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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
2.日当らざる故に
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2-5


「ふん、最初から大人しく黙っておればよいのだ。話はついたな、馬鹿女は大人しく家に――」


 クララが三皿目となる“みたらしにゃんこ”を夢姫の前に添える傍らで、佐助は鼻で笑い夢姫を追い払うようにジェスチャーをしてみせる。

 声にならない声で悔しさを滲ませる夢姫を横目に、和輝は“今度は取られない内に食べよう”と静かににゃんこが積み上げられた皿を自分の前まで引き寄せた。


「……お土産くらい持って来なさいよね」

「お土産って……水瀬、“ま”でも持って帰ってきて欲しいの?」

「うううるさい! だってつまんないもん!」

「はあ……」


 ともあれ、今回は穏便に話がまとまりそうだと和輝は息をつき、手に持ち続けていたつまようじを頂点に君臨するにゃんこに突きつける。

 団子特有の弾力のせいだけでは無い、自身の心の迷いが切っ先を惑わせ……中々うまく刺さらない。


 意を決しつまようじをまっすぐ突き刺したその瞬間――

 ――来客を告げるベルが外の穏やかな風を運び入れた。


「きょーや!」


 夢姫が甲高い声で呼びなれたその名前を呼ぶと、つられたように和輝達も視線を辿る。

 そこには明陽学園指定の制服に身を包み、きっちり編み込まれた三つ編みのおさげと前髪をてっぺんで結んだ眼鏡の少女――

 風見(カザミ) 梗耶(キョウヤ)の姿があったのだった。


「きょーや、帰りいなかったでしょ? どこ行ってたの~あたし探したんだから!」


 椅子を倒しながら立ち上がると、夢姫は頬を膨らませ梗耶の元へ駆け寄る。

 逮捕された犯人のように両腕を掴まれた梗耶は和輝と佐助へと視線を投げ、、何故か申し訳なさそうに頭を下げていた。


「……ちょっと、カフェに連れ出されまして」

「カフェ? 誰に……」


 梗耶の挙動に猜疑の視線を投げていた和輝は、すぐに頭を下げた意味に気付き乾いた笑みをこぼす。そう、梗耶のすぐ後ろに……標準的な体型の彼女では隠しきれない恰幅の良い女生徒、香奈の姿を見つけたからであった。


「あっ……ひ、灯之崎君もいたんだね……!」

「……俺の家なんで」


 軋む足音と共に小走りで駆け寄ってくる香奈……彼女の視界からさりげなくみたらしにゃんこを隠すと、和輝ははにかむ笑顔に苦笑いで返す。

 恋は盲目と称すべきか、そんな和輝の困惑に気付く事もないまま香奈は先程倒されたままとなっていた椅子を優しく元の位置に戻すとさりげなく和輝の隣を陣取ったのだった。


 隣に座られて困る理由がある訳でもなく、和輝は出来るだけ平静を装うと目があった香奈に愛想笑いを返す。

 だが和輝とは対照的に歯に衣着せない性分である佐助が黙っていられるはずもなく……頬杖をつき不機嫌を前面に表すと、分かりやすいため息を落とした。


「……いつぞやに邪魔をしてくれたデブか。と、言う事は日本語が通じないブスも一緒か?」


 佐助が言いたいのは、香奈がいつも一緒に行動している恵子の事であろう。

 実際、香奈はお世辞にも細いとは言い難い体型であるし、恵子も器量の良い顔立ちでは無い。……だが、それにしてもストレートすぎる佐助のもの言いには隣で聞いている和輝の方が心臓が痛くなる思いをしていた。


「え? デブ……ブス……」


 流石にどストレートに言われた事は無かったのだろう。香奈が要領を得ないと言う様子で首をかしげていると、もう一人……梗耶のあとからついて来ていたらしい少女が佐助の隣のソファ席に腰かけ、足を組んだ。


「恵子は学校を休んだわ……精神的にショックな事があったみたい」


 川島(カワシマ) 瑞穂(ミズホ)――同じく梗耶のクラスメートにして、恵子、香奈の二人と大の仲良しの少女だ。

 校則違反の丈の短いスカートの裾から白い足を覗かせると、普通の女子に耐性が無い佐助は視線を逸らしていた。


「ほへー? ハートブレイクなの?」


 話に加わりたかったらしい夢姫は拘束していた梗耶の腕を片方だけ解放すると、そのまま連れ立って一団の元へ歩みよる。

 そんな夢姫と視線を重ねた瑞穂は、そのままスライドさせ梗耶と顔を見合わせ……やがて足を組み直し口を開いたのだった。


「“疫病神”の噂は聞いている?」

「うん! さっき佐助から聞いたわよ!」

「だったら話は早いわね。……その、疫病神に襲われた、って言う女の子……それが実は恵子なのよ」

「あんなブスを襲うのか、物好きもおるものだな」

「……好みなんて人それぞれよ」


 瑞穂が、自身の知る限りである一部始終を紡いでいるその一方で……両手の自由を手に入れた梗耶は息をつくと夢姫から離れ、近くの席から椅子を運ぶと瑞穂の斜め前、和輝の右隣の方に座る。

 それと同時に、先程自身の陰に隠していたにゃんこ達が見つかってしまい……心なしか目を輝かせたように見えた梗耶の視線に耐えかね、和輝はにゃんこが積み上げられたままの皿を梗耶に差し出したのだった。


「……これ、写真撮っても良いですか」

「もう好きにしてくれ」



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