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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
9.然も云はざりけるに
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9-12

 “マズハ、チカキココロヲ”


 “ライタくん”が両手を自身の腹部に宛がうと、その小さな体の芯からわき上がるようにして黒い靄が溢れだす。

 それはやがてぬいぐるみを包み込むと次第に肥大して行き、瞬く間に見上げる程の巨体を成していった。


 体が大きくなりすぎてしまったのだろうか、人間のように二本足で立っていた“ライタくん”は、自らの体重に耐えきれず前のめりに倒れ込むと、猛獣のように四本の足を打ち鳴らす。

 口を大きく開けるとよだれのように粘着質な“ま”が黒々と地面に滴り落ちた。


「夢姫、気をつけて! こっちに来る!」


 獣のような姿へ変貌した“ライタくん”をまじまじと眺めていた夢姫の意識を削ぐと、桔子は鏡面に手をかざす。


 “鏡”は、桔子の心に応えるように表面に黒い靄をにじませると、傷も癒えていない手指を包み込み――やがてそれは先刻、夢姫と対峙した時に手にしていたような“刀”の形へと変えた。


 “ワレカラソギトッタココロヲツカウカ、コザカシイ”


 四足の獣が口を開ける仕草で頭の部分を大きく裂けさせると、咆哮のように心臓を掴む轟音が頭に響く。

 大きく裂けたその口の奥には漆黒の闇が広がり、対峙していた桔子は刀を強く握りしめた。


 時を同じく、すぐ近くにいた夢姫もまた黒い杖を強く握りしめると、打席に立つバッターのように杖を横に構える。


「これでもかじってなさい!」


 口を大きく開けた獣の横っ面を殴るつもりで杖を振り抜いた夢姫であったが、手ごたえはまるでなく、杖はただ素振りをしたかのように風を切った。


「――夢姫!?」


 勢いがあまり、杖に振り回される格好になった夢姫がバランスを崩しよろめいた瞬間。僅かな隙も見逃さないと言った様相で獣は前足を大きく持ち上げると夢姫を踏みつけようと振り下ろす。


 だが、それは寸前でその懐に飛び込み獣の脇腹を切り付けた桔子と、夢姫を庇って白い杖一つで押さえつけた摩耶の手によって事なきを得たのだった。


「きいちゃんがカッコイイ」

「どうも。……それより」

「攻撃が効いてない……? 無敵なの?」

「少し違う。……本体は今見えているよりも“小さい”と言うことだ。恐らく――」


 脇腹を切られた感覚は多少残っているのか、獣はもう一度前足を持ち上げると大きな体を反らせて桔子に対し間合いを取る。

 桔子の手にしていた刀からは、粘着質な“ま”が滴り落ち、その手ごたえを確かなものにしているようだ。


「痛い痛い痛い、痛い、痛い!! おばさんなんでライタくんに酷い事するの!?」

「きゃ!?」


 桔子が切っ先を振り払い、刀に纏わりつく“ま”を地面に溶かす一方――まるで自分が切られたかのように悲鳴をあげた少女は苦悶に表情をゆがめたまま全体重を預けて掴みかかる。


「この……! さっきから言わせておけば!」


 少女が幼く、また華奢であるとはいえ、油断していたがゆえに跳ね返すことが容易では無かったようで桔子は尻もちをついてしまったようである。


「いい加減にしなさいこのクソガキ!!」


 だが、一瞬油断してしまっただけで、すぐに冷静な判断力を取り戻した桔子は圧し掛かる優菜の頭目掛けて頭突きをして見せると、その一撃で目をやられたようだ。

 顔を抑えて呻き声をあげた少女の腹部を蹴りあげ、桔子は間合いを取った。


「十代は、まだ全然おばさんじゃない! 覚えておきなさい!」

「……よ、容赦ない。ツナっち、ねえ。きいちゃんが怖い」

「き、きっと修羅場を超えた強さ、だよ……多分」


 地に伏した優菜と、埃を払う桔子とを見比べながら呟いた夢姫を守るように、刹那が歩み寄る。

 ――そんな二人を、振り向いた桔子が鋭く睨むと、蛇に睨まれた蛙の如く言葉を失った刹那はぎこちない笑みを返す他無くなってしまったのだった。


「何か仰いました?」

「……い、いや何でも、ない」


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