたくなる。


 最悪の出会いである黒歴史が頭によぎりそうになり阿倍野は頭を振る。加茂野は落ち着かない彼の様子に慮る。


「カリカリしているな〜 まあ〜お前が読み取れないなんてな」


「ええ それはもう悔しいですよ」


「あ〜 これで何回目だろうな」


「その医者の男はご丁寧に被害者の邪気がきっちりと祓われていて、俺たちの面目立たなかったしな」


「はい。 分かっているのは同業者の可能性が高いのと不思議な音だけなんて」


 加茂野は阿部野が話した言葉に疑問を感じた。


「うん? 音ってなんだ?」


「わずかですが……聞こえたんです」


 女の子の記憶を読み取り、ノイズに混じった怨嗟を含んだ声音その前に不思議な音色。


 あの音色は…聞き慣れた。


「下駄……?」


「その音が下駄の音に似ているのか」


「はい。 確かにあの音です」


 阿部野の実家は京都にある。夏の時期は祖父が下駄をよく履いていることが多かったため、その音で祖父が来たことを分かったものだと思い出した。


 それに夏祭りになると下駄を履いているものが多くなる。


「なるほどな〜」



 加茂野はうなづいた。隣に歩く彼をまた何処か行かないかと見張りながら、二人は乗用車がある駐車場に行き、今日の調査報告をするために自分の仕事場である陰陽局に向かった。


 車の中で加茂野がポツリと言ったが、阿部野は気にせず運転に集中していたので表情は見えない。


 普段とは打って変わって、窓の外を眺める加茂野の目はどこか遠くを睨みつけるかのように鋭かった。


「オカゲ様か……」


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