プロローグ――完
気が付くと、一人古いカッフェのテーブルにかけて目の前の珈琲を見つめていた。
クラシックな内装とどっしりした家具で統一された、落ち着いた雰囲気の店内。薄暗い店内に、客は俺一人。不思議な石を見つめて、深い森の中に行ったように思ったが、あれは幻想だったのだろうか?
窓の外を見ると、もう雨は降っておらず、薄暗くなっている。外の景色はおぼろげに窓に映る。珈琲を口に運ぶと、やはりそれは冷たくなっていて、この場所に来てからの時間の経過を物語る。
けれど、いったいどれくらいの時間が経ったのだろう?珈琲は既に冷たくなっている。室内にある大きな掛け時計を見ると、もう六時近い。
いつの間に、こんなに時間が経ったのだろうか?少なくとも、俺がこの店に入ったのはまだ四時より前だったはずだ。ということは、二時間近くもこの店にいることになる。しかし、そんなに長くこの店にいた記憶は無いのだ。
とすると…やはり、あのヘルメスと名のった男が現れて、よく判らない場所へと連れて行かれたのは、単なる幻覚ではなくて事実だったのか…。いや、居眠りをして、この椅子の上でそんな夢を見ていただけということも有るかもしれない。そうだ、そう考えた方が、常識にかなっているじゃないか。
そこまで考えて、俺は席を立ち、会計を済ませて店を出た。