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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
9.然も云はざりけるに
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9-16


「夢姫! 今のは、一体……?」

「分かんない! 多分わんころの心の中? に入って、死ぬまでの記憶っぽいの見て、気が付いたら出て来られた!」

「……僕が言うのもなんだけど、いつにもまして君の言葉(さえずり)が心に届かないよ、夢姫ちゃん」


 親友の無事な姿を前に安堵する気持ちと、薄気味悪さの余韻を同居させたまま、桔子が駆け寄ると、そんな心配も裏腹に夢姫はボディービルダーのように、両腕を持ち上げてはなけなしの筋肉を堅くする。

 桔子と心は同じだったのだろう、表情を曇らせて首を傾げる刹那を横目に、摩耶は小さく息をつくと、夢姫の後ろ姿を見つめていたのだった。


「水瀬夢姫の……あの者、想像していた以上に“心”が――」



 ――摩耶の紡ぐ、どこか不安げに揺れる言葉はその場にいた誰にも届くことは無い。

 少女の赤い瞳に映るのは、獣に取り込まれかけていたとは思えないほどにはつらつとツーテールの黒髪を弾ませる元気すぎる夢姫の姿だった。


「この化けぐるみめ! せーばいしてくれる! ハラキリゴメンだし!」


 取ってつけたようにちぐはぐな言葉を紡ぐと、夢姫は時代小説のヒーローのように手のひらをかざす。慣れた様子で意識を集め、その手に黒い杖を取り握り締めた。


「ほえ? ……こんなに大きかったっけこれ」


 相変わらず杖自体に重みなどの質量を伴う感覚は無い。だが、その風貌は先程までとは少し異なり、具体的に言うならば杖先の装飾が増えているように見えた。


「……まーいっか! イメチェンね!」


 元来より深く考え込まない性分の夢姫は“これもこれであり”と判断したらしく、改めて杖を構え直すと訝しげにその様子を伺っていた刹那や桔子と視線を重ね、微笑む。

 視線が重なった二人もまた、“今は考えている場合では無い”と言う結論に至ると頷き、各々の道具を手に構え直したのだった。


 ――腹を大きく引き裂かれた獣……致命傷と言って然るべき裂傷であるはず。

 だが、もがき苦しみながらも四本の足で地面を踏み鳴らすその姿は、“死”に抗う、と言う必死さは感じられず、作られた偶像のようにリアルさに欠けたものに見える。


「なるほどねー……ねえ、やっぱりそうだよ! 多分、あいつは優菜が飼ってたわんこのふりをしてる別のものだよ! あたし、さっき分かったんだ! 優菜のわんこはずっと前に死んでる。あんな人間イートイン(丸呑み)するようなモンスターじゃなかった!」


 先程、自身が耳に覚えてきた情景を思い返し、夢姫は大柄な杖を突きつける。


 ――そう、夢姫が受け取った記憶の中の“ライタ”はきっと優菜を最後まで守ろうとしていた。寄り添い、共に歩いていたのだ。


「違う! ライタくんの事知らない癖に、適当な事言わないでよ“おばさん二号”! ……この子は、姿が違っていてもライタくんだもの……! ねえ、ライタくん……」


 少し離れた場所に倒れていた優菜は、震える足に鞭を打ってようやく立ち上がると声を張り上げた。

 ……だが、“ライタくん”は優菜の方を見ようとはしなかった。

 まるで、“命をかけて守り抜いたはずの優菜よりも優先すべき事象がある”と言わんばかりに。


 夢姫が切り裂いた腹部からは、ドロドロとした黒い液体がまるで血のように流れ落ち続けている。

 その影響が出ているのだろう。“ライタくん”は先程までより確実にその動きを鈍らせていた。


「――もう足を引っ張るなよ、馬鹿女!」

「元々あんたよりは役に立ってたもん! 馬鹿佐助!」


 いつもの調子で憎まれ口を置き土産に、佐助は優菜の行く手を阻む。

 その言葉を合図に、夢姫は獣の頭目掛けて天高く掲げた杖を振り下ろした。


「君達は本当によく喋るね……舌を噛まないか、心配だよ!」

「それ、そっくりそのまま返して良いですか逢坂さん」


 夢姫の黒い杖は先程までと同様に手ごたえの欠片も無いまま、空を切る音だけが辺りに響いた。

 だが、弱り始めた獣には多少の影響があるのだろうか、実体を伴わない黒い体は蜃気楼のように光との境目を揺らめかせ、鳴き声を轟かせた。


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